他人を変えることは出来るのか?
人はなかなか変われない
こんなふうに動いて欲しい、協調性をつけてもらいたい、もう少し柔軟な考え方をして欲しい、多様性を身につけて欲しい、もう少し勉強して欲しい。そう思って指導しているが、変わるのは指導から数日の間だけ。いつの間にか元に戻ってしまっている。人は変われないのか・・・
マネジメントする立場にいる人は、部下や後輩に対してこのような事を思ったのは1度や2度ではないのでしょうか。実際に変わってくれる人もいない訳ではありません。しかしそれはほんの一握りで多くの人は指導前に戻ってしまうか、そもそも変わる事すらありません。
同じような事を何回も伝えても変化が見られない事から、人は変わらないという結論に至っている人もいるのではないでしょうか?しかし一方で自分の評価項目の中にチームマネジメントの欄がある。どうすればいいのか。
そもそも、なぜ人は簡単には変われないのでしょうか?
そもそも変わる必要があるのか?
人が変わらなきゃいけない前に、なぜ変わる必要があるのかを考えてみましょう。
常に社会は変化しています。インターネットが登場して、スマホが出てきて、AIが出てきました。これだけ社会に大きな影響を与えるインパクトのある変化がたった数十年のうちに起きています。
もっと微細は変化は通常の業務(仕事)でも日々起きています。この変化に対応する必要があるのです。古い価値観や固定観念を持った状態は老害と呼ばれます。この老害は何も年齢が上の人だけではありません。若くても古い考えを持っており、それを変える気の無い人は老害となります。
そしてここで変わらない人が出てきた時に適切な対処をしないと、ある問題が出てきます。この問題は後々大きくなって表面化してくる事が多いです。
変わらない事での問題点
どんな問題が出てくるか
ここでは、「人が変わる事=考え方が変わり、行動も変わる事」と定義します。そもそも仕事が出来ないというのはありますが、それよりもっと深い問題が出てくるのです。
それは組織やグループにおいて不公平感が出てしまう事です。この不公平感は組織運営をする上で1番気を付けなければなりません。なぜなら、これが退職や不仲になる元凶だからです。
考えてみれば当然のことで、同じ事をしてもある人の行動は容認されて、別の人では指摘されたりする。これでは指摘される側の不満は溜まる一方です。この不満が溜まってくると助け合いも少なくなり、全員が同じ方向を向いて仕事する事も難しくなります。
人が変わると会社としても成長してくる
会社に属している以上、業務効率化であったり売り上げアップだったり何かしらのミッションがあります。そのミッションを達成するためにグループ理念や行動指針があるのですが、ここにギャップがあるとグループとして一貫性がある行動が取れなくなってしまいます。そしてこの状態は会社としても成長していきません。
人が変わり成長する事でチームや組織としてのキャパシティが広がります。余裕が生まれる事で、部署を横断したようなプロジェクトも行う事が出来る様になります。一方で成長しないと売り上げも大きくは伸びず、下記のような項目にも資金を回せなくなります。
- 設備投資
- 商品開発(R%D Research and Development)
- 待遇(給与、賞与など)
- 福利厚生(社会保障など)
組織が存続、成長して行くためには、時代の変化に合わせて変わっていく必要があります。この変化に対応出来ない会社は徐々にとフェードアウトしていきます。これは大企業でも例外ではありません。会社が変わるという事は、そこで働く人も変わるという事です。ただこれはそれほど簡単な事ではありません。
コダックの例
コダックという会社があったのを知っているでしょうか?コダックは世界で始めてフィルムを販売した会社です。(Eastman Kodak Company:wikipedia)
昔はコダックと富士フィルムが写真のフィルム事業において2大巨頭でした。両社ともフィルム事業で大きく成功しましたが、時代は変わります。デジタル化の波が押し寄せ、その変化に対応出来なかったコダックは2012年に倒産しました。一方の富士フィルムは他の業態(美容や医療)の会社に変化し、今でも大きな存在感を示しています。
両者の違いは何だったのでしょうか?それは時代に合わせて変化出来たかどうかと言われています。フィルム事業の雲行きが怪しくなってもコダックはその路線に固執しました。一方の富士フィルムは違う業種にもチャレンジし、新しい道を作ったのです。
人が変われない原因
人が変わる順番
基本的に人は簡単には変わりません。簡単に変われれば、こんなに苦労している人は多くないでしょう。まず、人が変わる順番として次のような経過を辿ります。
- 考えを変える
- 考えを変える事で行動が変わる
- 行動が変わる事で価値観が変わる
このように最初は小さな事から変えていく必要があります。最終的に価値観を変える事ができれば人は変わる事が出来ます。逆にいうと価値観が変わらないと本当の意味で変わったとは言えないのです。これがすぐに元に戻ってしまう理由です。そして価値観が変わるまでには、通常長い時間が必要になる事が多いです。
なかなか変われない原因
人が変わるには価値観を変える必要があるのは上で話した通りです。しかしこの価値観は生まれてから今までの数十年間で作られたものなので中々変える事が出来ません。
何故なら「価値観を変える事=今までの自分を否定する事」と錯覚してしまう事があるためです。小さい頃は両親からの影響を強く受けます。ふれあう対象が親が多いためで、親の価値観をそのまま学びます。そして感受性が高くなる思春期には、周りの友達などの環境が大きく影響します。これら期間に何かしら努力して成し遂げた成功経験がある人は、社会人になっても努力する事が出来ます。
一方で、努力はしたけれども結果が出なかった、しかも誰からもそのプロセスを認めて貰えなかったような経験や体験があると、努力する事は無駄なんだと認識してしまう事もあります。(これは無意識下の場合も多くあります。)その場合は、少しずつ成功体験を積んでもらい行動と意識を変えていくしかないのですが、それには長い時間が必要になります。
このように幼少期や思春期を含む20数年間で作られた価値観はそう簡単に変える事が出来ないのです。
例外的に価値案が変わる時
一方で例外的に価値観が一気に変わる時もあります。それは、
人生を変えるような大きな感情が揺れる体験があった時
です。失恋などは良い例かもしれません。失恋という体験が自分のアイデンティティを壊します。特に振られた時ほど急激に壊されるので大きな傷が残ります。そして時間と共に回復しようとしますが、その時に、
自分を見つめ直す→原因(改善点)が分かる→改善しようと考えが変わる→考えが変わり行動も変わる→行動も変わり新しい体験を得る→価値観が変わる→新しい自分になる→他人から見ると人が変わったように感じる
この一連の流れが短期間で起きます。これが短期間で価値観が変わる理由になります。短期間で変わるには、それ相応の傷が必要なのです。
失恋の他には身近な事例としては、自身の病気や怪我、結婚や子供が出来たり、または両親や兄弟など近しい人の不幸なんかがあります。これらに共通しているのは、非日常な出来事という事になります。
人の行動を変えて価値観を変える
どうやって考えや行動、価値観を変えていくか
結論から言うと他人の考え方や行動を変える事は時間と根気が必要です。この時間も、どの程度必要かは個々によって異なるので一概に言えません。
「考え」、「行動」、「成功体験」、「価値観」、このような流れで徐々に人は変わっていきます。少しずつ修正していくイメージが近いかもしれません。そして途中での成功体験を上司や先輩がピックアップし、本人に定期的にフィードバックする事が必要です。でないと簡単に元に戻ってしまいます。
そしてこれが重要なのですが、これらの変化は他人が強制しても変わる事はありません。あくまで本人の納得が必要になります。ただし最初から納得は必要ありません。行動して少しずつ成功体験を積む事で腹落ちして納得する事もあります。それだけ相手の価値観を変えるのは大きな事なのです。
変えたければ仕組み化を利用して習慣化させる
これらの一連の行動ですがモチベーションにも左右されます。そしてモチベーションは波があります。モチベーションが上がらずに「今日はいいか」が出てくる。そして2回、3回と繰り返し、そのうちやらなくなる。よくあるパターンです。ではどうするか。
その1つの方法として、習慣化させてみるというのがあります。習慣化させる事でモチベーションに左右されない環境を作ってしまうのです。それこそ毎日の歯ブラシやお風呂くらいまでに習慣化させる事が出来ればベストですね。最初のうちは大変ですが、慣れると自分で判断する事なく動けるようになります。
どうしてもの時は他人も巻き込む
しかし人間というのは行動を習慣化するのが苦手です。そんな人にアドバイスですが、この習慣化は個人でやると失敗する事が多いので、他人を巻き込んで守らざるを得ない環境を作り上げてしまって下さい。他人を巻き込む事で簡単に約束を破れない状況にしてしまうのです。
ダイエットしようと決意してジムに入会した。最初のうちは定期的に通っていたが、何かの理由で行けない事があった。増えてきて段々と行かなくなった。
これは誰にでも経験があるのではないでしょうか?ダイエットあるあるだと思います。これがパーソナルトレーナーをつけたとしたらどうでしょうか?少なくともやらなきゃという意識は大きくなりますよね?このように他人を巻き込む事で強制的にやらざるを得ない環境を作るのがポイントです。
私の後輩でも結果を出すような人は行動を仕組み化してしまっている事が多いです。元々は同期の中でも下の方だったある若手は、私との定期面談の中で毎朝1時間の朝活(読書)をする事、そしてその中から当日中にやってみる事を1つピックアップして実践する事を約束しました。その結果、少しずつ成功体験を積んで同期の中でトップクラスの存在になっています。単純計算で年間200個以上の実施項目、そりゃ大きな差がつきますよね。
採用の時から注意する
このように人を変えるというのはとても大きな労力が必要です。短期間では基本的に変わりません。時間をかければ変える事も可能ですが、そんな余裕はどの職場にも無いと思います。なので重要になるのが採用です。
採用で自社やグループの理念に沿った価値観の人を採用するのがポイントになります。
その為には、まず自社がどのような人材が欲しいのか、そしてどんな価値観の人間ならマッチするのかを明確にしておきましょう。特に面接時にその人がどんな考えを持っているのかを確認するのは重要です。他責思考なのか自責思考なのかを確認するだけでも全然違いますよ。
アイデンティティを作る場所や環境も大切
ちなみに人の行動が変わる時というのは、今の職場ではなく次の職場や環境で変わる事も多いです。今の職場ではすでに他人から見えるキャラクターが出来ています。これを変えるのは大変な作業になります。途中で「アイツは変わった」などのやっかみも出てくるかもしれません。人間は否定されるのを嫌がる生き物なので、これも変化するにあたって障害となります。
一方で転職した場合は、キャラクターの作成をゼロから始められるので、新しい自分を作り上げるのが簡単です。なのでほとんどの人は転職して変わる事を選択します。そして次の場所で前回の反省をふまえて新しい自分を作り上げます。これが行動が変わり、価値観が変わる事に繋がります。この傾向は若ければ若いほど顕著です。やはり若いというのはそれだけで武器になります。動ける内にという考えが強いのでしょう。
まとめ
人が変わることとは
今回の内容を簡単にまとめると、以下のようになります。
- 人が変わるのには価値観まで変わる事が必要
- 考え→行動→(成功体験)→価値観の順に変わる
- 基本的に人は短期間では変わらない(変われない)
- 例外的に短期間で変わるのは、非日常な出来事が起きた時
- 変わるために他人を巻き込んで習慣化させる事も選択肢の1つ
人の価値観を変えるには、まず行動から変えていく必要があります。しかしこの手順には多くの時間とリソースが必要になります。そのためには仕組み化が有効な手段ですが、どんなに仕組み化しても本人が変わる気が無ければ意味がありません。本人が変わる必要性を感じていなければ、周りがどんなに言っても変わらないのです。
スティーブン・R・コヴィー博士の著書で「7つの習慣」というものがあります。この本に影響の和と関心の輪という考えが出てきます。
影響の和が自分自身で変えられる事、関心の輪が自分では変えられない事を言うのですが、この関心の輪に他人の態度や考えが入っています。それだけ他人を変えるというのは難しいんですね。興味がある人は是非読んでみて下さい。かなり参考になる部分が多いです。
そして価値観を変えるのは基本的に難しいので、採用がとても重要になります。採用面接時に組織にマッチするような考えや価値観のイメージ像を明確にしておくと良いでしょう。そして面接では、相手の価値観を知るために時間を使う。これだけでも大きく違ってきます。
ただ、あれもこれもではいつまでたっても適任者が現れません。ポイントは優先順位をつける事です。いくつかある価値観の中で、これだけは外せないというポイントを2つ程度まで絞りましょう。その他は捨てるくらいでもいいです。特に中小企業は応募してくる人達が大企業ほど選べる訳ではありません。
ぜひこのような形で採用、育成にチャレンジしてみて下さい。
ちなみに、すでに採用した人を変える必要がある場合は時間と根気が必要になる事を覚悟しておきましょう。