人を選ぶ技術

【概要】

  • 著者:小野 壮彦
  • 発売日:2022年11月21日
  • ページ数:296ページ

本の目次

  • 序章 「人を選ぶ」ということの意義
  • 第1章 「人を見る目」を分解する
  • 第2章 人を「階層」で捉える
  • 第3章 相手の本質を見抜く実践メソッド
  • 第4章 人を見る達人となるための知恵
  • 第5章 地雷を踏まないための知恵
  • 第6章 人を選ぶ現場で今起こっていること
  • 終章 「人を見る力」がもたらす究極の喜び

【結論(1番の訴求ポイント)】

「人を選ぶのはセンスではなく技術」

入社した人材が思ったような成長をしてくれない。採用してみて分かったが、性格が社風に合わない人だった。面談時の印象と実際入社してからのパフォーマンスが全然違ってた・・・

中小企業の採用担当や役職を持っている人なら、このような経験は1度や2度ではないでだろう。これは特定の業界や人達の問題ではなく、多くの人が経験している事でもある。

横領などが発覚した時に出てくる、「そんな事をするような人には見えなかった」というコメント。

これはもはや定番のような文言だが、それほど人の能力を判断するのは難しいという事の裏返しでもある。面接時には自分の良い面をアピールしようとしているので、どうしても本質的な面がマスクされる。しかも優秀な人ほどマスクするのが上手い。しかし優秀な人でも一定数で悪い人がいる。それを判断するのが難しいのだ。

しかしよく深掘りしてみると、採用のプロセスがあやふやだったりする事も少なくなかったりする。本書は今まで「なんとなく」でやっていた採用や、その人の潜在ポテンシャルを判断するのにどのような項目を確認したらいいかを言語化した、採用(人の見方)について1歩踏み込んだ内容になっている。そしてこの技術は先天的な能力などではなく、後天的に身に付けられる技術だとも言っている。

【ポイント】

人を2軸に分類する

本書では人を「優劣」と「善悪」の2軸で分類しており、以下の4パターンに分けている。

  1. 優秀で善い人
  2. 優秀だけど悪い人
  3. 能力は低いが善い人
  4. 能力が低くて悪い人

この中で採用を避けるべき人材グループがあり、まずはそこを見極める能力が必要だと言っている。では避けるべきグループゾーンはどこか。4番目は分かりやすいので一般的な採用手順を踏んでいれば避けられるだろう。このゾーンの人は百害あって一利無しになる。ミスを頻発して改善できない、また会社の備品などを持ち帰ってしまうタイプの人間がここに該当する。

普通であれば、次に避けるのは3番目だと思われるが、実は2番目だと言っている。

2番目の人は優秀が故に頭の回転が早いのだが、それが悪い方向にも使われてしまう事もあるかららしい。まだ優秀さが評価されている場合はいいが、自分の能力以上の業務内容であったりすると、その優秀さを間違った方向に使い始める。具体的には、社内で派閥や徒党を組んで、上層部の批判をするといった事だ。これは企業にとっても良くない状態であるのは明白だろう。

2番目のような高スペック人材が来ると即採用したくなる気持ちも分からなくはない。これが人手が不足しているような時なら尚更だろう。

しかし、あくまで採用するのは1番目と3番目のゾーンの人を中心にした方が良い。どうしても2番目の人を採用しなければいけない時は、期間限定やプロジェクト単位での採用にしてみるのが良い。

人の階層を見る

ではどうやって善い人/悪い人を判断するのだろうか。それには人の各階層の中身を確認してみる事が重要だ。また階層を確認する事で、その人のポテンシャルを判断する材料にもなる。本書では階層判断には次の4つに着目すると良いと言っている。これは4に近くなるにしたがって、その人の本質的な面になってくる。

  1. 経験、知識、スキル
  2. コンピテンシー
  3. ポテンシャル
  4. ソース・オブ・エナジー

この中で1番目については、履歴書や面接で確認している施設が多いだろう。2番目のコンピテンシーとは行動特性という意味だが、これが分かる事で、その人がどんな行動をする傾向なのかが分かってくる。ではこの行動特性をどうやって判断していくのか。

コンピテンシーを判断する材料
コンピテンシーは大きく3つに分類できると言っており、それは次の3つになる。変革志向、成果志向、戦略志向の3つだ。

この3つを確認する事で、その人が目標に対して、どのように考え行動するのかが分かる。変革志向であれば、業務の抜本的な変化を厭わないかもしれないし、成果志向なら何が何でも結果を出すような努力をしてきだろう。

本書にはこの3つの他に顧客志向、市場洞察など6つの細分化した項目も記載しているが、最初はこの3つの判断だけでも十分である。このコンピテンシーを確認するコツは、過去の体験、経験を事実ベースで聞く事だ。

その人が過去にどんな事を経験してきたのか、それは自分が主体となってやったのか、誰かのサポートの形で担当したのか、を事実ベースで深掘りする事でその人の傾向が分かるとある。重要なのは過去の実績ベースで確認する事だ。冒頭の社風に合わない、期待していたパフォーマンスではなかったというパターンは本項のミスマッチによる面が大きい。

ポテンシャルを判断する材料

本書ではポテンシャルを伸びしろというふうに言っている。1番目や2番目が過去の実績、つまり現時点での能力を判断するのに対して3番目はこれからどれだけ成長する余地があるかの判断になる。このポテンシャルを判断するのには、好奇心、洞察力、共鳴力、胆力の4つが重要で、この中で全てのベースとなるのが好奇心になるらしい。

人が仕事で成長するという事はどういう事か。それは新しい能力や経験を得る事である。その為には新しい事にチャレンジする事が必要なのだが、それには何が必要だろうか?

答えは好奇心である。

好奇心が無いと新しい事を取り込む事が無くなり、現状維持になってしまう。

つまり、どれだけ洞察力、共鳴力、胆力があっても、それは現時点の能力の延長線上であり、ポテンシャルというこれからの伸びしろを測るのには、好奇心が必要という事だ。

最近、何か新しい事にチャレンジしたかどうかを聞いてみると良い。数年単位で何もなければ、好奇心が無いが、元々はあったが今は少なくなっているかのどちらかだ。ただ採用するポジションや年齢によって、ポテンシャルに対する考え方はもちろん変わってくる。

ソース・オブ・エナジー

これは個人の使命感と劣等感というふうに記載されている。これはその人の根っこにある部分で、外側に向けたものが使命感、内側に向いているのが劣等感との事。ただこれはどちらかがダメという事ではなく、どちらもエネルギーの源になる事があるらしい。

ただ個人的には、ごく限られた1部の人を除いて、この辺りまで自己分析している人は少なく、かつ本人も分かっていない事が多いので、一般的な面接では、それっぽい事を聞ければ御の字という感覚が近いだろう。この面がハッキリしているのは、起業してしまう事も多いのではないか。

【個人的補足】

能力の高い低いに関係なく、悪い人は一定数いる

現状、多くの組織で人を選ぶ為にはスキルや知識に偏りがちなのは否めない。本書はそこからもう1歩踏み込んで、今まで感覚で選んできた事を言語化したものである。

日本のように解雇条件が厳しいと、採用失敗のダメージリカバリーに多くのリソースを使う事になる。一時期多く出現したSNSに迷惑動画をアップしてしまうバイトは、上記でいうと2番目か4番目になるだろう。特に本文中に記載してあるが、4番目を見つけるのはそれほど難しくはない。ただ2番目は一見、優秀なので判断が難しい時がある。この辺りをコンピテンシーを参考にする事で、多少のリスクヘッジは出来るのではないかと思う。

また相手の無自覚の反応を見逃さない事も重要で、無自覚という事は繰り返す可能性が高いという事、つまり再現性がある事と言える。

この無自覚の反応が良いパターンであれば問題無いが、悪いパターンだとゆっくり、かつ着実にダメージとして残る。例えば、表情なんかがそうだ。本人的には笑顔のつもりでも、端から見れば全然笑っていない(時には怒っているようにさえ見える)事もある)。これは本人が無意識なのでどうやっても防ぎようがない。

業種がサービス業だったりする場合は致命的になるだろう。

本書には更にケーススタディやTipsが記載されており、読み返す度に新たな気づきがある書籍になっている。

コンピテンシーと無自覚の反応、これらを念頭に、採用に関係する人は一読する事をお勧めしたい。