虫垂癌(appendix cancer)

急性腹症って知ってるか?

急に腹痛が起きるやつの総称ですよね?

せや。一応定義としては、「発症1週間以内の急性発症で、手術などの迅速な対応が必要な腹部疾患」となっとる。
頻度が高いのは1位が感染性腸炎、その次に多いのが男性が急性虫垂炎、女性が腸閉塞なんや。
※公益財団法人日本医療機能評価機構 急性腹症の疫学より

虫垂癌(appendix cancer)とは

虫垂癌の概要

今日は虫垂癌の話をしていこうと思うてる。

なんで急性腹症の話をしたかっていうと、虫垂炎と思っていたら実は虫垂癌だったって事もあるからやねん。頻度は少ないんやけどな。せやから虫垂癌と急性腹症は全く関係あらへんって訳でもないんやで。

さて、まずは虫垂癌の概要や。

50~60代に多いとされとるんやけど、比較的稀な疾患で、大腸癌の中で1%以下とも言われとるんや。

大腸内視鏡検査での発見率は30%程度で、特異的な初期症状はほとんどあらへん。それゆえに症状が出現してから発見された例は腹膜播種の状態の時もあるらしいな。

ちなみに、Niteckiらは腺癌でも3つにサブタイプ分類してるで。

PubMed:Nitecki SS, et al: The natural history of surgically treated primary adenocarcinoma of the appendix

詳しくは概要を纏めたから下の表で確認してみてな。

  • 概要
    • 大腸癌のうち占める割合は1%以下の稀な疾患で、中年に比較的多い
    • 大腸癌とは病理学的にも異なっており独自の進行度評価が必要だと言われている
    • Niteckiらは腺癌をmucinous type、colonic type、adenocarcinoid typeの3つにサブタイプ分類している
    • 初期の自覚症状は無く早期発見が困難で、有症状の発見時には腹膜播種を来している場合も多い
    • 理由は組織学的に固有筋層が薄く漿膜に達しやすい事とリンパ流が豊富なため
    • 術後病理で確定する事がほとんどで、虫垂切除の1%程度で癌が発見されているという報告もある
    • 症状がある場合は腹痛など虫垂炎と似ている事が多い

虫垂の解剖と役割

虫垂の解剖

虫垂は盲腸から伸びている管や。教科書的には虫垂から足側に伸びているのをイメージする人が多いと思うねんけど、実は伸びている方向や長さはバリエーションが多いねん。

盲腸の後方(背側)に伸びているパターンも60%くらいの頻度であんねんで。

虫垂が色んな方向に伸びているって事を知らんと、CTで虫垂を追う時に見失ったりするで。

虫垂解剖

虫垂の役割

役割については、最近の研究で虫垂にあるリンパ組織が、粘膜免疫で重要な役割を果たすIgAの産生の場になってて、腸内細菌叢の制御に関与しているってのが分かったらしいで。ちなみに腸内細菌叢ってのは、腸内細菌の生態系の事を言うんや。

つまり虫垂が腸内細菌のバランス維持に重要な役割を果たしているって事やな。これは大阪大学が2014年にNatureで発表してるわ。

Important role played by the 'useless' appendix clarified

昔は無用の長物やと考えられてたんやけど、ちゃんと役目があったんやな。ただ切除しても生命維持には問題あらへん。

虫垂癌の原因と治癒率

虫垂癌の原因

虫垂癌の原因やけど、これと言った原因は分かってへん。そもそも数が少ないのもあるな。

リスクファクターとなるようなものも特に見当たらん。

虫垂癌の治癒率

5年生存率は62~64%っていう報告もあって、これは結腸癌や直腸癌よりも低い数字なんや。

早期診断の難しさから、発見時には進行癌の例が少なからずあるのが理由らしいな。虫垂切除のみの5年生存率は20%程度、リンパ郭清も行うと47~63%との報告もあるで。

原発性虫垂癌11例の臨床病理学的検討

虫垂癌のTNM分類

次に虫垂癌のTNMとステージ分類や。大腸癌とちょっと違ってるところもあるで。

T分類TXT0TisT1T2T3T4
原発腫瘍の評価が不可能原発腫瘍を認めない上皮内または粘膜固有層に浸潤粘膜下層に浸潤固有筋層に浸潤漿膜下層または虫垂間膜に浸潤する腫瘍臓側腹膜を貫通する腫瘍で、粘液性腹膜腫瘍または虫垂もしくは虫垂間膜の漿膜上の無細胞性粘液を含むもの、および/または他の臓器もしくは構造に直接浸潤する腫瘍
T4a:臓側腹膜を貫通する腫瘍で、粘液性腹膜腫瘍または虫垂もしくは虫垂間膜の漿膜上の無細胞性粘液を含むもの
T4b:他の臓器または構造に直接浸潤する腫瘍
N分類NXN0N1N2
領域リンパ節の評価不可能領域リンパ節転移なし1〜3個の領域リンパ節転移
N1a:領域リンパ節の転移が1個
N1b:領域リンパ節の転移が2~3個
N1c:漿膜下層または腹膜被膜のない結腸もしくは直腸の周囲軟部組織内に腫瘍デポジットすなわち衛星結節があるが、領域リンパ節無し
領域リンパ節の転移が4個以上
M分類M0M1
遠隔転移なしM1a:1腹腔内の腫瘍細胞を伴わない粘液のみ
M1b:腹膜転移のみ(腫瘍細胞を伴う粘液を含む)
M1c:腹膜転移以外の遠隔転移あり
大腸癌取扱規約9版を参考に作成
N0N1N2M1aM1bM1c
T1ⅢaⅢcⅣaⅣbⅣc
T2ⅢaⅢcⅣaⅣbⅣc
T3ⅡaⅢbⅢcⅣaⅣbⅣc
T4aⅡbⅢbⅢcⅣaⅣbⅣc
T4bⅡcⅢbⅢcⅣaⅣbⅣc
大腸癌取扱規約9版を参考に作成

以上が虫垂癌の概要や。次に画像所見について話していくで。

画像所見

虫垂癌の画像所見

ここではCTなどの所見を話していくで。内視鏡での所見は専門外やから、興味があれば各自で調べてみてくれ。

画像所見は、まず大きく2つのパターンに分かれるで。組織型でのcolonic typeとmucinous typeの2つや。

まずcolonic typeについては、粘液瘤は形成せずに虫垂を置換する軟部腫瘤影として認められるで。周囲脂肪組織への濃度上昇も認める場合は急性虫垂炎との鑑別は難しいわ。

次にmucinous typeについてや。虫垂粘液瘤とも呼ぶんやけど、CTの典型例は虫垂領域に一致する円形、あるいは管状の嚢胞性腫瘤で、壁に石灰化を認める場合もあるで。

石灰化があれば悪性の可能性が高くなるんやけど、実際には半数程度にしか石灰化を認めへんかったとのデータもあるで。

画像診断上では、虫垂炎と虫垂癌の鑑別はかなり難しいって事やな。

実際の症例

70代女性で貧血精査で消化管出血のr/o目的に検査した例や。

虫垂に造影される壁肥厚を認めると思う。当初は虫垂炎疑いとして精査されたんやけど、最終的に病理で虫垂癌と診断されてるわ。

腹部CT-虫垂癌

こっちは50代男性で虫垂癌疑いの症例や。

腫大した虫垂に一致してFDGの集積も認めるで。こっちの例もその後の精査で虫垂癌と診断されてるで。

FDG-PET-虫垂癌

鑑別診断のポイント

急性虫垂炎

Colonic typeについては、急性虫垂炎との鑑別が必要なんやけど、画像上からは難しい事が多いのは上で話した通りや。

実際、急性虫垂炎の病理で癌腫が判明する事も少なくないで。虫垂の大きさが15mm以上や軟部腫瘤影を認めた時は悪性の可能性ありと言われとる。

Mucinous typeは周辺臓器の嚢胞性腫瘤との鑑別が必要になるで。具体的には卵巣嚢腫や膿瘍なんかや。嚢胞性病変がどこから由来しているかを確認する事が重要や。

他には虫垂憩室炎なんかもあるで。

まとめ

今日は虫垂癌についてレクチャーしたで。ポイントは3つや。

稀な癌だが早期発見は難しく、漿膜まで容易に達する事、近くて豊富なリンパ流がある事から発見時には進行している事が多い

画像所見は急性虫垂炎と鑑別が難しい場合が多い(なので、少なくとも急性虫垂炎の所見は見逃さないようにする)

虫垂の15mm以上の腫大(軟部腫瘤影)を見たら悪性を疑う

こんな感じやな。まぁ実際検査しててもあまり虫垂癌の症例を担当した記憶があらへんやろ。それほど数は少ないって事も言えるな。

ワシも実際に読影した記憶はそんなにあらへんし。

僕らも当直の時とか急性虫垂炎の有無を聞かれる事がありますからね・・・
最低でも虫垂炎は見れるようにしておかないと。

虫垂癌は所見的には虫垂炎と似てるからな。合わせて覚えておくとええで。

さて、今日はこんな感じや。

ほな、精進しいやー!

PickUp

1

もくじ1 日本とアメリカの放射線科医数2 日本と世界の検査機器保持数3 読影医不足問題4 放射線技師 ...

2

もくじ1 基本的な読影の流れ2 頭部読影の流れ3 胸部読影の流れ4 腹部読影の流れ5 自分なりの読影 ...

3

精神と時と読影の部屋 読影力をつけるのは実際に画像を見ていくのが一番やで。 あれこれ考えながら所見を ...