脾損傷(splenic injury) 肝損傷(hepatic injury)

なぁ、自分はこの仕事をしていく上で何が一番大切やと思う?

うーん、なんでしょうかね?やっぱり知識やスキルですかね。これらが無いと仕事になりませんからね。

ワシな、愛嬌やと思うねん。対人のサービスは結局は愛嬌やと思うねん。

脾損傷(splenic injury)と肝損傷(hepatic injury)

という訳で、ワシも愛嬌たっぷりに本日のレクチャーをしてくで。今日は脾損傷と肝損傷についてや。ニコッ!

脾損傷

まずは脾損傷からやな。脾損傷とはその名の通り、脾臓が外傷などにより損傷した状態や。腹部実質臓器損傷の中では最も頻度が高くて、腹腔出血もしばしば見られるで。これは脾臓は被膜が薄くて損傷しやすい事が関係してんねん。

臨床症状

臨床症状は左腹部痛、吐き気、出血性ショックなんかや。脾臓内の出血が腹腔内に漏れ出ると出血性ショックになったりもするで。

治療法

治療法は軽症なら保存的治療、活動性の出血があった場合はカテーテルでの塞栓術、重症例は外科的治療になるで。カテーテルでの塞栓術は治療後に腎梗塞を起こす事が多いのも注意点や。梗塞からの壊死や膿瘍形成なんてこともあるで。

脾損傷の分類

脾損傷分類内容
Ⅰ型 被膜下損傷 subcapsular injurya. 被膜下血腫 subcapsular hematoma
b. 実質内血腫 intraparenchymal hematoma
脾被膜の連続性が保たれている損傷をいう。
被膜下血腫(Ⅰa)、実質内血腫(Ⅰb)が この型に含まれる。
後者は術中、肉眼的に 観察することは困難であるが、脾損傷患者の経過中、画像診断で見られることがある。
Ⅱ型 表在性損傷 superficial injury 損傷が脾表面から実質の約1/2の深さ未満の実質損傷であるものをいう。
Ⅲ型 深在性損傷 deep injurya. 単純深在性損傷 simplede deep injury
b. 複雑深在性損傷 complex deep injury
損傷が脾表面から実質の約1/2の深さ以上におよぶ実質損傷であるものをいう。
a は創縁,創の走行などが比較的単純で、損傷が脾門部領域にかからないものをいう。
b は創縁,創の走行などが、複雑もし くは損傷範囲が脾門部領域にかかるものをいう。
脾片に分断されている粉砕型もこの分類に含む。
脾損傷分類
Appendix 合併損傷の表記 脾門部血管損傷(HV)
 ※日本外傷学会臓器損傷分類委員会:脾損傷分類 2008(日本外傷学会).日外傷会誌 2008;22:263.

肝損傷

肝損傷は脾損傷の次に頻度が多い状態や。これも何らかの外傷により肝臓が損傷したパターンや。交通外傷が多いかな。肝損傷も被膜が破れると腹腔内出血になって出血性ショックになったりするな。

臨床症状

臨床症状は腹痛や腹膜刺激症状や。出血がひどいと出血性ショックのような症状も出るでで。

臨床症状

治療法は、保存的療法、塞栓術、外科的治療と脾損傷と同じような形や。

保存的治療は活動性出血や仮性瘤、動静脈瘻があらへん場合が対象やで。

カテーテル治療は動脈からの活動性出血の場合はTAEが選択されるで。

門脈損傷なんかが疑われて全身状態が悪い場合は外科的に開腹して止血優先で治療する事もあるらしいで。

肝損傷の分類

肝損傷分類内容
Ⅰ型 被膜下損傷 subcapsular injurya. 被膜下血腫 subcapsular hematoma
b. 実質内血腫 intraparenchymal hematoma
肝被膜に損傷はなく連続性が保たれている 損傷である。
被膜下血腫(Ia)と実質内血 腫(Ib)がある。
なお、Ⅰ型の血腫が時間 の経過とともに増大し破裂したとき損傷 形態はⅠ型からⅡ型、Ⅲa 型またはⅢb 型 に移行する。
Ⅰ型であっても厳重な経過 観察を要することがあり、TAE か緊急手 術が必要になることがある。
Ⅱ型 表在性損傷 superficial injury 創の深さが3cm 未満の損傷である。
一般的には Glisson 脈管系を損傷することがなく保存的に治療できるが、外側区域および 肝門周囲においては、ときに Glisson 脈管 系を損傷することがある。
CT 検査により 本損傷形態を描出できることもあるが、多くは他の腹腔内臓器損傷で開腹した際に発 見されることが多い。
Ⅲ型 深在性損傷 deep injurya. 単純深在性損傷 simplede deep injury
b. 複雑深在性損傷 complex deep injury
損傷の深さが3cm以上の損傷形態である。
a は創縁や破裂面が比較的 simple で創周囲の挫滅や壊死組織の少ない損傷である。
b は創縁や破裂面の損傷形態が複雑で、組織挫滅や壊死組織が広範におよぶものと規定する。
肝損傷分類
Appendix 合併損傷の表記 肝静脈(HV)、肝後面下大静脈(IVC)、胆管(B)、胆嚢(GB)、胆汁嚢腫(BL)
 ※日本外傷学会臓器損傷分類委員会:肝損傷分類 2008(日本外傷学会).日外傷会誌 2008;22:262.

これらを含めた重症度判定でスピードを優先する読影方法もあんねん。脾臓の場合はfocused assessment with sonography for trauma:FAST、肝臓の場合はfocused assessment with CT for trauma:FACTっちゅーのがあるで。これは次の画像所見についてで話していくで。

画像所見

脾損傷と肝損傷の画像所見

次に画像所見についてや。まず脾損傷、肝損傷両方ともに言えるのが、多相撮影が望ましいという事や。

脾臓から話すと、正常例でも早期相でまだらに造影される事があって鑑別が難しい事があるんや。後期相(平衡相)を撮影すれば、均一になるかまだら造影かで損傷の有無の判断が出来るで。

肝臓はそもそも支配血管が動脈と門脈の2つあるしな。ただ施設のプロトコルや時間的制限もあると思うから、難しい場合があるのも分かるで。

次に詳細な読影についてや。これらは被膜下血腫の有無や実質内の造影不良域、被膜断裂や損傷の深達度で重症度を判別していくで。他には血管外漏出(extravasation)や仮性動脈瘤の有無で血管の損傷も確認が必要や。

肝損傷では門脈周囲の低吸収域、これをperiportal trackingと呼ぶねんけど、これがあると肝3管(胆道、門脈、肝動脈)損傷のサインや。また肝静脈や下大静脈周囲まで低吸収域が進展している場合は静脈損傷が疑われるで。見逃さなんようにな。

FASTとFACT

最後にFASTとFACTについてや。FASTは簡単に言うと脾臓周囲の液体貯留の確認方法や。FACTは緊急性が高い順番に全身を効率的に読影する方法や。

具体的には下記の通りやで。解剖をちゃんと覚えておくようにな。

内容方法
FAST
(focused assessment with sonography for trauma)
短時間で治療緊急性が高い病変のみを優先的に検出臥位においてモリソン窩、脾周囲、膀胱直腸窩の3点に液体貯留があるか、また心嚢液、胸腔内の液体貯留の有無を1分で検出する
FACT
(focused assessment with CT for trauma)
外傷において全身CTを緊急性に応じて3段階で読影する方法第1段階は①緊急開頭を要する頭蓋内血腫、②大動脈弓部から狭部にかけての損傷、縦隔血腫、③広域な肺挫傷、大量血胸・気胸、心嚢血腫、④腹腔内血腫、⑤骨盤骨折と後腹膜出血、⑥腹部臓器損傷、腸管膜内血腫の6項目を数分で読影する。
いずれかが該当すればFACT陽性になり、緊急処置へ移行する。
第2段階はFACT以外の損傷、出血の確認、第3段階で細かい読影を実施する。

FASTでモリソン窩に液体貯留があった場合は肝損傷を疑うんやで。

実際の症例

実際の脾損傷の画像や。脾臓の造影不良域が平衡相まで残ってるやろ。他にextravasationも認めるな。

腹部CT画像 膵損傷
Case courtesy of Craig Hacking, Radiopaedia.org

別症例や。分類で言うとⅢbになるな。

腹部CT画像 脾臓中心
Case courtesy of Bruno Di Muzio, Radiopaedia.org

肝損傷(裂傷)の例や。Extravasationも認めるな。

腹部CT画像 肝損傷
Case courtesy of Ian Bickle, Radiopaedia.org

鑑別診断のポイント

鑑別診断について

鑑別診断についてやけど、脾臓や肝臓自体の損傷の診断にはそれほど苦慮せーへんやろ。

むしろ、それらの周囲の損傷を見逃さへんように注意する事が大切やな。

まとめ

今回は脾損傷と肝損傷をレクチャーしたで。ポイントは2つや。

損傷の有無を確認するには多相撮影が望ましい

FASTやFACTの内容を理解しておく

こんな感じや。実質臓器損傷と血管損傷の有無の確認が必要や。

損傷分類やExtravasationやperiportal trackingなんかのサインがあったで。

早期像だけやと判断に苦慮する場合があるで。他には緊急性が高い順番に所見をピックアップしていくんやで。ニコッ!

世の中愛嬌やで!
ほな、精進しいやー!