部下が成長する事の意味
部下が成長してくれる楽しみと苦労
後輩や部下が予想以上に成長してくれたら嬉しいですよね。当初のイメージから良い意味で裏切ってくれる。こんなに嬉しいことはありません。これは会社や組織にとっても大きな事で、成長した分、会社に貢献してくれる事になります。そして若手は伸びしろが最も大きいので、その分成長度合いも大きいです。そのために先輩や上司、また人事部が毎年試行錯誤しながら教育しています。
ではその通りに成長しているかというと、現実はそれほど甘くありません。
期待する成長が見られなかったり、場合によっては退職しゼロからの再スタートになったりするケースも多いです。そんな中、1on1というミーティングを行う企業が増えてきました。最近ではよく聞くようになったので知っている人も多いかも知れません。この1on1という面談方法ですが、使い方によってはかなり有効な方法になります。
人材育成の難しさ
一方でこの記事にたどり着いたという事は、自分でも1on1をやってみよう、もしくはやってみたという人達だと思います。本を読んでみたけど何をしたらいいのかイマイチ分からない、やってみたけど合ってるの分からない、そんな理由があって検索して他とりついたのだと思います。私自身、1on1を初めてから約2年が経過しますが、やっと入職から3年以内の離職率が72%から今現在で5%以下になりました。今でこそ言えますが、最初は手探りで色々失敗しました。思うように効果が出なかった事や、順調だと思ってても突然退職された事もあります。上司から鬼詰められた事もありました。今から始める人は、これだけは覚えておいて下さい。1on1はすぐに効果が出るものではありません。ある程度の期間が必要になります。
1on1をする事でのメリット
1on1が上手く機能してくる事で次のような効果が出てきます。
- 部下の課題や悩みなどを把握できる
- 部下の悩みに対して効果的な対策が早めに打てる
- 個々が成長する事で組織やグループも成長する
1on1を実施するとコミュニケーションの回数が多くなる事から、部下の異変に早めに気がつく事が出来ます。問題というのは表面化したときは手遅れな事が多く、対応するために多くの時間と労力が必要です。これが早いうちに対処出来ればそれに必要な労力も少なくて済むので、最初の段階の小さな変化に気がつける機会があるというのはメリットが大きいのです。
1on1とは何か?
そもそも1on1とは何でしょうか?面談とは違うのでしょうか。この辺りはそれぞれの企業によって解釈が若干違ってきたりしますが、一般的には次のような形になると思います。
- 面談:仕事の進捗確認や評価の確認。主語は会社。会社から見てどうか?という内容になる。いわゆる一般的にイメージされるもの。
- 1on1:相手が成長する事を目的にする。主語は相手。相手が自ら成長するように経験者がサポートする。
このように主語が違います。よく1on1は部下や相手のための時間と言われるのは、このような理由があるからです。
1on1をする目的ってなに?
普段の業務において面談をする目的は何でしょうか?業務の進捗確認?離職率低下?業績改善?上司から言われたから仕方なく?各々何かしら理由や目的があって、その手段として1on1を実施していると思います。上記で部下の為の時間というふうに書きましたが、では部下の為の時間とは何でしょうか?何をすれば部下のための時間になるのでしょうか?結論から書きます。それは、
1on1の前後で比較した時に、部下に何かしらの上向きの変化を生じさせる事です。
この変化の種類は問いません。気分的にすっきりした、悩みが解決した、モチベーションが上がった、目標が明確になった等、何でもいいです。少しでも変わる事が重要なのです。これが後々効いてきます。
昭和型育成方法の問題点
今の若者は頭が良い
部下育成は日々変わっています。部下は必死についてくる、勝手に成長してくるなんてのは今や昔の話し。そんな昭和型の育成をしたらすぐ退職していきます。今の若い人達は良くも悪くもドライな考え方です。生きてきた時代背景もあり、彼ら、彼女らは自分の資産(価値)をちゃんと把握しています。現時点で大きな価値である「若さ」を無駄にするような人は少ないのです。そのために自分にとって意味がない、利益にならないと感じたらすぐに転職していきます。
対話型の育成方法
今は対話(コミュニケート)型と言われています。今一度自分の育成スタイルを見直して見て下さい。部下や後輩と対話していますか?今は対話によって成長の機会、つまり相手の行動変化を促し、自ら動いて成長してもらうようにする事が必要なのです。
一方で今の育成者にあたる年代の人達はそういった教育方法をされてきていないという問題があります。つまり、どうやったらいいか分からないんです。対話が不足する事で発生する事は次のようなものがあります。
- 部下の現状(人間関係、ストレス状況など)が把握できていない
- 対応が後手になる
- 退職者が続く
- 根本的な原因が分からずに表面的な解決法になりがち
- 部下からすると放置プレイで存在意義が分からなくなる
といい事はありません。まだリクルートをかけて新入社員が確保出来ている施設はいいです。ただ、これから少子高齢化で新規のリクルートは段々と難しくなってきます。このままだといずれ人材不足で業務が回らなくなる事もあり得るのです。
昭和型育成方法になってしまう原因
今の30~40代はそのような育成方法で育ってきていない
今、主に若手を教育しているのは30代前半の若手が多いと思います。ただ彼ら多くは対話側の育成方法で育ってきていません。人間は良くも悪くも自分が教育されてきた方法を使います。つまり無意識で自分も時代遅れの教育方法をやってしまっているのです。これはある意味時代のせいとも言えますが、原因は次のようなものがあります。
- 自分がそういうふうに育成されてこなかった
- そういう育成方法があるのを知らない
- 言葉としては知っていても、実際のやり方が分からない
- どんなものなのかも分からない
- 部下の育成が会社からの評価対象項目に無い
おおよそこんな感じではないでしょうか。でも大丈夫です。自分が変わるのに手遅れという文字はありません。今からでもマスターしていけば全然問題ありません。ではどうやって実践していけばいいのでしょうか?
1on1を始めるにあたって
1on1に必要なもの
本格的に1on1を始める前に必要な事があります。何でしょうか?それは信頼関係の構築です。信頼関係が無ければどんなに良い事を言っても相手には刺さりません。全く関わりのない先輩に急に仕事論を熱く語られても白けるのと一緒です。まずは相手も聞く態勢になってもらうために信頼関係を構築していきましょう。
信頼関係の築き方
ではどうやったら信頼関係を築けるのでしょうか?
それはコミュニケーションの回数を増やす事です。
普段からのコミュニケーションの回数を意識して下さい。質より量です。心理効果に単純接触効果というものがあります。接触回数を重ねる事で、相手からの印象が良くなるという効果です。これが思いの外有効なので、挨拶程度でOKなのでとにかく回数を重ねて下さい。いっその事、1on1の最初の頃はコミュニケーション取るだけで終わってもいいくらいです。それくらい重要です。
実際に私が部下とのコミュニケーション回数を計測した時は、自分のイメージよりも想像以上に少なかったのに加え、特定の人に偏りがありました。中には2週間もコミュニケーションが無い人もいたのは驚きでしたが、意外とこういう人は多いのではないかと思います。やはり意識しないと話しかけやすい人ばかりに話しかけてしまうんですね。エクセルで簡単に表を作成し、一度やってみると客観的な数字が出て現実を把握できると思います。とにかく回数を重ねましょう。それで相手の心理的バリアが少しずつ無くなっていきます。
信頼関係が出来はじめたら
ある程度の信頼関係が出来はじめたら本格的に1on1を行っていきます。内容は1on1前後で相手に何かの上向きの変化を与える事になりますが、実際に1on1をするにあたって次の3つの力が必要になります。
- 聞く力
- 観る力
- 質問する力
順に見ていきましょう。
聞く力
聞く力とは傾聴力とも言ったりします。簡単に言うと相手の話を聞く事。これが思いの他難しいと思います。経験者がゆえに相手が的外れな事も言ったらアドバイスしたくなると思います。そこをグッとこらえましょう。そこでこちらから話してしまうと、もう何も話してくれなくなります。ポイントは次の3つです。
- 否定しない
- 比較しない
- 邪魔しない
他の注意点としては、こちら側も聴く体勢を作って下さい。記録を取ろうとパソコンを打ちながら目線も向けずにいるのはNGです。部下の立場からすると話そうという気にはなりません。時計をチラ見したり生返事だったりはよくやってしまいがちな事です。部下や後輩は結構細かい所まで見ています。
聞く体制が相手にも伝わって始めて色々と話してくれます。具体的にどうしたら良いか分からない人は、体を相手の方に向け、5秒に1回、相手と目線を合わせて頷いて下さい。これだけで全然違います。
観る力
次に観る力、つまり観察力です。これは相手の微妙な変化に気がつけるかどうかです。非言語情報を感じ取れるかどうかとも言えますね。非言語情報は言葉よりも本心に近い事が多く、どんな考えなのか、価値観なのかを知ることができる有効な情報になります。
また変化に気がつくためには、普段の反応を知っておく必要があります。普段の部下という比較対象を知っておく必要があるのです。つまりここでも普段からのコミュニケーションが必要になってくるんですね。
観る力のポイントは次の通りです。
- 非言語情報を大切にする(言葉は平気でウソをつきます)
普段から相手をよく観察し、1on1中に小さな違和感に気づけるようになって下さい。
質問力
次に質問力ですが、相手が新しい視点で見る事ができる、相手が自分でも気がついていない事を質問によって気づかせる、このような力が必要になります。質問する側が豊富な経験を有していと様々な視点から見れるので良いですね。社外での経験や社内でも部署間の横断プロジェクトの経験がある人は適任だと思います。ただそんな経験は無いよという人も安心して下さい。重要なのは相手に上向きの変化を生じさせる事です。どうすれば相手に変化が起きるか、そのためにはどんな視点から見ると有効かを考えてみましょう。相手がハッとしたような顔をしたら大成功です。
注意点として、いつの間にか自分が期待するような結果に誘導するような質問をしてしまう事があります。自分の考えが相手の成長になるとは限らないので注意しましょう。あくまでも「相手に上向きの変化を起こす事」これを念頭においておきましょう。質問力のポイントは次の通りです。
- 視座を変えるような質問をする
1on1とは聞いて、見て、質問する。基本的にこれの繰り返しです。相手の話しを聞いて状況や価値観を知り、違った(有効な)視点から観て、実際にして行動してもらうにはどうすればいいか?を質問します。この結果、相手が何かしら上向きの変化が起きれば成功です。
1on1を実施する時の注意点
1on1を実際に行う時に注意点があります。それはスケジュール設定です。1on1は単発で終わる事は無く、基本的に複数回実施します。なので最初にスケジュールを確定させておく事は非常に重要です。理由は、都度での調整では、途中から面倒さが出てきて、「今日はいっか」が起きます。そして段々と実施頻度が少なくなっていきます。これでは意味がありません。なので最初にスケジュールを組んでしまい、やらざるを得ない状況にしてしまいましょう。
1on1の実際
信頼関係と成長支援
続いて実際の1on1の内容に入ります。1on1には次の2つのステージがあります。
- 信頼関係ステージ
- 成長支援ステージ
基本的にこの2つを1on1の時間の中に入れていきます。相手のレベルや状態によって比率は変わってきます。順に見ていきしょう。
信頼関係ステージ
まず最初は信頼関係を作るステージです。上で話した通り信頼関係が無いと話しが先に進みません。最初にやる事としてはアイスブレイクという雑談を上手く使って緊張の雰囲気を和らげましょう。相手が緊張していると話す事も話せませんので、まずは簡単な(相手が反応やすい)話題をふってみましょう。休みの日は何をしているかなどがいいですね。休みの日の行動を知れれば、相手のタイプ(内向的か外向的か)の情報も得る事が出来ます。ただ最初からプライベートな事を聞くのはセクハラになる可能性があるので注意しましょう。
私の場合は、相手の趣味の事から話す事が多いです。漫画や映画、最近買い始めたペットの事など、それくらいの情報なら初回からでも話してくれます。ちなみに、ここで話しが盛り上がってしまい時間を使ってしまう事もありますが最初の内はそれでもOKと考えています。相手の情報収集と信頼関係を作りましょう。
ここで雰囲気が和らいだら心身の健康チェック、モチベーションチェックを会話の中で入れていきます。疲労困憊の時に上向きになれと言っても難しいのが人間です。ここでは普段と比較して違和感があるかどうかをチェックして下さい。目線や声のトーン、会話の間など普段と違うな?という相手が出すサインに早めに気がつけるかどうかです。この時、相手は勇気を出してサインを出しています。それを逃がさずにキャッチしましょう。つまり観察力です。
また睡眠は重要なバロメータなので、よく眠れているかどうかを聞くと良いです。眠れないとの返事が返ってきたら、何かしらのサインの始まりの可能性もあるので深掘りしていく事をおすすめします。
ポイントは次の通りです。
- アイスブレイクを実施する(雑談や休みの日は何をしているか等を質問してみる)
- メンタルチェックの質問(眠れているか 等)を入れ、相手がどんな状況かを確認する
これらを最初の10分程度で実施しましょう。
成長支援ステージ
次に具体的な内容を話し合うステージです。問題解決や目標設定やキャリアプラン、戦略方針の伝達などがあります。ここで重要なのは今抱えている問題に対して、次の1on1までにどう動くかを明確にする事です。その為には視座を上げるような質問が必要になる事もあるでしょう。課題に対して動いた結果を確認する、その結果に対して改善案をサポートしながら考えてもらう、それを次の1on1までに実行してもらう、これが一連の流れになります。
そしてここで注意すべき事があります。それは相手が出した改善案に自分(面談者)の納得は関係無いという事です。例え相手が出したプランが想定レベルに達していなくても、1度しっかり受け止めて下さい。上司側の価値観を乗せて返さないで下さい。それをやってしまうと、次から相手が自分の頭で考える事をしなくなります。大丈夫です。レベルが合っていないと課題達成は出来ません。その未達の結果を持って次の改善案を考えればいいのです。
ポイントは次の通りです。
- アクションプランを決める(相手に考えて決めてもらう)
- そのアクションプランに上司側の納得は必要無い
これをアイスブレイクの後に入れていきましょう。何回か繰り返していく内に部下も何を聞かれるかが分かってくるので、予め自分で考え答えを用意してくるようになります。そうなれば、1on1の効果を実感できる段階に来てるかもしれません。
注意点としては、1歩間違えると過保護になる可能性があります。以下が参考になると思うので読んでみて下さい。
強力な第3者話法
ちなみに第3者話法というのがあります。情報は第3者を経由して伝わった方が信用されやすい事を言います。本人が「自分がすごい」というより他人が「あいつはすごい」と言う方が信憑性がありますよね?これは良い話しにも悪い話しにも使えますので、誉める時は他人経由で誉めましょう。効果が倍増します。一方で悪い話は良い話しより伝わりやすいので注意して下さい。他人の噂話や悪口が広がりやすいのをイメージしてもらえば分かりやすいと思います。
ちなみに、これはフィードバックにも使えますので、改善点に気づかせる時は第3者経由で伝えるのも一つの選択肢になります。
例えば、もう少し他人の意見を聞けるようになって欲しいと思っている部下Aに対して、直接本人に言うのでは無く、その部下と仲が良い同僚にそれとなく「Aはもうちょっと他人の意見を聞けるようになると、もっと成長出来ると思うんだよね」と言う。そうすれば必ずAに伝わります。ここで第3者話法も加わってより相手に響くようになります。本当に効果抜群なので使ってみて下さい。
まとめ
今回のまとめ
最後に話した内容を振り返りましょう。
- コミュニケーションは質よりも量(回数)が重要
- 1on1を行うにあたって必要な能力は、聞く力、観る力、質問する力
- 信頼関係ステージと成長支援ステージがあり、相手の状況で比率は変化する
- 信頼関係はアイスブレイクや現状確認(メンタル状況など)
- 成長支援はアクションプランを決める(この時、上司の納得は必要無し)
1on1が機能しだすと段々と部下やチームが変わってきます。特に私がいる医療業界は基本的に国家(or民間)資格を持っていないと業務が出来ないので変なプライドを持っている人も多いです。価値観がこり固まっている人も多くいますが、その人達でも変化するのを見てきました。
これらを参考にしながら実践してみて下さい。そしてゆくゆくは自分なりにアレンジして理想のチームを作って下さい。
なお、以下の書籍も参考になります。興味があれば是非読んでみて下さい。
参考書籍
・1on1関係
・傾聴