【臨床症状】70代 頚部ジストニア、筋強剛、無動症、垂直性眼球運動障害
【問題】画像所見と診断名は?
➡ 矢状断 他
➡ MRA元画
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- 中脳被蓋に萎縮を認め、いわゆるhummingbird signが確認できる
- 横断像でも中脳水道と脚間窩の距離が7mm程度で、萎縮があると診断できる
- これに伴い、morning glory signもある
- 上記より臨床症状と合わせてPSP(進行性核上性麻痺)と診断された
- また両側側脳室の拡大、シルビウス裂の拡大、上位円蓋部の狭小化も疑われ、DESH(iNPH)疑い
- iNPHとPSPはオーバーラップする病態という報告もあり、合併していても矛盾しない所見と考えられる
- その他の所見として、MRAでsigmoid sinusに流入する表在動脈を確認でき、dural AVFを疑う所見も確認できる
【進行性核上性麻痺】
・進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)は、易転倒性、核上性眼球運動障害、頚部後屈、無道、皮質下性認知症を特徴とする変性疾患
・病理学的にはリン酸化タウの蓄積が確認できる
・臨床病理学的に、PSP-RS(Richardson症候群:典型的な症状)、PSP-P(パーキンソン病類似)、PSP-PGF(進行性のすくみ足)、PSP-CBS(大脳皮質基底核症候群)、PSP-C(小脳性運動失調)など、様々な病型が存在する
・60代以降に発症する事が多く、あまり性差は見られない
・多くは孤発性だが、一部遺伝性もある
・画像上は、中脳被蓋の萎縮が特徴的な所見で、hummingbird signやpenguinsilhouette signなどと呼ばれる
・DESHを呈する症例は、PSPに類似した中脳被蓋の萎縮を呈する事がある
・morning glory sign(中脳被蓋側面の形態変化)もPSPに特徴的な所見とされている
参考書籍:よくわかる脳MRI 改定第4版
【特発性正常圧水頭症】
・特発性正常圧水頭症(iNPH:idiopathic normal pressure hydrocephalus)とは、くも膜下出血や髄膜炎などの先行疾患がなく、歩行障害を主体として認知症障害、排尿障害をきたす脳脊髄液吸収障害に起因した病態
・高齢者に多く見られ、緩徐に進行する
・適切なシャント術によって症状の改善を得る可能性がある症候群である
・歩行障害、認知機能低下、尿失禁を3徴とする
・60代以上に多く見られ、DESH(Disproportionately Enlarged Subarachnoid space Hydrocephalus)と呼ばれる特徴的な所見がある
《DESH所見》
- 脳室拡大(Evans Index(両側側脳室前角間最大幅/その部位における頭蓋内腔幅)>0.3)
- 高位円蓋部脳溝の狭小化
- シルビウス裂や脳低槽の拡大
・脳梁角(callosal angle:CA)はほとんどが90°以下を示す
・脳梁角はAC-PCラインに垂直な後交連上の冠状断で測定する(AC-PCラインに垂直じゃないと誤差が大きいと言われている)
・MRIでDESH所見を呈しているにも関わらず、症状が無い(無症候)場合もあり、これはiNPHの前駆状態と考えられている
・高齢者の1.5%程度で見られるともいわれている
参考書籍:よくわかる脳MRI 改定第4版
参考文献:特発性正常圧水頭症診療ガイドライン 第2版
【dural AVF】
・硬膜動静脈瘻(dural AVF)は硬膜に発生する動静脈の短絡
・流入動脈は各動脈の硬膜枝で、硬膜静脈などに短絡する
・後天的発生が多く、そのほとんどが原因不明の特発性
・40~60代に好発し、女性に多い
・63%は横~S状静脈洞部、26%は海綿静脈洞部に発生する
・短絡量が小さければ無症状な事が多いが、進行するに従って拍動性頭痛や血管雑音を生じる
・さらに進行すると静脈洞内圧上昇により皮質静脈への逆流などがおき、静脈還流障害をきたしその後静脈性脳出血やくも膜下出血などが起きる
・画像上はMRA元画による評価が有用で、動静脈短絡に向かう硬膜枝の拡張と、流出する静脈洞や皮質静脈への信号が認められる
・AVFのない症例でもS状静脈洞や横静脈洞、下錐体静脈から海面静脈洞への信号を認める事があるので注意する
参考書籍:よくわかる脳MRI 改定第4版