優れたリーダーはなぜ「傾聴力」を磨くのか

【概要】

  • 著者:林 健太郎
  • 発売日:2022年6月29日
  • ページ数:231ページ

本の目次

  • はじめに 「聞けなくて」悩んでいるリーダーたちへ
  • 第1章 なぜ、上司に「傾聴力」が求められるのか?
  • 第2章 なぜ、部下の本音を聞き出せないのか?
  • 第3章 部下の話を聞くときの心かまえと実践法
  • 第4章 部下の本音を引き出す「聞き方」の手順
  • 第5章 上司と部下の関係性による落とし穴とその対策
  • 第6章 上司の「自分の声」の聞き方
  • 第7章 「部下以外の相手」の話しの聞き方
  • おわりに 「傾聴力」が、社会のインフラになる日

【結論(1番の訴求ポイント)】

人の考えや価値観は聞かなければ分からない

相手の考えが100%分かる人なんていない。考えなんて随時変わっていくし、時に真逆の考えになったりもする。相手の事が分かる能力があったらどれだけ生きていくのが楽だろうかとさえ思う。人間は集団で生きていくものであり、そのためにはコミュニケーションが必要だ。相手が何を考えているのかが分からない、それを知って自分の考えも伝える必要がある。だから言葉というものが発達したのだと思う。

相手の考えを知るには聞く力が必要だ。喋る方ではない。世間ではこれを「傾聴力」と言ったりする。人は特に障害を持っていない限りは、基本的に話す事が出来るし、また聞く事も出来る。ただ聞くに関しては、聞くというよりは聞き流していると言った方が正しいかもしれない。

本当に相手の言葉を聞くには、傾聴力が必要になるのだ。

【ポイント】

相手を知るには聞く事が重要

会社員をやっていると毎年達成目標が降ってくる。これを達成するために日々仕事をしている訳だが、ある一定の規模になると、どうしても自分1人では達成が難しくなってくる時がくる。その時に部下や同僚と協力しながら目標達成していくのだが、ここで必要になるのが部下に達成目標をどう腹落ちさせるかという事だ。

その為に定期的に面談の日程を組んで目標の説明は共有を実施しているチームもあるかもしれない。しかしその面談が有効に働いているケースはそう多くないと思われるのが実感だ。

なぜ面談が有効に作用しないのか?

面談と聞いて、どんなものを思い浮かべるだろうか。会議室に1対1になり今年の目標やその理由について懇々と説明される。こちらの意見を挟む余地は無く、質問もしずらい雰囲気だ。説明の最後に質問はあるか?と聞かれるが、とても質問できる雰囲気ではない。

大抵の人は、このようなものをイメージするのではないか。

実際には1on1のやり方などが書籍などで解説されてきた事で、改善されてはきていると思う。しかし、それでも上記に近い事をしている施設は少なくないだろう。特に50代以上の年配の上司がいる中小企業はその割合が多いように思える。

本来は達成目標に対して、相手の考えを聞き、腹落ちするような形で設定していく。これが理想だ。そしてこれを行うにあたって必要なのが相手の話しを聞く能力になる。この聞く力が無いと、相手は話してくれないし、何なら上記で書いたような、上司が一方的に話して終わりというケースになってしまう。

重要なのは、相手も納得(腹落ち)する形での目標設定なのである。

人は聞けているようで聞けていない

人は意識しなくても、相手が話した言葉を聞いている。正確に言うと、聞き流している。この聞き流している状態を、聞いていると認識している人が多いように思える。

実は聞くというのは、体力や集中力が必要だ。多くの人は話や言葉の受け取り方が上手くない。相手の非言語的コミュニケーションも見逃さない事が必要になる。それをふまえて適切なリアクション(相づち)などが出せているかは勿論の事、相手の話がただの不満なのか、それとも提案なのか、事実なのか、解釈なのか、この辺りを分けて聞く必要がある。聞く力が低い人は、この辺りを区別しておらず、ごちゃ混ぜにしてしまっている。だから相手が何を言いたいのかの本質が見えてこない。

相手の言葉や発言の裏にどんな意味が含まれているのか、相手は聞いて欲しいだけなのか、それとも答えを求めているのか、この辺りを考えながら聞くのが必要になるのだ。

また質問力も必要になる。相手が一方的に話しているだけだと情報に偏りがでる。それを質問という形で情報を補填していく。そして得られた情報を参考に、相手の真の価値観や意図を探っていく。これが聞くという事だ。そしてこれは、一般的に傾聴力とも言われている。

傾聴は最初の内は意識しないと難しい。でも多くの人はそれが出来ていない。だから的を得ていない発言をしてしまうのである。俗に言う、「そうじゃないんだけどな」という状態である。

不足している心理的安全性、聞く力、非言語関知能力

相手が話しをしてくれるには条件がある。それは心理的安全性があるかどうかだ。

心理的安全性とはグーグルがプロジェクト・アリストテレスで発表したものだが、簡単に言うと、「自分の意見を言う事が出来る環境かどうか」という事である。

これにはいくつか条件が必要になる。まず絶対的に必要なのが、相手(発言者)の意見が否定されない環境であるかという事だ。

相手側の心理として、勇気を持って発言するには承認してもらいたいという欲求がある。これを承認欲求と言ったりもするのだが、ここで問題になるのが、後輩や部下が発言する内容の答えを上司側が持っている事が多い事だ。

人は答えを知っていると教えたくなる。まして部下や後輩が間違った発言をしてこようものなら尚更だ。なぜなら、そっちの方が部下のためになると考えるからだ。しかしこれは、上司側の自己満足の面も多い。答えを教えるというのは短期的に見れば効果的かもしれない。ただ長期的に見ると、自ら考える経験、つまり自主性を奪ってしまっているという事でもある。

実際のケースで考えてみると良く分かる。

チームの課題として「効率化」があったとしよう。その中である若手が業務改善案を思いついたとする。事前検証してみると上手くいきそうで、多少なりとも改善が見込める。なので1週間後の会議で勇気を持って発言してみた。その時の雰囲気が、「なに言ってるんだ?コイツ」のようなものだった。そこで上司が一言、「それは〇〇という理由で無理ですね、以上。」

これでは次回から発言はしないようにしようと思うのは無理はないだろう。確かに若手が思いつくアイデアはレベルが低いかもしれない。しかしそれを否定してしまったら、その後が無くなるのだ。上司に必要なのは、どんな意見でも一端は受け入れるという雰囲気を作る事だ。何を言っても否定されない雰囲気、これが心理的安全性に必要な条件の1つだ。

非言語関知能力

また非言語関知能力も重要になる。人は言葉よりも仕草に本音が現れやすい。分かりやすい例で言うと、体が前のめりなら興味あり、後ろに仰け反っているようなら興味が無いか反対意見があるというパターンだ。相手が沈黙していても、それはどんな意味での沈黙なのか。熟考しての沈黙なのか、答えに詰まっている沈黙なのかで対応する方法が変わってくる。このような非言語情報関知能力も必要なのだが、以外とこれも見逃してしまっている(出来ていない)人が多い。

言葉と本音は違う事は以外と多く、むしろ違う事の方が多い。

【個人的補足】

傾聴はあくまで手段

個人的には、傾聴はチームの目標を達成するために行うものだと思っている。つまり結果に結びつける必要があるという事だ。人は10人いれば10通りの価値観があり、考え方も違う。これらの人達をまとめて同じ目標に向かわせるのが上司の役目になる。ただこれは言うのは簡単だが、実行するのは難しい。

それを可能にするための技術の1つが傾聴力なのだと思う。

また上司は傾聴力だけじゃなく、生産性もセットで考える必要がある。実は傾聴力がつきはじめた段階で陥る罠の1つに、相手の話が止まらないという状態がある。相手の話しが続くので、聞く気になればいくらでも聞けるのだが、業務中におこなうのであれば業務に関係する形にしなければならない。ぜひ、コミュニケーションコストを意識してみよう。

本書には上記で話した内容の他に、相手をハーマンモデル(右脳、左脳と理論的と本能的の2軸に分類したモデル)を参考にして分類したり、効果的な合いの手の4パターン(そうなんですね、というと、他には、もう少し詳しく)などや、実際のケースが記載されている。

また自分の声を聞くためにはどうすればいいかという項目もあるので、興味がある人は是非読んでみるともっと新しい発見があるかもしれない。