【臨床症状】70代 UIPでフォロー中
【問題】画像所見と診断名は?
➡初回から9か月後の画像
➡初回から15ヶ月後の画像(前回から6ヶ月後)
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- IPFとしてフォロー中
- 初回の画像では左下葉中心に胸膜直下に蜂巣肺を認め、IPFとして矛盾しない所見
- その後、呼吸器症状の悪化を認め入院
- 画像上では、右肺上葉中心にすりガラス陰影や浸潤影の出現あり
- また下葉の蜂巣肺の進行も認めるが、心拡大や肺水腫の所見は認めない
- 上記よりIPFの急性憎悪疑いとして加療開始
- ステロイドパルス療法、PSL40mg、イムラン投与
- 1か月後のCTで改善を認めたため退院
【間質性肺炎】
・両肺に広範囲に広がるびまん性の疾患の代表的なものに間質性肺炎がある
・その中でも特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias:IIPs)があり、IIPsは原因不明の間質性肺炎の総称
・IIPsは主要IIPs、稀なIIPs、分類不能IIPsに分けられ、主要IIPsは更に次のように分類される
- 慢性線維化性間質性肺炎(IPF/NSIP)
- 喫煙関連間質性肺炎(RB-ILD/DIP)
- 急性/亜急性間質性肺炎(COP/AIP)
<IPF/UIP>
・特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)は通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia:UIP)とも呼ばれ、原因不明の慢性的に進行する線維化を伴う予後不良な間質性肺炎
・両者の違いは画像診断学的分類(UIP)か臨床学的分類(IPF)か
・50歳以上の喫煙男性に多く、呼吸困難、咳嗽などが主な症状
・主な画像所見は、両下肺、胸膜下優位の蜂巣肺、網状影、すりガラス陰影、牽引性気管支拡張など
・IPF/UIPはCTの画像所見で次の4つに分類している
- UIP:胸膜直下や下葉に蜂巣肺を認める
- probable UIP:上記部位に網状影を認める(蜂巣肺は認めない)
- indeterminate for UIP:微細な網状影や特定の病因を示唆しない線維化の所見や分布を認める
- alternative diagnosis:他疾患を示唆する陰影の分布やCT所見がある
・1があれば病理診断が無くてもIPFと診断が可能で、2~4は生検が推奨される
<NSIP>
・非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitial pneumonia:NSIP)は肺間質の炎症細胞浸潤と線維化が混在している状態
・40~50代に多く発症し、喫煙との関連性は見られない
・労作時呼吸困難、乾性咳嗽が主な症状
・ステロイド治療に対する反応は有効な事が多く、IPFと比較して予後は良好な事が多い
・画像所見は次のようなものがある
- 両下肺優位の広範なすりガラス陰影
- 網状影、浸潤影、牽引性気管支拡張、肺の容積減少など
- UIPと比較して陰影は比較的均一
- 蜂巣肺が認められる事があるか軽微な事が多い
- 胸膜直下の陰影が軽微(胸膜直下が保たれる)のがNSIPに特徴的と言われている
<RB-ILD>
・喫煙関連間質性肺炎の中で呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患をrespiratory bronchioltis-assocaated interstitial lung disease(RB-ILD)と分類している
・呼吸細気管支炎は喫煙者に生じる無症状の細気管支炎
・より重度の炎症を生じ、症状を呈するようになったものがRB-ILDと呼ばれている
・30~50代の男性に多く、咳嗽と労作時の呼吸困難が主な症状だが、症状は軽微な事が多い
・禁煙によって改善する
・主な画像所見は次のようなものがあるが、問診(喫煙歴)も重要である
- 上葉優位に小葉中心性の粒状影やすりガラス影、気管支壁肥厚など
- 上葉優位の肺気腫も伴う事が多い
<DIP>
・剥離性間質性肺炎(desquamative interstitial pneumonia:DIP)は喫煙と強い相関があり、30~50代での発症が多い
・主な症状は、緩徐に進行する咳嗽や労作時呼吸困難
・多くは禁煙とステロイドにより改善するが、10年生存率が70%とRB-ILDと比較して低いのが特徴(RB-ILDは100%)
・RB-ILDとの違いは、病変が広範かどうか(広範なのがDIP、呼吸細気管支周囲中心なのがRB-ILD)
・主な画像所見は次の通り
- 両側下葉抹消優位の広範囲なすりガラス陰影
- すりガラス影の中に小嚢胞を伴うこともある
- 牽引性気管支拡張や蜂巣肺などの線維化はあまり認めない
<COP>
・特発性器質化肺炎(Cryptogenic organizing pneumonia:COP)は以前はBOOP(bronchiolitis obliterans organizing pneumonia)と呼ばれていたもの
・50~60代の発症が多く性差は無く、非喫煙者の頻度が高い
・主な症状は咳嗽、呼吸困難で非特異的
・時に肺炎と診断される事があるが、抗菌薬が効かないのが特徴
・病理では小葉中心性にポリープ型器質化病変を認め、周囲間質にリンパ球、形質細胞の浸潤が見られ、肺胞内腔に泡沫細胞の滲出を伴う
・主な画像所見は次の通り
- 両側性で中下肺野優位に多発する浸潤影、すりガラス影が見られ、胸膜下や気管支血管束に沿った分布を認める
- 結節影や腫瘤影を認める事もある
- 約20%の割合で、すりガラス影を取り囲むように三日月、あるいはリング状の高吸収域(reversed halo sign)が見られる
- 蜂巣肺や広範囲な線維化は認められない
<AIP>
・急性間質性肺炎(acute interstitial pneumonia:AIP)は、基礎疾患の無い健常人に発症する
・原因不明の急性呼吸窮迫症候群を呈する疾患
・発症年齢は30~70代と幅広く50代が中心
・性差はなく、喫煙歴も関係ないと言われている
・主な症状は、労作時呼吸困難、乾性咳嗽を認め、早期から低酸素血症が出現する
・病理学的にはびまん性肺胞障害(diffuse alveo;ar damage:DAD)がみられる
・主な画像所見は次の通り
参考書籍:困ったときの胸部の画像診断
- 非区域性のすりガラス陰影
- 背側優位に濃厚な浸潤影
- モザイクパターンを示すことも多い
- 蜂巣肺は認めない事が多い
- 進行すると浸潤影の内部に嚢胞性病変や粗大な網状影を認めるようになる
【IPFの急性憎悪の診断基準】
- 過去にIPFと診断されている、もしくは憎悪時にIPFと診断される
- 30日以内の経過で原因不明の呼吸困難の増強がある
- HRCTにてUIPパターンに一致する蜂巣肺や網状影を背景に、新規で両側性のすりガラス陰影や浸潤影が出現する
- 気管内吸引や気管支肺胞洗浄液の検索で、明らかな感染症を認めない
- 左心不全、肺塞栓、急性肺障害を引き起こす原因を含む、他の原因が除外される
上記5つ全てを満たすものを急性憎悪、一つでも欠ける場合は疑い症例とする
参考書籍:すぐ役立つ救急のCT・MRI 改定第2版
【急性呼吸窮迫症候群】
・急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)は、様々な病態(基礎疾患や外傷)を持ち、急性発症した低酸素血症
・原因が心不全や腎不全、血管内水分過剰のみでは説明できない病態の総称
・ARDSの原因疾患は肺内を原因とする直接損傷と、肺外を原因とする関節損傷に分けられる
- 直接損傷には、重症肺感染症、誤嚥性肺炎、脂肪塞栓、胸部外傷など
- 関節損傷には、敗血症、ショック、外傷、薬物中毒、急性膵炎など
・びまん性肺胞障害(diffuse alveolar dameage:DAD)を含む比率は50%程度
参考書籍:すぐ役立つ救急のCT・MRI 改定第2版
- 画像所見では、滲出期には浮腫性変化を主体に、すりガラス陰影を認める
- 進行すると両肺にすりガラス陰影、びまん性の浸潤影、内部にair bronchogramを認めるようになるが、心拡大は認めない
- 増殖期には網状影の出現、牽引性気管支拡張を認めるようになる
- 線維化期では、線維化の進行に伴う容積低下と、浸潤影内部に網状影、嚢胞状変化を認めるようになる