最高のコーチは教えない

【概要】

  • 著者:吉井 理人
  • 発売日:2018年11月15日
  • ページ数:269ページ

本の目次

  1. はじめに
  2. なぜ、コーチが「教えて」はいけないのか
  3. コーチングの基本理論
  4. コーチングを実践する
  5. 最高の結果を出すコーチの9つのルール
  6. おわりに

【結論(1番の訴求ポイント)】

最高のコーチは教えない

コーチと聞いてどんなものを想像するだろう。マラソンや陸上のコーチ、野球やサッカーのコーチ。他にもいくつものコーチがある。これらに共通するのは「何かを教える人」という事ではないだろうか。

本書ではコーチは教える人ではなく、気づかせる人だと言っている。

確かに育成にあたって、やらされで実施するよりも自分で気が付いて改善したりする方が成長のスピードは速い。しかし言うは易く行うは難しである。著者はこのコーチングについて大学院で学び直し、その理論を自分流にアレンジし現場に落とし込んでいる。

育成にあたってコーチがやるべき事が、自分事化だ。これが出来てるか出来てないかで本人の成長度合いが全然違ってくる。この差は意外と大きい。

ちなみにコーチの語源はハンガリーのコチという町に由来していて、ここでスポーツ指導者をコーチと呼ぶのが始まりだと言われているらしい。

少し脱線してしまったが、本書のタイトルと結論が一致してしまうような、これほど的確なタイトルも少ないのではないか。部下がなかなか育たないと悩んでいる管理職は1度読んでみるのもアリだと思う。

【ポイント】

成長の度合いは、「教える事」<「気づかせる事」

同じ事を教えていても全然成長スピードが違う事がある。これは育成や教育をした経験がある人なら誰しも経験した事があるのではないだろうか。

これは元々のポテンシャルが違う場合もあるが、いわゆるエース級の人は入社直後から目立つような成果を出す。そうではなく同じような能力と思っていたはずの2人が半年後や1年後には大きな差がついてしまっていたりする。その人次第と言ってしまえばそれまでだが、コーチの能力次第でその差が小さくなったりする。

ここでコーチが知っておき、かつ意識しておかなければならない事がある。それは人が成長するスピードは教える事よりも、気づかせる方が断然早いというという事だ。少し深掘りしてみよう。

人が成長する時に必要な事は何だろうか?知識を習得するのは勿論の事だが、大きいのは本人の姿勢だ。これはマインドセットとも言えるが、成長が遅い(ゆっくり)な人は総じて受け身の姿勢である事が多い。一方で成長が早い人は自分んで考えるし、質問もよくしてくる。つまり行動が自発的なのだ。自発的に動くという事は、自分の仮説のもとにトライする事が多い。

ここをこう変えてみれば上手くいくのではないか?のようなイメージだ。そこから得られる経験も必然的に多くなる。

一方で受け身の人は仮説思考が出来ていない。なので出来なかった時に他責思考になる事が多い。コーチの言った事が悪かったんだ的な発想だ。これは失敗に向き合えていない状態とも言える。これが成長スピードに差が出る原因だ。

教えるという事は、そこに上下関係が存在する事が多い。つまり強制的な意味合いが含まれている。だから教えられたから実施するしかない。これには本人の納得の有無は関係していない。なので受け身になってしまう事がほとんどだ。

しかし気づかせる場合は、その強制力が無い。やるやらないを自分で決めるしかない。なので自分事化するしかないのだ。自分事化すれば自分で解決するしかない。

コーチはいかに教えずに、気づかせるかが重要な仕事だ。理想を言うと、相手が勝手に気が付いて成長しているまでになるとコーチのやる事はほとんどなくなる。

コーチは自分の言葉の重みを知るべき

自分が若手で下っ端だった頃を思い返すと、上司や先輩の言葉の影響は大きかったのではないだろうか?特に右も左も分からない状態での先輩の言葉の重みは想像以上に重い。この事を上司は知っておくべきだ。上司の言葉で相手の将来に影響が出る。つまり上司の言葉次第で成長したり停滞したりするのである。

ではなぜ重いのか?それは上下関係が存在するからだと著者は言っている。この上下関係が強調される事でプレッシャーをかける事になる。また強制的な指導は本来の目的やモチベーションを奪ってしまう。余計なプレッシャーによる、モチベの低下。このように間違った指導は、相手にとって何のメリットも無いのである。

また上司の余計な一言が、相手の集中力を奪ってしまう事がある。子供の頃に珍しくやる気が出て、「宿題でもやるか!」と思った時に限って、親から「宿題したの?」と言われてやる気をなくすヤツと思ってもらえばイメージしやすいだろう。

声を掛けるタイミングも重要なのだ。なのでコーチは部下の事を普段からよく観察しておく必要がある。

コーチが教えたい事と、それが相手に合っているかは別問題

自分が若手の頃に、こんな事は無かっただろうか?

「先輩の言っている事は分かるんだけど、なんとなく納得できないな」

これは言われた事に対して腹落ちしてない証拠だ。腹落ちとは、言い替えると「自分なりに解釈できているかどうか」、つまりやる目的や意味を見いだせているかどうかとなる。ここでも上司のコーチスキルが必要になる。

上司は基本的に自分の経験から得られた事の中から相手に有効そうな事を教える。ただこれは相手が知りたい事ではない可能性がある事を常に考慮しておかなければならない。

相手に腹落ちさせるには、著者は相手の感覚に近づける事が必要だと言っている。どれだけ相手に腹落ちさせるか、これが自発的になってもらうファーストステップだと思っている。つまり教えるのではなく、ここでも気づかせるのだ。

相手をよく観察して、必要なタイミングで必要な言葉をかけて気づかせる。

コーチの役目は上記がほとんどと言っても過言ではないだろう。

コーチングの3つの基礎

著者はコーチングには3つの基礎があると言っている。それは「観察」、「質問」、「代行」だ。簡単にまとめると「相手に興味を持て」と言い替える事が出来ると思う。相手を観察して、情報を集める。理想のイメージに対して不足している部分が見えてきたら、質問して気づかせる。この時、余計な事は言わない。そして信頼関係を築いていく。質問する事で相手は自分に興味があると思ってくれる。これが信頼関係に繋がっていく。また代行する事で相手の立場になって考えてみる。このように教える事はしていないのだ。

また著者は相手のいるステージに対して「指導行動」と「育成行動」の比率を変える事としている。具体的には次の4つ。(これをPMモデルとも言っている)

  • 指導行動≫育成行動 → 新入社員
  • 指導行動>育成行動 → 若手
  • 指導行動<育成行動 → 中堅
  • 指導行動≪育成行動 → ベテラン

指導行動は技術や知識を教える事、育成行動はメンタルやマインドセットについてだ。

仕事をするには基本となるものが出来ていないと話しにならない。挨拶や言葉使い、仕事のやり方などだ。これは気づかせる以前の問題なので、まずは指導行動をメインにしていく。特に新入社員や入社数年目の人達がここに該当するだろう。

仕事のやり方が分かってきたら、少しずつマインドセットを入れていく。この時に内省(振り返り)は有効だ。自分を客観視出来るのと、課題を見つけやすくなるからだ。つまり自分事にしやすいのである。

そして中堅になるに従って育成行動を多くしていく。そして最終的には、こちらが何もしなくても相手が勝手に自問自答して成長してくれるようになる事だ。

ただこの最終ステージまで来れる人は、圧倒的に少ないとも著者は言っている。過去に経験したのはダルビッシュ投手と、サファテ投手のみらしい。多くのコーチングをしてきた著者でも2名だけなので、到達の難しさが分かると思う。

【まとめ】

コーチは人間性の成熟も必要

本書はその他に実際に著者が現役時代だった頃に監督とのエピソードだったり、コーチ自身がやるべき9つのルールが記載してある。一通り読んで感じた事は、コーチや上司は人間としても尊敬される必要があるという事だ。

役職がつく人は仕事はできる。仕事が出来るから昇進しているからだ。ただそこに人間性が加味される事は少ないように感じる。

若手からすると、「何を教わるか」以上に「誰から教わるか」が重要だったりするのだ。

コーチの仕事は色のついた個人を組み合わせて化学反応を作る事。これは著者が箱根駅伝強豪校の監督から聞いた言葉らしい。今、自分が後輩や部下を指導する立場になって感じるが、これほど同意できる言葉は無いと思う。

部下を育成する立場にある人は、一読してみる事を進める。