自分の声、キモッ!
今頃気がついたんですか?
冒頭からヒドない?いくらワシでも結構メンタルやられるで。
ちなみに今聞こえてる自分の声ってあるやん?これって他人が聞いている声と全然ちゃうねんで。1回ボイスレコーダーとかで自分の声聞いてみぃや。マジキモイで。
これにはちゃんと理由があって、それは音の伝わり方が違うからなんや。他人には声帯で発した声だけが伝わるのに対して、自分には耳や声帯からの骨伝導で伝わったものもプラスされるからなんやで。普段はこれらがミックスされたものを声として認識してるから、実際に録音した声とギャップを感じてキモイと思ってしまう訳や。でもそれが他人に聞こえてる声なんやで。
今日はそんな声が関係する頭頚部癌の中で咽頭癌についてレクチャーしてくで。
もくじ
咽頭癌(pharygeal cancer)とは
咽頭の解剖と役割
まずは咽頭の解剖と役割についてからや。解剖が分かってへんと、何も始まれへんからな。咽頭は解剖的にいうと上咽頭、中咽頭、下咽頭に分かれてんねん。この辺りは知ってるよな?
咽頭の主な役割は誤嚥防止やで。上咽頭で鼻腔への流入を、下咽頭で気管への流入を防いでいるんや。具体的には軟口蓋や喉頭蓋で酸素と飲食物を振り分けてんねんで。これらが機能してるから食べ物なんかが肺に入らないようになってる訳や。高齢者でこの機能が弱ってると誤嚥性肺炎を起こしたりするな。
他には扁桃での免疫防御機能の面もあるで。扁桃は咽頭扁桃、耳管扁桃、口蓋扁桃、舌根扁桃の4つがあるから知っておくとええで。
部位 | 概要 | |
---|---|---|
咽頭 | 上咽頭 | 口蓋レベルより上部を指す 上咽頭炎はここに炎症が起きる事 上咽頭癌は地域差があり中国南東岸一帯に多い |
中咽頭 | 口蓋から喉頭蓋付近までを指し、軟口蓋や口蓋扁桃、舌根が含まれる 飲食物を飲み込む時に軟口蓋が上がり鼻腔へ入らないようにしている | |
下咽頭 | 喉頭と隣接している 飲食物を飲み込む時に喉頭が上がり、喉頭蓋が喉頭への流入を防いでいる |
これは頸部リンパ節の解剖や。画像診断の時は頸部リンパ節への転移の有無の診断が重要やから、覚えておくきべき内容やで。
- レベルIは、オトガイ下リンパ節および顎下リンパ節を含む
- レベルIIは、上内頸静脈リンパ節(顎二腹筋の上方)を含む
- レベルIIIは、中内頸静脈リンパ節(肩甲舌骨筋と顎二腹筋の間)を含む
- レベルIVは、下内頸静脈リンパ節を含む
- レベルVは、後頸三角リンパ節を含む
- 咽頭後リンパ節
咽頭癌の概要
さて咽頭癌についてや。咽頭癌ってのは咽頭その名の通り咽頭に出来る癌や。癌が出来る部位によって各々の部位名がつくで。例えば下咽頭に癌が出来れば、下咽頭癌ってな感じにな。
50代以降で罹患確率が上昇する癌で、男女比は上咽頭癌で3:1、中咽頭癌で10:1、下咽頭癌で6:1と男性に圧倒的に多いねん。これは下記でも話すけど飲酒や喫煙が関係してると言われてるで。
症状としては上咽頭癌は鼻症状や耳症状、中咽頭癌は嚥下困難(違和感)、喋りにくさなんかで、下咽頭癌は嚥下時の違和感、進行すると嗄声や血痰、呼吸障害なんかが出てくるで。これは癌が大きくなる事で出てくる症状やな。初期症状は咽頭痛や嗄声、喉の違和感なんかがあるんやけど風邪と似たような症状なんや。風邪は長くても1週間程度で回復すると思うけど、これが1ヶ月以上も続くようなら専門の医療機関を受診した方がええで。
咽頭癌の原因と治癒率
次に咽頭癌の原因やけど、飲酒や喫煙、感染なんかがあるで。喫煙は言わずもがなやけど、適量を超えた飲酒、特に飲酒で顔が赤くなる人が継続的に飲酒する事で癌の発生確率が上がる事が知られてんねん。
飲酒で顔が赤くなる事を「フラッシング反応」って言って、少量のアルコールでフラッシング反応が起きる人を「スラッシャー」と言うんや。これは飲酒によるアセトアルデヒドの影響で、アセトアルデヒドの分解が遅いとこういった症状が起きんねん。アセトアルデヒドは発癌性がある事が知られてるから、分解が遅いとその分、発癌性物質に晒されてるって事になるんやな。特に日本人はこの分解酵素を持っている割合が少なくて、半数近くが低活性、もしくは非活性らしいで。
これは内閣府からのデータやけど、男性の飲酒率、喫煙率は低下傾向なんやけど、女性の飲酒率だけは微増してんねん。ただ男女比でいうと圧倒的に男性が多い事が発生率に関係してるで。ただ男女比でアセトアルデヒドの分解酵素を持っている割合が変わるとも思えんから、今後は女性の割合も段々と上がってくるかもしれんな。
喫煙はそのままやな。発癌性物質を吸い込んだり吐いたりを慢性的に繰り返す事で癌が発生する確率が上がんねん。これはイメージしやすいと思うで。
感染は、EBウィルス、HPVなんかが影響してると考えられてるわ。EBウィルスは小児の頃に感染する事が多くて、日本人やとほぼ感染しとるって話しや。EBウィルスは上咽頭癌に関与してて、HPVは中咽頭癌に関係があるとされてるな。HPV陽性の中咽頭癌は他の原因発症と比較して若年層に多くて予後が良いって特徴があるで。
あとは下咽頭癌には発生部位によって3つの亜型があんねん。発生部位が違う事で予後も違うから画像診断で原発部位を特定するのは重要やで。
部位 | 概要 | |
---|---|---|
下咽頭癌 | 輪状後部 | 予後が悪い |
梨状陥凹 | 進行しやすいが予後は良い | |
下咽頭後壁 | 予後は輪状後部よりは良いが梨状陥凹より悪い |
咽頭癌の治療法
咽頭癌の治療法は、部位によって違ってくるで。上咽頭癌は解剖学的に脳に近いのもあって化学療法と放射線治療がメインや。化学療法や放射線治療に感受性が高いってのも理由の1つではあるな。
中咽頭癌は早期で発見できれば部分切除や放射線治療なんかで根治が見込めるで。HPV(ヒトパピローマウィルス)感染例やと化学放射線治療(ケモラジ)の感受性がより高いという話しや。
下咽頭癌も早期で発見できれば部分切除や放射線治療、化学療法で治療が可能や。
どの部位の癌もそうなんやけど、早期発見ってのがポイントで進行癌の状態で見つかると、部分切除が不可能な場合が多いねん。場所によっては声帯も切除する必要も出てくる事から、その後のQOLにも影響してくるで。
後は参考までに各々の5年生存率も載せておくで。これはがん研有明病院のデータからやで。他の癌と比較して、生存率は高い傾向があるな。
Ⅰ期 | Ⅱ期 | III期 | IV期 | |
---|---|---|---|---|
上咽頭癌(5年生存率) | 90% | 60~80% | 60~80% | 40~50% |
中咽頭癌(5年生存率) | 83% | 79% | 73% | 69% |
下咽頭癌(5年生存率) | 90% | 80% | 70% | 50% |
咽頭癌のTNM分類
次にTNM分類や。言葉で説明するよりも表で確認した方が分かりやすいかもしれんな。一覧で作っておいたから確認してみてーや。
T分類 | Tis | T1 | T2 | T3 | T4a | T4b |
---|---|---|---|---|---|---|
上咽頭癌 | 上皮内癌 | 上咽頭、または中咽頭、鼻腔までに限局 | 傍咽頭間隙、内側翼突筋、外側翼突筋、椎前筋に浸潤 | 頭蓋底、頚椎、翼状構造の骨組織、副鼻腔に浸潤 | T4:頭蓋内進展、脳神経、下咽頭、眼窩、耳下腺、外側翼突筋の外側表面を超える浸潤 | |
中咽頭癌(P16陽性) | 2cm以下 | 4cm以下 | 4cm以上、または喉頭蓋舌面に浸潤している | T4:喉頭、外舌筋、内側翼突筋、硬口蓋、下顎骨、外側翼突筋、翼突板、上咽頭外側壁、頭蓋底、頚動脈に浸潤がある | ||
中咽頭癌(P16陰性、または不明) | 2cm以下 | 4cm以下 | 4cm以上、または喉頭蓋舌面に浸潤している | 喉頭、外舌筋、内側翼突筋、硬口蓋、下顎骨に浸潤がある | 外側翼突筋、翼突板、上咽頭外側壁、頭蓋底、頚動脈に浸潤がある | |
下咽頭癌 | 2cm以下、および限局している | 4cm以下、または2亜部位以上に浸潤がある | 4cm以上、または声帯固定、頚部食道浸潤 | 甲状軟骨、輪状軟骨、舌骨、甲状腺、喉頭蓋浸潤がある | 椎前筋膜、縦隔、頚動脈に浸潤がある |
N分類 | N0 | N1 | N2a | N2b | N2c | N3a | N3b |
---|---|---|---|---|---|---|---|
上咽頭癌 | 所属リンパ節転移なし | 輪状軟骨より上方の片側リンパ節、両側咽頭後リンパ節へ6cm以下の転移がある | N2:輪状軟骨より上方で両側リンパ節に6cm以下の転移がある | N3:輪状軟骨より下方のリンパ節に転移がある、もしくは6cm以上の頚部リンパ節転移がある | |||
中咽頭癌(P16陽性) | 転移無し | 患側のリンパ節に6cm以下の転移がある | N2:両側、または患側とは反対方向のリンパ節に6cm以下の転移がある | 6cm以上のリンパ節転移がある | |||
中咽頭癌(P16陰性、または不明) | 転移無し | 患側に単発の3cm以下のリンパ節転移がある | 患側に単発の3cm以上6cm以下のリンパ節転移がある | 患側に多発の3cm以上6cm以下のリンパ節転移がある | 両側、または患側とは反対方向のリンパ節に転移がある | 6cm以上のリンパ節転移がある | 臨床的節外浸潤がある |
下咽頭癌 | 転移無し | 患側に単発の3cm以下のリンパ節転移がある | 患側に単発の3cm以上6cm以下のリンパ節転移がある | 患側に多発の3cm以上6cm以下のリンパ節転移がある | 両側、または患側とは反対方向のリンパ節に転移がある | 6cm以上のリンパ節転移がある | 臨床的節外浸潤がある |
M分類 | M0 | M1 |
---|---|---|
上咽頭癌 | 遠隔転移なし | 遠隔転移あり |
中咽頭癌 | ||
下咽頭癌 |
次にステージ分類やで。各々を確認しといてな。
上咽頭癌 | N0 | N1 | N2 | N3 | M1 |
---|---|---|---|---|---|
T1 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | ⅣA | ⅣB |
T2 | Ⅱ | Ⅱ | Ⅲ | ⅣA | ⅣB |
T3 | Ⅲ | Ⅲ | Ⅲ | ⅣA | ⅣB |
T4 | ⅣA | ⅣA | ⅣA | ⅣA | ⅣB |
中咽頭癌(p16陽性) | N0 | N1 | N2 | N3 | M1 |
---|---|---|---|---|---|
T1 | Ⅰ | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ |
T2 | Ⅰ | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ |
T3 | Ⅱ | Ⅱ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ |
T4 | Ⅲ | Ⅲ | Ⅲ | Ⅲ | Ⅳ |
中咽頭癌(p16陰性) 下咽頭癌 | N0 | N1 | N2 | N3 | M1 |
---|---|---|---|---|---|
T1 | Ⅰ | Ⅲ | ⅣA | ⅣB | ⅣC |
T2 | Ⅱ | Ⅲ | ⅣA | ⅣB | ⅣC |
T3 | Ⅲ | Ⅲ | ⅣA | ⅣB | ⅣC |
T4a | ⅣA | ⅣA | ⅣA | ⅣB | ⅣC |
T4b | ⅣB | ⅣB | ⅣB | ⅣB | ⅣC |
これでおおよその咽頭癌についての概要は分かったと思うで。次に画像所見についてや。
画像所見
画像所見と必要な解剖知識
まずは浸潤の同定に重要な解剖をおさらいや。下図が重要やで。上咽頭癌はローゼンミュラー窩に好発する事から傍咽頭間隙は上咽頭のT分類に関係してるし、咽頭粘膜間隙も重要や。この辺りは最終的なStage決定に影響するから、画像所見も合わせて確認しといてや。
CT | MRI | 他 | |
---|---|---|---|
上咽頭癌 | 造影される腫瘤を認める | T1強調で低~等信号 T2強調で等~やや高信号 造影効果あり | ・ローゼンミュラー窩に好発し、左右非対象の腫瘤 ・多発リンパ節を伴う事も多い ・上咽頭悪性リンパ腫では周囲組織に対して圧排性に発育し左右対称性がある ・悪性リンパ腫ではADCが低いが未分化型の癌でも低ADCを示す事がある |
中咽頭癌(p16陽性) | 同上 | 同上 | ・p16陽性中咽頭癌では口蓋扁桃、舌根に好発しリンパ節転移の頻度も高い ・リンパ節転移は薄い被膜で内部が均一な液体状である事が多い ・悪性リンパ腫との鑑別ではADCが有効な事が多い |
中咽頭癌(p16陰性) | 同上 | 同上 | ・境界不明な腫瘤で浸潤スピードが速い ・翼突下顎縫線や口蓋帆挙筋、茎突咽頭筋などの咽頭側方筋群に沿った進展確認が重要 |
上咽頭癌 | 同上 | 同上 | ・治療方針決定の為に深部方向への浸潤程度、梨状陥凹尖部などの尾側方向への浸潤評価をする ・亜部位の評価も行う |
実際の症例
次に実際の画像症例や。60代男性で声帯不全麻痺の精査でMRIを検査して梨状後部の下咽頭癌の診断となった例や。両側小角結節や梨状陥凹にかけての腫瘤が認められると思うで。こうみると下咽頭後壁まで浸潤してるかもしれんな。腫瘍の最大径は4cm以下なんやけど、声帯不全麻痺(声帯固定)があるためにT3の診断となった例やわ。
次はこの症例や。70代男性で嗄声と呼吸困難で受診して精査となった例や。右甲状軟骨への浸潤や気道変位狭窄も認められると思う。原発が難しい例やと思うけど、声門癌と診断されたで。
中咽頭癌、下咽頭癌で椎前筋膜、椎前間隙、頚椎への直接浸潤を認める場合は、根治的切除が難しいと言われてんねん。せやからこの評価が重要なんやけど、咽頭後間隙の脂肪織の同定が重要な所見なんや。ここを認める事ができれば、椎前筋浸潤は非定される事が多いで。
鑑別診断のポイント
悪性リンパ腫との鑑別
次に鑑別診断についてや。上咽頭癌、中咽頭癌においては悪性リンパ腫との鑑別が必要になるときがあるな。ただ、ADCや腫瘍の形状、発育具合などを確認する事が出来れば鑑別はある程度可能な事があるな。他には進行例で発見された時に声門癌が下咽頭癌かの鑑別が必要な時もあるで。
頭頚部悪性腫瘍
他の頭頚部の悪性腫瘍については下記を確認してみてや。
まとめ
今回は咽頭癌についてレクチャーしたで。咽頭癌って言っても上咽頭、中咽頭、下咽頭と3ほどやったから中々のボリュームだったと思う。ポイントは4つや。
咽頭癌においてCTやMRIはあくまで補助的な位置づけである
上咽頭癌では傍咽頭間隙への浸潤が重要(浸潤があるとT2)
中咽頭ではp16が陽性かどうかでステージングが変わる
下咽頭癌では、発生部位(亜型)によって予後が変わるので、発生部位を特定する事は重要
とこんな感じやな。色々と覚える事が多くて特に解剖は重要やで。周囲の浸潤の有無がその後の治療法に影響するからな。機能温存は勿論、切除可能の判断も関係してくんねんで。治療後に自分の声が残るのと残らないのでは大きな違いやからな。
あとは検査する時の注意点としてMRI時はどうしても嚥下の影響でアーチファクトが出やすいねん。この辺りも技師はんの腕の見せ所やで。日々修行の繰り返しちゅーことや。
ほな、精進しいやー!