この症例見てみぃや。
胸腺腫ですね。かなり大きな腫瘍ですね。
胸腺腫やと思うやろ?でも実際は胸腔内甲状腺腫やねん。これはワシが若手の頃に遭遇した症例や。その頃は今みたいにデジタルやなくてフィルムで読影しててん。せやからメッチャ効率が悪かってん。当時は若手やし経験詰まな!と思ってひたすら読影しててんけど、集中力が切れてたんやろな。今の自分と同じように胸腔内甲状腺腫とせなアカンところを胸腺腫としてしもうたんや。
そしたら上級医師に怒られてしもうたんよ。ちゃんと画像を読め、オタンコナス!ってな。見返してみると確かにそうやねん。そこで胸腺腫にも類似疾患があるってのを、その時に再認識した訳や。つい昨日、胸腺腫の症例を見ててそんな事を思い出してん。
てな訳で今日は胸腺腫についてレクチャーしてくで。
もくじ
胸腺腫(thynoma)とは
胸腺腫の概要
ここで質問や。胸腺ってなにをしてるところか分かるか?
胸腺ってのは、縦隔にある表皮細胞とリンパ球からの中枢性リンパ器官なんや。胸腺は小児期に発達して思春期以降に段々と小さくなっていって40歳くらいまでには完全に脂肪組織に置き換わんねん。胸腺腫はこの退化した細胞から発生する腫瘍なんや。
胸腺腫にはWHO分類でtypeAからtypeB3までの5つがあって、これに胸腺癌を加えて計6つに分類されるんやで。B3になるに従って予後が悪くなるで。
- 胸腺癌:細胞異型を伴う胸腺上皮性腫瘍で様々な組織型を含む
- TypeA:紡錘形・卵円形
- TypeAB:typeBに類似した未熟Tリンパ球の豊富な領域が混在したもの
- TypeB:類円形・多角形
- TypeB1:腫瘍細胞の異型性とリンパ球の多寡の割合で、リンパ球に富むケース
- TypeB2:B1とB3の中間
- TypeB3:細胞異型が強くリンパ球は少ない
基本的に無症状で周囲の組織に浸潤してから症状が出る事が多いな。主な症状は咳、胸痛、呼吸困難なんかやけど基本的には無症状や。
中年に多く好発して、小児のケースはほとんどあらへん。ちなみに精査もあらへんで。他の検査で偶然発見される事も多くて、前縦隔腫瘍としては最も高頻度な疾患や。
様々な自己免疫性疾患を合併する事が知られていて、特に重症筋無力症は胸腺腫の20%程度に合併するというデータもあるで。
胸腺腫と重症筋無力症がなぜ合併するのか 大阪大学免疫学フロンティア研究センター
ちなみに胸腺癌になると、自己免疫疾患の合併がほとんどあらへんくて、周囲への浸潤やリンパ節転移などの頻度が高くなって予後不良やで。
縦隔の解剖と役割
胸腺は前縦隔にある組織やで。縦隔の解剖は下記の通りや。ちなみに縦隔の区分はFelsonの分類やJARTの分類、ITMIG分類なんかがあるで。最近はITMIGで分類する事も多いかな。胸腺は前縦隔にあるのも覚えておくんやで。
上縦隔 | 胸骨角(Th4の高さ)より上部 |
前縦隔 | 上縦隔より尾側で心膜前面より腹側の部位 |
中縦隔 | 上縦隔より尾側で心膜前面から椎体前面から1cm後方までの部位 |
後縦隔 | 上縦隔より尾側で中縦隔より背側の部位 |
胸腺の主な役割はT細胞を作る事なんや。T細胞は骨髄で元が作られて胸腺でT細胞になんねん。ちなみにT細胞にはキラーT細胞とヘルパーT細胞っていう2つの細胞があって、前者が抗原を攻撃する細胞、後者が他の免疫細胞に指示を出す役割なんや。免疫細胞は骨髄で作られてるって事になるな。
胸腺腫の原因と治癒率
胸腺腫の原因やけど、現時点でこれといった因果関係があるものはあらへん。ちなみに罹患率やけど、10万人あたり0.5人前後というデータがあるで。これは胸腺腫の罹患数やから、胸腺癌になるともっと少なくなるな。
5年生存率は胸腺腫で95%、胸腺癌で85%という数字が肺癌学会から出てるで。胸腺腫5年生存率で検索するとヒットすると思うで。
胸腺腫のTNM分類
次に胸腺腫の病期分類や。正岡分類がよく使われてるで。TNM分類も合わせて載せておくからチェックしといてな。
正岡分類 | 概要 |
---|---|
Ⅰ期 | 肉眼的に完全に被包されていて、顕微鏡的にも被膜への浸潤を認めない |
Ⅱ期 | 周囲の脂肪組織や縦隔胸膜への浸潤がある または被膜への顕微鏡的浸潤 |
Ⅲ期 | 近隣組織(心膜、大血管、肺)などへの浸潤を認める |
Ⅳa期 | 胸膜または心膜播種がある |
Ⅳb期 | リンパ行性または血行性転移がある |
T分類 | T1 | T2 | T3 | T4 |
T1a:被膜に覆われている、または前縦隔脂肪織に進展 T1b:縦隔胸膜に浸潤している | 部分、全層を問わず心膜に直接浸潤している | 隣接臓器(肺、腕頭静脈、上大静脈、胸壁、横隔神経、胸壁や心嚢外肺動脈あるいは肺静脈)に浸潤している | 隣接臓器(肺、腕頭静脈、上大静脈、胸壁、横隔神経、胸壁や心嚢外肺動脈あるいは肺静脈)に浸潤している | |
N分類 | N0 | N1 | N2 | |
リンパ節転移なし | 前縦隔リンパ節転移がある | 深部胸腔または頚部リンパ節転移がある | ||
M分類 | M0 | M1 | ||
遠隔転移なし | M1a:胸膜あるいは心膜播種 M1b:肺内転移または遠隔転移がある |
こっちは臨床病期分類や。
N0 | N1 | N2 | M1a | M1b | |
---|---|---|---|---|---|
T1 | Ⅰ | ⅣA | ⅣB | ⅣA | ⅣB |
T2 | Ⅱ | ⅣA | ⅣB | ⅣA | ⅣB |
T3 | ⅢA | ⅣA | ⅣB | ⅣB | ⅣB |
T4 | ⅢB | ⅣA | ⅣB | ⅣB | ⅣB |
胸腺腫の概要についてはこんなもんやな。
参考までに治療法やけど、完全切除が可能な症例については基本的には切除術を行うねん。胸腺癌や周囲臓器に浸潤している場合は化学療法や放射線治療も行う事があるで。
画像所見
胸腺腫の画像所見
さて、画像所見について話していこかな。大きく分けて胸腺腫の低リスク群、高リスク群、胸腺癌の3つに分けられるわ。
分類 | 画像所見 |
---|---|
胸腺腫低リスク群 | ・辺縁が平滑で境界明瞭な円形、楕円形の腫瘤 ・明瞭な内部隔壁や被膜が認められ、均一に造影される場合が多い ・MRIでは被膜や隔壁はT1強調、T2強調共に低信号で造影はWahOut型を示す ・病変は小さい事が多い |
胸腺腫高リスク群 | ・辺縁不整で分葉状腫瘤 ・内部に嚢胞、壊死、出血などを認める ・被膜が不鮮明で周囲へ浸潤傾向も認める ・内部に石灰化を伴う事が多く、内部隔壁に沿った点状、円弧状の石灰化が特徴的 ・造影は不均一 |
胸腺癌 | ・胸腺腫高リスク群と同様 ・両者の鑑別は難しい事が多いが、リンパ節転移、遠隔転移の頻度が高い |
高リスク群と胸腺癌の鑑別は画像上、困難な事が多いで。血行性転移やリンパ節転移は胸腺癌で多くて胸腺腫では稀やから、そこの点も鑑別ポイントの1つにはなるかもしれんな。
次に実際の画像でチェックしていこか。
実際の症例
50代男性や。検診精査でCT検査を実施して胸腺腫を認めた例やで。6ヶ月後のフォロー検査で大きさに変化があらへんくて、最終的に胸腺腫と診断された例や。
こっちも50代男性で胸部異常陰影で精査となった例や。FDG-PETも撮影してたから載せておくで。FDG-PETで高集積を認めるのが分かると思う。その後の切除術で胸腺癌と診断された例や。
70代男性で他の疾患のスクリーニング時に偶発的に見つかった例や。石灰化もあるのが分かると思うで。その後の精査で胸腺腫の診断となっとる。
鑑別診断のポイント
他の縦隔腫瘍
鑑別診断やけど、縦隔腫瘍は他に胸腺カルチノイド、胸腔内甲状腺腫、奇形腫、リンパ腫、胸腺嚢胞なんかがあるで。内分泌異常があれば胸腺カルチノイド、甲状腺との連続が確認出来れば甲状腺腫、内部に脂肪成分を認めれば奇形腫と、各々の特徴的な所見を知っておく事やな。縦隔の鑑別疾患まとめを載せておくで。
鑑別疾患 | |
---|---|
前縦隔 | 胸腺嚢胞、心膜嚢胞、リンパ管腫、奇形腫、甲状腺腫、胸腺過形成、胸腺上皮性腫瘍、悪性リンパ腫、胚細胞性腫瘍 |
中縦隔 | 気管支原性嚢胞、傍神経節腫瘍、Castleman病、食道病変 |
後縦隔 | 髄膜瘤、膵仮性嚢胞、神経原性腫瘍 |
まとめ
今日は胸腺腫についてレクチャーしたで。ポイントは3つや。
縦隔腫瘍のほどんどは胸腺腫で自覚症状は無い事が多い
胸腺腫は胸腺癌を含めて6つに分類され胸腺癌が最も予後が悪い
分葉状で内部に壊死や出血、石灰化などを認めたら高リスク群、もしくは胸腺癌を疑う
こんなところや。検診で引っかかったり、他の検査で偶発的に見つかるケースがほとんどやな。一方で胸部Xpだと縦隔と重なって指摘が難しい事が多くて、逆に症状が出てくる頃には浸潤や転移をしてる事が多いねん。
ちなみに話しが変わるんですが、オタンコナスの語源が気になったので調べてみたらまさかの結果でした。
マジでか?使っておいてなんやけどワシは知らんかったわ。どんなん意味やったん?
えっ?教えてくれへんの?ワシ、泣くで?本気やで!?
・・・もうええわ、自分で調べるし。ってな訳で今日はこれで終わりや。
ほな、精進しいやー!