咽頭癌(pharyngeal cancer)

自分の声、キモッ!

今頃気がついたんですか?

冒頭からヒドない?
いくら鬼メンタルの桑ちゃんでもギリギリのラインやで。

咽頭癌(pharygeal cancer)とは

咽頭癌の概要

さて、今日はそんな声が関係する咽頭癌についてレクチャーしてくで。

咽頭癌ってのは、その名の通り咽頭に出来る癌や。癌が出来る部位によって各々の部位名がつくで。例えば下咽頭に癌が出来れば、下咽頭癌ってな感じにな。

50代以降で罹患確率が上昇する癌で、男女比は上咽頭癌で3:1、中咽頭癌で10:1、下咽頭癌で6:1と男性に圧倒的に多いねん。

これは飲酒や喫煙が関係してると言われてるで。

症状としては上咽頭癌は鼻症状や耳症状、中咽頭癌は嚥下困難(違和感)、喋りにくさなんかで、下咽頭癌は嚥下時の違和感、進行すると嗄声や血痰、呼吸障害なんかが出てくるで。

これは癌が大きくなる事で出てくる症状やな。

初期症状は咽頭痛や嗄声、喉の違和感なんかがあるんやけど風邪と似たような症状なんや。

風邪は長くても1週間程度で回復すると思うけど、これが1ヶ月以上も続くようなら専門の医療機関を受診した方がええで。

  • 上咽頭腫瘍
    • 上咽頭に出来る腫瘍は癌(低分化、未分化)が70%、残りが悪性リンパ腫
    • 9割に初発時にリンパ節転移を認める(頚部リンパ節転移がきっかけで発見される事も多い)
    • EBウィスルとの関連が示唆されている
    • ローゼンミュラー窩を含む後側壁からの発生が多い
    • 腫瘍の大きさによっては、耳管の閉塞を来し滲出性中耳炎を生じる事もある
    • 早期に直接浸潤、神経周囲性の進展によって頭蓋底浸潤を来す
  • 中咽頭腫瘍
    • 扁平上皮癌と悪性リンパ腫が同程度の発生確率
    • 男性に多い
    • HPV陽性と陰性で違う特徴があり、P16の有無によりTNM分類も違ってくる
    • 喫煙や飲酒に関係している中咽頭癌がHPV陰性が多く、HPV陽性は分化度が低いが化学放射線に感受性が高く、予後が良いと言われている
    • 口蓋扁桃、舌根、口蓋弓、軟口蓋、後壁の順に発生頻度が高い
  • 下咽頭腫瘍
    • 9割が扁平上皮癌
    • 男性に多い
    • 梨状陥凹、後壁、輪状後部の順に発生頻度が高い
    • 初診時に7割の割合で、リンパ節転移を認める
    • 梨状陥凹癌はリンパ節転移を伴っている事も多いが、予後は比較的良い
    • 輪状後部癌は予後不良
    • ルビエールリンパ節の転移をしばしば認め、予後不良
    • 高確率で食道癌を合併する

咽頭の解剖と役割

咽頭の解剖

咽頭の解剖と役割についてからや。解剖が分かってへんと、何も始まれへんからな。

咽頭は解剖的にいうと上咽頭、中咽頭、下咽頭に分かれてんねん。

これらの境界は下記の通りやで。

  • 上咽頭と中咽頭 ⇒ 軟口蓋
  • 中咽頭と下咽頭 ⇒ 舌骨上縁

この辺りは知ってるよな?

咽頭解剖

頚部リンパ節のレベル

これは頸部リンパ節の解剖や。画像診断の時は頸部リンパ節への転移の有無の診断が重要やから、覚えておくべき内容やな。

特に舌癌の場合は、Level2までの範囲で転移しやすいと言われとる。

ちなみに、レベルⅠ~ⅡとⅢ、Ⅵの境目は舌骨を、ⅢとⅣの境目は輪状軟骨を基準にするとええで。

ⅢとⅤA、ⅣとⅤBの境目は内頸静脈を基準にするんや。

頸部リンパ節レベル
がん情報サイト(Cancer infometion japanより)
  • レベルIは、オトガイ下リンパ節および顎下リンパ節を含む
  • レベルIIは、上内頸静脈リンパ節(顎二腹筋の上方)を含む
  • レベルIIIは、中内頸静脈リンパ節(肩甲舌骨筋と顎二腹筋の間)を含む
  • レベルIVは、下内頸静脈リンパ節を含む
  • レベルVは、後頸三角リンパ節を含む
  • 咽頭後リンパ節

咽頭の役割

咽頭の主な役割は誤嚥防止やで。

上咽頭で鼻腔への流入を、下咽頭で気管への流入を防いでいるんや。

具体的には、軟口蓋や喉頭蓋で酸素と飲食物を振り分けてて、これらが機能してるから食べ物なんかが肺に入らないようになってる訳や。高齢者でこの機能が弱ってると誤嚥性肺炎を起こしたりするな。

他には扁桃での免疫防御機能の面もあるで。扁桃は咽頭扁桃、耳管扁桃、口蓋扁桃、舌根扁桃の4つがあるから知っておくとええで。

  • 上咽頭
    • 口蓋レベルより上部を指す
    • 上咽頭炎はここに炎症が起きる事
    • 上咽頭癌は地域差があり中国南東岸一帯に多い
  • 中咽頭
    • 口蓋から喉頭蓋付近までを指し、軟口蓋や口蓋扁桃、舌根が含まれる
    • 飲食物を飲み込む時に軟口蓋が上がり鼻腔へ入らないようにしている
  • 下咽頭
    • 喉頭と隣接している
    • 飲食物を飲み込む時に喉頭が上がり、喉頭蓋が喉頭への流入を防いでいる

咽頭癌の原因と治癒率

咽頭がんの原因

次に咽頭癌の原因やけど、飲酒や喫煙、感染なんかがあるで。喫煙は言わずもがなやけど、適量を超えた飲酒、特に飲酒で顔が赤くなる人が継続的に飲酒する事で癌の発生確率が上がる事が知られてんねん。

飲酒で顔が赤くなる事を「フラッシング反応」って言って、少量のアルコールでフラッシング反応が起きる人を「スラッシャー」と言うんや。これは飲酒によるアセトアルデヒドの影響で、アセトアルデヒドの分解が遅いとこういった症状が起きんねん。

アセトアルデヒドは発癌性がある事が知られてるから、分解が遅いとその分、発癌性物質に晒されてるって事になるんやな。

特に日本人はこの分解酵素を持っている割合が少なくて、半数近くが低活性、もしくは非活性らしいで。

これは内閣府からの喫煙と飲酒に関するデータで、これによると男性の飲酒率、喫煙率は低下傾向なんやけど、女性の飲酒率だけは微増してんねん。

ただ男女比でいうと圧倒的に男性が多い事が発生率に関係してるで。

喫煙はそのままやな。発癌性物質を吸い込んだり吐いたりを慢性的に繰り返す事で癌が発生する確率が上がんねん。これはイメージしやすいと思うで。

感染は、EBウィルス、HPVなんかが影響してると考えられてるわ。EBウィルスは小児の頃に感染する事が多くて、日本人やとほぼ感染しとるって話しや。

EBウィルスは上咽頭癌に関与してて、HPVは中咽頭癌に関係があるとされてるな。HPV陽性の中咽頭癌は他の原因発症と比較して若年層に多くて予後が良いって特徴があるで。

あとは下咽頭癌には発生部位によって3つの亜型(梨状陥凹癌、輪状後部癌、後壁癌)があんねん。発生部位が違う事で予後も違うから画像診断で原発部位を特定するのは重要やで。

咽頭癌の治療法

咽頭癌の治療法は、部位によって違ってくるで。上咽頭癌は解剖学的に脳に近いのもあって化学療法と放射線治療がメインや。化学療法や放射線治療に感受性が高いってのも理由の1つではあるな。

中咽頭癌は早期で発見できれば部分切除や放射線治療なんかで根治が見込めるで。HPV(ヒトパピローマウィルス)感染例やと化学放射線治療(ケモラジ)の感受性がより高いという話しや。

下咽頭癌も早期で発見できれば部分切除や放射線治療、化学療法で治療が可能や

どの部位の癌もそうなんやけど、早期発見ってのがポイントで進行癌の状態で見つかると、部分切除が不可能な場合が多いねん。

場所によっては声帯も切除する必要も出てくる事から、その後のQOLにも影響してくるで。

咽頭癌の治癒率

後は参考までに各々の5年生存率も載せておくで。これはがん研有明病院のデータからやで。他の癌と比較して、生存率は高い傾向があるな。

  • 上咽頭癌の5年生存率 ⇒ Ⅰ期:90%  Ⅱ期:60~80%  Ⅲ期:60~80%  Ⅳ期:40~45%
  • 中咽頭癌の5年生存率 ⇒ Ⅰ期:83%  Ⅱ期:79%  Ⅲ期:73%  Ⅳ期:69%
  • 下咽頭癌の5年生存率 ⇒ Ⅰ期:90%  Ⅱ期:80%  Ⅲ期:70%  Ⅳ期:50%

がん研有明病院 頭頸部がんより

咽頭癌のTNM分類

次にTNM分類や。言葉で説明するよりも表で確認した方が分かりやすいかもしれんな。一覧で作っておいたから確認してみてーや。

中咽頭癌については、P16が陽性か陰性かで若干違うで。

T分類TisT1T2T3T4aT4b
上咽頭癌上皮内癌上咽頭、または中咽頭、鼻腔までに限局傍咽頭間隙、内側翼突筋、外側翼突筋、椎前筋に浸潤頭蓋底、頚椎、翼状構造の骨組織、副鼻腔に浸潤T4:頭蓋内進展、脳神経、下咽頭、眼窩、耳下腺、外側翼突筋の外側表面を超える浸潤 
中咽頭癌(P16陽性)2cm以下4cm以下4cm以上、または喉頭蓋舌面に浸潤しているT4:喉頭、外舌筋、内側翼突筋、硬口蓋、下顎骨、外側翼突筋、翼突板、上咽頭外側壁、頭蓋底、頚動脈に浸潤がある 
中咽頭癌(P16陰性、または不明)2cm以下4cm以下4cm以上、または喉頭蓋舌面に浸潤している喉頭、外舌筋、内側翼突筋、硬口蓋、下顎骨に浸潤がある外側翼突筋、翼突板、上咽頭外側壁、頭蓋底、頚動脈に浸潤がある
下咽頭癌2cm以下、および限局している4cm以下、または2亜部位以上に浸潤がある4cm以上、または声帯固定、頚部食道浸潤甲状軟骨、輪状軟骨、舌骨、甲状腺、喉頭蓋浸潤がある椎前筋膜、縦隔、頚動脈に浸潤がある
頭頚部癌取扱規約第6版を参考に作成
N分類N0N1N2aN2bN2cN3aN3b
上咽頭癌所属リンパ節転移なし輪状軟骨より上方の片側リンパ節、両側咽頭後リンパ節へ6cm以下の転移があるN2:輪状軟骨より上方で両側リンパ節に6cm以下の転移がある  N3:輪状軟骨より下方のリンパ節に転移がある、もしくは6cm以上の頚部リンパ節転移がある 
中咽頭癌(P16陽性)転移無し患側のリンパ節に6cm以下の転移があるN2:両側、または患側とは反対方向のリンパ節に6cm以下の転移がある  6cm以上のリンパ節転移がある
中咽頭癌(P16陰性、または不明)転移無し患側に単発の3cm以下のリンパ節転移がある患側に単発の3cm以上6cm以下のリンパ節転移がある患側に多発の3cm以上6cm以下のリンパ節転移がある両側、または患側とは反対方向のリンパ節に転移がある6cm以上のリンパ節転移がある臨床的節外浸潤がある
下咽頭癌転移無し患側に単発の3cm以下のリンパ節転移がある患側に単発の3cm以上6cm以下のリンパ節転移がある患側に多発の3cm以上6cm以下のリンパ節転移がある両側、または患側とは反対方向のリンパ節に転移がある6cm以上のリンパ節転移がある臨床的節外浸潤がある
頭頚部癌取扱規約第6版を参考に作成
M分類M0M1
上咽頭癌遠隔転移なし遠隔転移あり
中咽頭癌
下咽頭癌
頭頚部癌取扱規約第6版を参考に作成

次にステージ分類やで。各々を確認しといてな。

上咽頭癌N0N1N2N3M1
T1ⅣAⅣB
T2ⅣAⅣB
T3ⅣAⅣB
T4ⅣAⅣAⅣAⅣAⅣB
頭頚部癌取扱規約第6版を参考に作成
中咽頭癌(p16陽性)N0N1N2N3M1
T1
T2
T3
T4
頭頚部癌取扱規約第6版を参考に作成
中咽頭癌(p16陰性)
下咽頭癌
N0N1N2N3M1
T1ⅣAⅣBⅣC
T2ⅣAⅣBⅣC
T3ⅣAⅣBⅣC
T4aⅣAⅣAⅣAⅣBⅣC
T4bⅣBⅣBⅣBⅣBⅣC
頭頚部癌取扱規約第6版を参考に作成

これでおおよその咽頭癌についての概要は分かったと思うで。次に画像所見についてや。

画像所見

画像所見と必要な解剖知識

まずは浸潤の同定に重要な解剖をおさらいや。下図が重要やで。

上咽頭癌はローゼンミュラー窩に好発する事から傍咽頭間隙は上咽頭のT分類に関係してるし、咽頭粘膜間隙も重要や。この辺りは最終的なステージ決定に影響するから、画像所見も合わせて確認しといてや。

頸部解剖
CTMRI
上咽頭癌造影される腫瘤を認めるT1強調で低~等信号
T2強調で等~やや高信号
造影効果あり
・ローゼンミュラー窩に好発し、左右非対象の腫瘤
・多発リンパ節を伴う事も多い
・上咽頭悪性リンパ腫では周囲組織に対して圧排性に発育し左右対称性がある
・悪性リンパ腫ではADCが低いが、未分化型の癌でも低ADCを示す事がある
中咽頭癌(p16陽性)同上同上・p16陽性中咽頭癌では口蓋扁桃、舌根に好発しリンパ節転移の頻度も高い
・リンパ節転移は薄い被膜で、内部が均一な液体状である事が多い
・悪性リンパ腫との鑑別ではADCが有効な事が多い
中咽頭癌(p16陰性)同上同上・境界不明な腫瘤で浸潤スピードが速い
・翼突下顎縫線や口蓋帆挙筋、茎突咽頭筋などの咽頭側方筋群に沿った進展確認が重要
上咽頭癌同上同上・治療方針決定の為に深部方向への浸潤程度、梨状陥凹尖部などの尾側方向への浸潤評価をする
・亜部位の評価も行う

実際の症例

次に実際の画像症例や。

60代男性で声帯不全麻痺の精査でMRIを検査して梨状後部の下咽頭癌の診断となった例や。

両側小角結節や梨状陥凹にかけての腫瘤が認められると思うで。こうみると下咽頭後壁まで浸潤してるかもしれんな。腫瘍の最大径は4cm以下なんやけど、声帯不全麻痺(声帯固定)があるためにT3の診断となった例やわ。

頸部MRI-下咽頭癌
頸部MRI-下咽頭癌

次はこの症例や。70代男性で嗄声と呼吸困難で受診して精査となった例や。

右甲状軟骨への浸潤や気道変位狭窄も認められると思う。原発がどこか判断が難しい例やと思うけど、最終的に声門癌と診断されたで。

頸部MRI-下咽頭癌
頸部MRI-下咽頭癌

中咽頭癌、下咽頭癌で椎前筋膜、椎前間隙、頚椎への直接浸潤を認める場合は、根治的切除が難しいと言われてんねん。

せやからこの評価が重要なんやけど、咽頭後間隙の脂肪織の同定が重要な所見なんや。ここを認める事ができれば、椎前筋浸潤は非定される事が多いで。

鑑別診断のポイント

悪性リンパ腫との鑑別

次に鑑別診断についてや。上咽頭癌、中咽頭癌においては悪性リンパ腫との鑑別が必要になるときがあるな。

ただADCや腫瘍の形状、発育具合などを確認する事が出来れば鑑別はある程度可能や。

他には進行例で発見された時に声門癌が下咽頭癌かの鑑別が必要な時もあるで。

頭頚部悪性腫瘍

他の頭頚部の悪性腫瘍については下記を確認してみてや。

まとめ

今回は咽頭癌についてレクチャーしたで。咽頭癌って言っても上咽頭、中咽頭、下咽頭と3ほどやったから中々のボリュームだったと思う。ポイントは4つや。

咽頭癌においてCTやMRIはあくまで補助的な位置づけである

上咽頭癌では傍咽頭間隙への浸潤が重要(浸潤があるとT2)

中咽頭ではp16が陽性かどうかでステージングが変わる

下咽頭癌では、発生部位(亜型)によって予後が変わるので、発生部位を特定する事は重要

とこんな感じやな。治療後に自分の声が残るのと残らないのでは大きな違いやから、是非とも早期発見をしたい癌ではあるな。

ちなみに今聞こえてる自分の声ってあるやん?これって他人が聞いている声と全然ちゃうねんで。1回ボイスレコーダーとかで自分の声聞いてみぃや。マジキモイで。
これにはちゃんと理由があって、それは音の伝わり方が違うからなんや。
他人には声帯で発した声だけが伝わるのに対して、自分には耳や声帯からの骨伝導で伝わったものもプラスされてんねん。この違いがギャップとなってキモイと思ってしまう訳や。
でもそれが他人に聞こえてる声なんやで。

なんか恥ずかしいですね。

HAHAHA! ほな、精進しいやー!

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