前十字/後十字靱帯断裂(anterior/posterior cruciate ligament tear)

 久しぶりの学会参加やったな。刺激的やったで。

何の学会だったんですか?

放射線学会やで。
そこの会場で偶然にもワシの学生時代の先生に会ってな。その先生は整形が得意なんやけど、色々とマメ知識を聞けて参考になったで。なかなかどうして整形は奥が深いな。

前十字/後十字靱帯断裂(anterior/posrerior cruciate ligament tear)とは

前十字/後十字靱帯断裂の概要

さて、今日は前十字靱帯断裂(損傷)と後十字靱帯断裂(損傷)について話していくで。臨床では頭文字をとって、ACL、PCLと言われる事が一般的や。せやから以下では前十字靱帯をACL、後十字靱帯をPCLと呼ぶで。

まずACL断裂についてやけど膝靱帯損傷の中で1番頻度が高いねん。特にスポーツ外傷が多いな。ACLは脛骨が前方にずれへんようにしてたり、内側への回転動作を制御してる靱帯や。ここが損傷すると、痛みや膝の伸展不良なんかが起きたり、断裂した時に靱帯が切れる音を感じる人もおるで。

PCL断裂についてもスポーツが原因の事が多いで。PCLは脛骨が後方にずれへんようにしてる靭帯や。

両方に共通するのはジャンプや急な方向転換なんかの膝に大きな負担がかかる事で発生する事や。もちろん交通事故などの高エネルギー外傷でも発生する事があるで。

  • ACL損傷(断裂)膝関節の伸展位での内旋や外旋などの外圧による
    • 脛骨付着部は顆間隆起に付着しており大腿骨付着部と比較して強固なため断裂部は中部~大腿骨付着部に起きる事が多い
    • 脛骨付着部が断裂する時は剥離骨折も伴う事が多い
    • 臨床的には前方引き出しテストなどの理学所見も重要
    • 小児は男児、成人は女性に多い
    • PCLと比較してACLの方が細く断裂しやすい(十字靱帯断裂の8割以上がACL断裂)
  • PCL損傷(断裂)膝屈曲時に脛骨前面に外圧が加わった時に起こる事が多い
    • 膝の靭帯の中でPCLが一番太いため単独断裂は少なく、損傷が起きる場合は他の靱帯断裂や半月板断裂を伴う事が多い(70%程度)
    • 断裂部は靱帯中部が多い

膝の解剖

次に膝の解剖についてや。下の図で確認しておいてや。

膝解剖

ACLは外側から内側に、PCLは内側から外側に走ってるで。上の図を見てもらうと分かりやすいかもな。

ちなみに両十字靱帯を観察する時は矢状断が基本なんやけど、横断像や冠状断で見るといわゆる10 signとして確認出来る事があるで。

ACLとPCL位置関係

十字靱帯断裂の原因と臨床症状

原因

ACL断裂については、膝関節に何らかの圧力が加わって内旋、外旋する事で起きると考えられてるわ。小児は男児に、成人は女性に多いと言われとる。コンタクトスポーツに多くてバスケットボールや柔道中の負傷でよく見るな。

その他の原因は交通事故なんかがあるで。

症状

臨床症状としては膝の疼痛がメインやな。しばらくは痛みで歩けん事も多いとの事や。

ちなにみPCL断裂はACLと比較して太いから頻度としては少ないで。ただ発生した時には他の靱帯断裂も伴う事が多いのが特徴や。

治療法

ACL/PCL断裂時の治療については、自然に回復が期待出来へんから保存療法や外科的療法(再建術)が損傷の程度に応じて選択されるで。

画像所見

十字靱帯断裂の画像所見

十字靭帯損傷 / 断裂の画像所見

次に画像所見についてやな。基本的な所見は次の通りや。これはACLでもPCLでも共通やで。

  • 急性期所見
    • 靱帯の辺縁不整
    • T2強調像での靱帯内の高信号
    • 靱帯の不連続
    • 靱帯周囲の浮腫性変化
  • 慢性期(陳旧性)所見
    • 靱帯の欠損
    • 狭細化やたるみ
    • 線維性瘢痕
    • 断裂した靱帯が周囲と癒着する事がある

ACL損傷に特徴的な画像所見

ちなみにACL / PCL損傷に特徴的な所見があんねん。以下の通りや。

  • 脛骨の前方偏位
  • PCLの屈曲
  • 外側半月板の後方偏位
  • pivot shift injury(kissing contusion)
  • Segond骨折

ここでのpivot shift injuryはACLが断裂した事で大腿骨が後方に、脛骨が前方へ動き骨挫傷が起きんねん。これはACLの2次的な所見と言われてるから覚えとくとええで。ちなみにkissinng contusionとも言う事もあるけどほぼ同じ意味や。

pivot shift injurury

PCL損傷に特徴的な画像所見

PCL断裂に特徴的な所見はdash board injuryと呼ばれるものがあるで。

これは脛骨前面の骨挫傷で、この部位に外力が加わって脛骨が後方に移動した時にPCLが損傷、または断裂するんや。オスグッド・シュラッター病と紛らわしい事があるんやけど、これも合わせて覚えておきや。

dashboard injury

実際の症例

ほな、実際の画像を見ていこか。

下はACL断裂の症例や。途中で完全断裂しとるのが分かるやろ。この症例は10代で部活動で膝を捻ったケースや。血清25ml、ラックマンテスト+、ピボットシフトテスト+でMRI検査となってん。

膝MRI-ACL断裂

次は70代の女性で、自宅で階段を踏み外して精査となった例や。PCLが中程で断裂してるのが分かると思うで。

膝MRI-ACL断裂
左からT2脂肪抑制、T2スター、プロトン強調

鑑別診断のポイント

magic angle effect など

鑑別診断については、ACL断裂で紛らわしいと言われてるのが「magic angle effect」や「パーシャルボリューム効果」やな。いずれもアーチファクトの一種なんやけど、条件によっては紛らわしかったり、そもそも病変が隠れてしまう事があんねん。

Magic angle effect

Magic angle effectは靱帯などが静磁場方向から55度角度がつくと、TEが短いT2スターやプロトン強調などで高信号になるアーチファクトや。損傷と間違えたりする可能性があんねん。

magic angle effect

膝の撮影の場合は、矢状断でこの症状が起きやすくて、膝を少し曲げて撮影するとACLの角度が緩んで回避出来る事もあんねん。

パーシャルボリューム効果

パーシャルボリューム効果はスライス厚で画像がぼやける事や。スライス厚を薄くする事で対応が可能やけど、その分S/Nが低くなるから加算なんかでS/Nを稼ぐ事が必要やで。

これらを知っておくのとないのでは雲泥の差やからな。まぁ知ってても判断に迷う事もあるんやけどな。

まとめ

今日はACL/PCL断裂についてレクチャーしたで。ポイントは3つや。

コンタクトスポーツに多い

ACL断裂は大腿付着府部~中部、PCLは中部が多く、頻度はACLの方が多い

各損傷には特徴的な間接所見があるのと、PCL断裂は単独は少ない事も知っておく

こんな感じやな。特に特徴的な間接所見を知っておくとより見落としが減るで。十字靱帯断裂自体は所見が分かりやすいから見逃す事はあらへんやろうけど、こういう事を知っておくと全然違うからな。

このレクチャーで知って実際の現場で「あれっ、これ前にレクチャー受けた事がある症例やん!」って体験があるとより記憶に定着するやろ?実はそれを味わってほしくてやってる所もあんねん。

意外と深い意図があるんやで。

ほな、精進しいやー!

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