企業の平均寿命と離職率
3年以内に3割が退職
35.9%と31.5%。これは何の数字だか分かるでしょうか?これは厚生労働省が発表した2019年における新卒(高卒、大卒)内定者が3年以内に離職した割合です。このデータはこちらの記事の「3人に1人」という項目に記載しているので、見てみて下さい。
このデータによると、だいたい3人に1人が3年以内に離職している計算になりますが、内訳を見ると事業所規模が小さければ小さいほど離職率も高いようです。また高卒、大卒共に宿泊、飲食関係が1位になっています。2019年のデータなのでまだコロナの影響が無い状態でのデータですが、多いと思った人もいれば、思ったほどではないと感じた人もいるのではないでしょうか。
企業の平均寿命と人の労働年数
一般的に企業の寿命は20~30年と言われています。この数値はあくまで1つの分野における寿命です。あるサービスがヒットすると、それに応じて売り上げも右肩上がりになりますが、いずれは頭打ちになる時期が来ます。
その後も継続的に売り上げを上げていくには、新サービスをリリースしたり、新規分野にチャレンジする必要があるかもしれません。そこで成功か失敗を繰り返しながら成長していきます。中にはある特定の分野で100年以上続く企業もありますが、それはほんの一握りです。データについてはこちらの記事の「企業の寿命」という項目で記載していますので、確認してみて下さい。
また同様のデータが東京商工リサーチからも出ています。こちらのデータによると、2022年に倒産した企業の平均寿命は23.3年でした。コロナ禍という事もありますが、この倒産件数には老舗企業の割合も33%と長年存続してきた企業も含まれています。(平均寿命23.3年 ~2022年 業歴30年以上「老舗」企業の倒産~ 東京商工リサーチ)
医療業界も例外ではない
これは医療分野でも例外ではなく、病院や医療法人の倒産も目にするようになりました。ただ医療機関は倒産とは少し意味合いが違い、後継者不足による休廃業という形が多いようです。この場合は税務状況には問題無いケースが多いのですが、事業をたたむという点では同じような意味合いになると思います。(医療機関の休廃業・解散、倒産の 17 倍超 帝国データバンク)
人の労働年数
今や人の労働年数は約40年とも50年とも言われています。2025年4月からはすべての企業で65歳以上の雇用確保が義務化される事から見ても、今後は70歳まで働く時代もそう遠くありません。(高年齢者雇用安定法改正の概要 厚生労働省)
最初に述べた通り入社から3年以内に退職する人もいれば、確率上は本人に転職の希望が無くても最低1回は転職しなければなりません。このように最初の3年以内に転職する人もいれば、最初の企業で定年まで働くという時代は終わりつつあるのです。
新卒者が考える理想の職場と現実
新卒内定者が考える理想の職場とはどんな職場でしょうか?
パーソル総合研究所が出している「働く10,000人の就業・成長定点調査2023」からのデータで、従業員が組織を選ぶ上で重視している事は何か?という質問に対して上位の回答は次のようになっています。
- 職場の人間関係がよいこと(37.4%)
- 雇用が安定していること(29.3%)
- 会社に将来性があること(13.7%)
(働く10,000人の就業・成長定点調査2023 パーソル研究所)
やはり人間関係は重要なようです。またこのデータを数年に渡り定点観測したデータがあります。それによると、20代の若手が求める条件で上昇or減少しているのが次の通りになります。
- 上昇:知識やスキルが得られる事、資格取得に繋がる事、社会貢献に繋がる事、入社後の研修や教育が充実している事
- 減少:休みの取りやすさ、人間関係、ワークライフバランス、待遇
このように若手は休みや待遇よりも能力の上昇にシフトしてきているのが分かります。
これらは大手企業なら可能かもしれませんが、多くの中小企業は難しい事も多いかもしれません。その結果、入社した新人がすぐに辞めてしまう。しかし企業が存続するためには良い人材に長く活躍して欲しいし、その為に離職率は下げたい。
では離職率を下げる為にはどうすればいいのでしょうか?
離職率が高いことでの問題点
会社の成長には人は必要不可欠
事業が拡大していくと、それに伴い職員も必要になってきます。最初は少人数で社内の事を回せていても、ある程度の規模になると業務分担をしないと優先度が高い業務に集中出来ないからです。そのため入社した人材を教育し、定着してもらう必要があるのですが、これが上手くいかないケースが多いようです。
終身雇用は過去の話
新卒で入社した会社に定年まで勤務する。そうすれば給与も段々と上がっていき、いずれは役職にもつける。定年時には退職金をもらい悠々自適に過ごす。
このような終身雇用制度は昔の話しになりました。2019年には当時の中西経団連会長が「企業が今後、終身雇用を続けているのは難しい」との発言もあったのは記憶に新しいと思います。現代において終身雇用と年功序列を継続していくのが難しいのを事実上認めた形になります。
これは今後は会社に頼るなと言っているのと同意味なので、今の若者は以前と比較して1社に留まるという考えをもった人が少なくなりました。つまり普遍的なスキルを習得する方に重点を置きはじめているのです。なので今の若い人は自分にメリットが無いと感じたらすぐに転職していきます。
せっかく事業が軌道に乗ってきたのに人材不足。このような事も多いのではないでしょうか?
会社のステージによって必要な能力が変わる
1度入社したら定年まで働く。昭和の時代はそれが当たり前でしたが時代は変わります。そして会社も時代に合わせて変わって(成長して)いかなければなりません。会社が成長するとは、ステージが変わる事を意味します。
一般的に企業の成長ステージは「創業期」、「成長期」、「安定・拡大期」、「衰退・再生長期」の4つと言われています。そして各々のステージで必要とされる能力は当然ながら違います。
創業期や成長期には強いリーダーシップが求められます。ガンガン引っ張っていってもらわないと会社が倒産していまいます。そこを乗り切って安定・拡大期になると、カリスマのようなリーダーシップよりは官僚的な能力が必要になってきます。社長がこれらの能力を持っていれば問題ありませんが、社長も万能ではありません。自分に足らない能力を社員に担ってもらう事も当然ながらあります。
しかしここで問題となるのが、以前のステージでは必要だった能力が違うステージになると必ずしも必要ではないという事です。むしろ時期が違えばマイナスの影響を与える事もあったりするのです。
離職率が低い職場がいい職場なのか
会社のステージが変わる事で社員が必要とされる能力も違ってきます。なので社員も会社のステージに合わせて自分の能力をアップデートしなければなりません。しかし個々で得意なこと、不得意なことがあります。
つまり一定数で変われない人達が出てくるのです。この人達が会社に残ると十分に能力を発揮できずに働く事になります。つまり生産性が低い状態です。こういうタイプは、いわゆる昔はバリバリやってたという人達です。本人も薄々気がついてはいるのですが、過去の実績からのプライドが邪魔をしてなかなか変わる事が出来ません。いわゆる働かないオジサン達です。
離職率が低かったりゼロという事はこのような人達も在籍しているという事とも言えます。そして過去の実績があるためにそれなりの待遇の事も多いのです。そう考えると一概に退職率がゼロが良い職場とも言えないのではないでしょうか?
これには、どの層が退職しているのか、それが良い退職なのか、悪い退職なのかを見極めるのがポイントです。離職率が高い原因を特定する
離職の大きな4つの原因
ステージに合わせて人材を入れ替える。これが出来れば理想ですが、日本はアメリカのようにレイオフのような事は簡単にはできません。また一定数の人数がいない通常業務も回らなくなるので、大量退職は避けなければなりません。コロナ禍を経て今はどこの企業もギリギリの人数なのと、2019年から段階的に始まった時間外労働の規制もあるので一般的に退職率は低い方がいい事が多いです。
(時間外労働の上限規制の適用猶予 厚生労働省)(適用猶予業種の時間外労働の上限規制 特設サイト 厚生労働省)
そもそもなぜ離職するのか、理由は大きく分けて4つあると考えています。
- ライフスタイル(結婚や出産など)の変化
- キャリアアップ
- 待遇面での不満
- 人間関係
順番に見ていきましょう。
会社側が対応できる原因
この中で組織(会社)がある程度対応出来るのは「ライフスタイルの変化」と「待遇面」と「人間関係」です。
「ライフスタイル」については、産育休制度や時短制度、フレックス、リモート制度を作る事である程度は対応する事が出来ます。ただここで注意が必要なのが産育休や時短制度を作っても、結局は誰かがその分をカバーしなければならないという事です。制度を作り働く女性に配慮してますという対外アピールだけ大きくても、現場では負担が増えただけではモチベーションは上がりません。
「キャリアアップ」についてはどうしようもありません。むしろ他社へキャリアアップ転職出来るくらいの人を育てられた事を誇りに思いましょう。
「待遇面」は面接時に情報を全て公開して納得した上で入社してもらう事が重要です。入社から数ヶ月の退職の理由の主な原因はこれです。入社前に聞いていた内容と違うというのは避けましょう。いまやインターネットの時代です。そういう情報は一瞬で広まります。
「人間関係」については仲良くなる事で関係がこじれる事もあるので注意が必要です。これは別記事の「社員同士のありかた」とうページで話しています。興味があれば読んでみて下さい。
離職率を下げる方法
離職率を下げるためにする4つのこと
離職率を下る方法ですが、それは次のような事を明確にする必要があります。
- 自社ではどんな人材が必要としているのかを明文化する
- 求職者との自社のカラー(価値観)はあっているかどうかの確認
- 会社が提供できる環境や条件は相手の要望、希望とマッチしているか(ギャップはないか)
- 相手のストレス耐性はどの程度か
どんな人材(能力)を必要としているか
まずは自社がどんな人材を必要としているのかが明確ではないと、採用する基準も設定出来ません。リーダーシップが発揮できる人材なのか、それとも実務を着実にこなす人材が欲しいのか、このような事を今一度考えてみましょう。欧米ではジョブ・ディスクリプションという形で、何をしてもらいたいかが会社側から提示されている事も多いです。
価値観が合っているか
また企業の価値観と、求職者の価値観が合っているかも重要です。どんな企業なのか、どんな方向に進もうとしているのか、その考えに賛同出来るのかを確認しましょう。会社がハードワークを求めていて、その中で働いている人達もそういう価値観の人達かもしれません。その中に真逆の価値観の人が入っても良い結果にならない事が多いです。
よく多様性が重要と言いますが、多様性はベースとなる価値観が一致した上ではないと成り立ちません。なんでもかんでも違う人を入れればいいという話しではないのです。
相手との期待値のギャップはないか
上記2点がマッチしていても、実際に会社が提供できる環境や待遇が伴っていないと早期退職に繋がります。ここにギャップがあると、いわゆる、「聞いていた話と違う」という状態になります。ここで生まれた不満は早期に対処しないと、ほぼ100%で退職に繋がるので注意が必要です。入社してもらいたいので少し話しを盛る事もあったかもしれません。これは短期的に見ればメリットがあるかもしれませんが、長期的にみるとデメリットしか生まない行為なのです。
話しを盛って入職してきても、そこで働いている以上、結局はバレます。
ストレス耐性
ストレス耐性の有無も重要です。いくら価値観や期待値のギャップが無くても、ストレス耐性が低ければ、すぐに休職になってしまうかもしれません。何も鋼のようなメンタルを持っている必要はありませんが、一般的に見てどの項目に対してストレス耐性が低いのかは把握しておきましょう。業務量に対するストレス耐性が低かったり、周囲の評価によるストレス耐性が低かったりする事があります。
中にはHSP(High Sensitive Person)と呼ばれる共感能力が高い人もいます。この人達は周囲の雰囲気に敏感なので、いつも怒っている人がいる職場には合いません。HSPについてはこちらの記事を参考にして下さい。
期待値のコントロールが重要
これらは言い替えると期待値をコントロールする事とも言えます。こちらが期待する事と相手が期待する事のギャップを限りなく埋めていく。これがとても重要で、それには言語化する事が必要です。
言語化していくと色々な気づきが出てきます。求めている人物像と実際に必要な人物像が違ったりします。どの企業でもリーダーシップがあって、企画立案が出来る人が欲しい言います。だた実際にその能力を会社が必要としているかは別問題だったりします。
我々の例でいうと高スペックで向上心がある人材よりは、業務量へのストレス耐性が低くなく、かつ着実に仕事をこなしていくタイプの人材が必要でした。
実際のケーススタディ
自社の例で恐縮ですが、我々の施設は、医療機関とはいえ規模としては従業員が100名程度だったのもあり、大手と比較して良い待遇も出せないのと、業務量も多い事から退職者が多くいました。しかも仕事が出来る人から辞めていくので、慢性的に人手不足でした。
そのため採用については補充を最優先項目とし、最低限の会話のキャッチボールが出来ていればOK、つまり来る物拒まず状態でした。
当時は業務をこなす事を優先としていたので、リクルートについて深く考える事もなく、またなぜ退職していくのかの原因を考え抜く事もなく、教育もほどほどに、ただひたすら業務をこなし同じ事を毎年繰り返していました。
新卒が3年後に全員辞める
このような状態だったので新卒者が入社から数年以内に離職する率もとても高く、特に2010年前後は入社した職員が3年後には誰も残っていないという時期が続きました。採用数も数人とかではありません。ある程度の人数を採用した結果です。
もちろん現場は回りません。有給なんていうのは夢の話で規程の休日を取得する事さえ苦労していました。それでもなんとか頑張っていましたが、医師や看護師以外のコ・メディカルの流動性は高くないのもあり、すぐにはどうしようもありません。部下には来年の4月には新卒が入るから、それまで間張ろうと言うしかありませんでした。
「すみません、ちょっとお時間いいですか?」
やっと一人前として仕事が出来るようになってきた頃に言われる、まさに悪魔のワードです。当時はこのワードがいつ出てくるかビクビクしていた記憶があります。
限界がくる
それまでなんとか精神論で乗り切ってきましたが、それでも限界は来ます。いよいよという段階になり、ようやく現状を見直すという事に着手しました。その時に実践したのが上の方法です。最初はトライ&エラーの繰り返しでしたが、段々と結果が伴うようになりました。
現状を確認して問題点を洗い出す。それに対して優先順位をつけどんなアプローチが出来るのかを考える。相手の期待値をコントロールする。
基本的にやった事はこれだけです。期待値のコントロールでは、待遇や提供出来る環境や条件、キャリアプラン(実例があるパターン)を事前に提示し、納得してから入社してもらう事にしました。中には内定後でも提示出来る条件に納得できずに他へ行った学生もいましたが、それでも地道に条件に合う学生を探しました。
この方法を実践する事で3年以内の退職率が5%以下にまでなりました。完全にゼロとまでにはなっていませんが、以前の100%と比較すると雲泥の差になりました。その結果、今では職員数も安定してきており、突発的な休みや有給取得に対しても柔軟に対応出来るチームになってきています。
まとめ
期待値のギャップをなくす事が1番重要
まとめると、人が在籍し続けるのも退職するのも双方の期待値のギャップ次第なのです。ここでミスマッチが起きると不満が起きて早期退職に繋がります。
今現在、離職に悩んでいる人は、まずは双方の期待値のコントロールをしてみて下さい。早期退職してしまう原因は大抵ここです。その上で自分の会社のカラー(特色)を今一度確認してみると良いかもしれません。また今現在で中堅といわれる年数を在籍している人がいれば、その人に何故ここで仕事を続けているのか理由があるはずなので、それがヒントになるかもしれません。
早期退職は期待値のギャップ。これを覚えておきましょう。