膀胱癌(bladder cancer)

あかーん!聞いてくれ!血尿が出てもうた。

おお!マジですか!思い当たる原因とかありますか?

いやいや、全くあらへん。アレは違うと思うし、別に結石などの痛みもあらへんし。

・・・という事はアレが原因か?いや、そんな事はあらへん。だって泌尿器科の同期とやってんで。アイツがそんなミスをする訳があらへん。

いや、でもアイツならやりかねんな。という事は、、、くそ!まじでか。

いやいや、そんな事あらへん。多分、ワシの思い過ごしや。そもそも血尿なんて出てへんかったかもしれん。ワシは幻を見てたんや。きっとそうや。

よし、気分転換にレクチャー始めよか。今日は膀胱癌についてレクチャーしてくで!ちゃんと聞いとけや!

・・・

膀胱癌(bladder cancer)とは

膀胱癌の概要

今日は膀胱癌についてや。

膀胱癌は悪性腫瘍の全体の中で2%程度の頻度で発生する癌なんや。血尿や検診で発見される事が多いで。

ほとんどが尿路上皮癌で、粘膜下層以降の筋層にまで浸潤しているかどうかで表在性膀胱癌、浸潤性膀胱癌に分けられるで。もちろん表在性膀胱癌の方が予後は圧倒的に良いで。

以下が膀胱癌の概要や。一通り目を通しておいてな。

概要
・人口10万人あたり6~8人程度発症する
・悪性腫瘍の全体の中で2%程度
・50歳以上の男性に多いが女性の場合の膀胱癌は予後不良な事が多いと言われている
・膀胱癌の90%以上は尿路上皮癌で、それ以外は扁平上皮癌、腺癌、小細胞癌、肉腫などがある
・危険因子は喫煙や膀胱結石、膀胱憩室、慢性刺激などで喫煙は非喫煙者と比較して4倍程度発生率が高い
・三角部、頂部が好発部位
・主な症状は血尿だがある程度進行するまで症状が出ない事も多い
・粘膜や粘膜下層に癌が留まる表在性膀胱癌と筋層以降に癌が浸潤している浸潤性膀胱癌がある
・表在性膀胱癌が70%程度で、多発する事もあるが転移は少なく予後は良い
・扁平上皮癌は慢性感染と関連があり、上皮癌と比較して女性に多い
・1cm以下の乳頭状腫瘍および非乳頭状有茎性腫瘍、また1cm以上でも乳頭状有茎性腫瘍は上皮癌の確率が高く、広基性腫瘤の場合は扁平上皮癌の事が多い

膀胱の解剖と役割

次に膀胱の解剖についてや。まずは膀胱の解剖から見ていくで。

膀胱は腹膜外臓器で平均300~400mlほどの容量を持ってて、尿が150~200ml程度溜まると尿意を感じるようになってる臓器や。

膀胱壁は粘膜(粘膜上皮)、粘膜下層(粘膜下結合組織)、筋層で構成されてて、蓄尿の時は交換神経、排尿の時は副交感神経がメインになってるで。交感神経の時は膀胱壁は緩んで内尿道括約筋がしまってるから溜められんねん。副交感神経が優位の時は、膀胱壁が収縮して内尿道括約筋が緩む事で排尿されんねん。

ちなみに意識的に尿を止めたり溜めたりしてるのは、外尿道括約筋があるからなんやで。この外尿道括約筋は自分の意志で調整が可能やねん。

膀胱周辺の解剖

膀胱の役割やけど、上で話した通り蓄尿と排尿がメインの役割や。腎臓で原尿が作られ、尿管を通って最終的に尿になったものを溜めておく場所なんや。ほんで一定量以上になったら尿意という形のサインを出して体外に排尿させるという流れやな。

病気や加齢なんかで尿意が鈍くなると、1000mlくらいまで溜める人もおるみたいやで。1リットルとか中々の量やで。ほんで膀胱癌などで全摘してまうと尿を溜められる事が出来ひんくなるから尿パッドなんかが必要になる事も多いという話しを聞くな。

膀胱癌の原因と治癒率

膀胱癌の原因についてや。膀胱癌についてはこれといった原因は特定されてへん。ただ危険因子はいくつか明らかになってて、喫煙や膀胱結石などによる慢性的な刺激なんかがあるで。

特に喫煙は非喫煙者と比較すると4倍程度も違うってデータが国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクトのデータで出とるんや。これは喫煙によって吸収された発癌物質が血液によって腎臓から膀胱へ濃縮された形で溜まる事が原因だと考えられてんねん。

膀胱癌の治癒率(5年生存率)は、国立がん研究センターの2014年のデータやと以下の通りになってるわ。ステージが2になるとガクッと下がるな。こう見るとやっぱり早期発見が重要なのは言うまでもあらへんな。

膀胱癌(5年生存率)Ⅰ期:86.3% Ⅱ期:57.3% Ⅲ期:44.2% Ⅳ期:19.4%

膀胱癌のTNM分類

次に膀胱癌のTNM分類とステージ分類や。UICC8版を参考に作ってあるで。T1までを筋層非浸潤癌(表在癌)、T2以上を(筋層)浸潤癌と呼んでるで。

T分類TisT1T2T3T4
Ta:乳頭状非浸潤癌
Tis:上皮内癌(flat tumor)
上皮下結合組織に対する腫瘍T2a:固有筋層浅層に浸潤(内側1/2)
T2b:固有筋層深層に浸潤(外側1/2)
T3a:膀胱周囲脂肪組織に浸潤(顕微鏡的)
T3b:膀胱周囲脂肪組織に浸潤(肉眼的、膀胱外の腫瘤)
T4a:前立腺間質、精嚢、子宮、膣に浸潤する腫瘍
T4b:骨盤壁あるいは腹壁に浸潤する腫瘍
N分類N0N1N2N3
領域リンパ節への転移なし小骨盤内の単発性リンパ節転移(下腹、閉鎖リンパ、外腸骨あるいは前仙骨リンパ節)小骨盤内の多発性所属リンパ節転移(下腹、閉鎖リンパ、外腸骨あるいは前仙骨リンパ節)総腸骨リンパ節転移
M分類M0M1
遠隔転移なしM1a:領域外リンパ節転移
M1b:他の遠隔転移
                                                  UICC8版を参考に作成
N0N1N2N3M1aM1b
Ta、Tis0a、0is---ⅣAⅣB
T1ⅢAⅢBⅢBⅣAⅣB
T2ⅢAⅢBⅢBⅣAⅣB
T3ⅢAⅢAⅢBⅢBⅣAⅣB
T4aⅢAⅢAⅢBⅢBⅣAⅣB
T4bⅣAⅣAⅣAⅣAⅣAⅣB
UICC8版を参考に作成

筋層非浸潤癌までならTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)で切除可能や。

一方で筋損浸潤癌で遠隔転移が無い場合は基本的に膀胱全摘になるで。この場合はストーマ設定したりせなアカンくなるで。

以上が膀胱癌の概要や。次に画像所見について話していくで。

画像所見

膀胱癌の画像所見

さて、画像所見についてや。

基本的に膀胱癌の検査は内視鏡の生検で確定させんねん。浸潤度精査はMRIが有用や。遠隔転移にはCTやFDG-PET検査が使われるで。MRIにおける膀胱壁の信号強度は以下の通りや。

膀胱癌の画像所見(MRI)
T1強調・膀胱壁は尿よりやや高信号で、腫瘍と膀胱壁(粘膜下層、筋層)の区別は難しい
T2強調・尿と粘膜下層が高信号で、筋層が低信号として写り、腫瘍は筋層よりやや高信号
・筋層(低信号)が途中で途切れていたらT2以降の可能性大
・有茎性腫瘍があれば表在性膀胱癌の指標になる
造影・造影早期で腫瘍は高信号で、腫瘍基底部の粘膜下層の線状濃染(submucosal liner enhancement:SLE)が強い信号域として描出されれば、表在性膀胱癌の診断の参考になる
SLE(submucosal linear enhancement)

これは参考例やけど、Dynamic早期層で膀胱後壁に濃染される膀胱癌があると思う。基底部の粘膜下層浸潤の指標になるSLE(submucosal linear enhancement)が確認出来へん。つまりは浸潤癌という事や。

壁構造の断裂も認めるから少なくともT2以上の診断が出来るで。固有筋層への浸潤の有無は、治療後の再発リスクにも関係してるから治療方針を決定するのに重要やねんで。

加えて膀胱の画像診断にはVI-RADS(Vesical Imaging Reporting And Data System)ってのかあんねん。確か2018年に出来てんけど、これは乳腺のBI-RADSや前立腺のPI-RADSなんかと同じで、MRI撮影法や診断の標準化のために作られてんねん。VI-RADSは筋層浸潤の有無がメインやで。参考までに載せておくで。

VI-RADS Category1(筋層浸潤の可能性は非常に低い)2(筋層浸潤の可能性は低い)3(筋層浸潤が疑われる)4(筋層浸潤の可能性が高い)5(筋層浸潤の可能性が非常に高い)
T2強調10mm以下で形態を問わない
筋層を示す低信号域が途切れていない
非広基性で茎または粘膜下層の高信号
広基性で粘膜下層の高信号が確認出来る
茎や粘膜下層の信号が確認出来ない(筋層は異常なし)筋層に異常信号を認めるが膀胱周囲脂肪織には異常なし膀胱周囲脂肪織に異常信号あり
拡散強調10mm以下で形態を問わない
DWIで高信号、ADCで低信号
非広基性で茎や粘膜下層の低信号
広基性で粘膜下層の低信号が確認出来る
ダイナミック10mm以下で形態を問わない
筋層を示す低信号域が途切れていない
非広基性で茎を伴う
広基性でSLEが確認出来る

Vesical aimaging Reporting and Data System(Radiopaedia)

さて、実際の画像を見ていくで。

実際の症例

70代男性で血尿精査でCTを実施した例や。膀胱の三角部から前方にかけて乳頭状の腫瘤があって、造影で濃染されるのが確認出来ると思う。精査の結果、膀胱癌と診断されたで。

骨盤CT-膀胱癌

60代女性で血尿精査で膀胱に腫瘍が発見された例や。膀胱の直腸側に腫瘤を認めるのが割ると思うで。Diffusionで高信号やし造影で早期濃染もしとる。こちらも精査の結果、膀胱癌と診断されてるで。

骨盤MRI-膀胱癌
骨盤MRI-膀胱癌

60代男性でUSで膀胱内に25mm大の腫瘤を認めて精査となった例や。T2でやや低信号、T1でやや高信号、造影効果ありでこちらも精査の結果、膀胱癌と診断されてるで。こう見るとある程度膀胱内に尿が溜まってた方が画像的には師団しやすいな。

骨盤MRI-膀胱癌

鑑別診断のポイント

膀胱腫瘤、膀胱壁肥厚

鑑別診断のポイントやで。膀胱腫瘤や膀胱壁肥厚を呈する疾患が鑑別対象になるな。

膀胱腫瘤の鑑別は、先天性疾患(尿管瘤など)、膀胱炎、結核、膀胱外炎症の波及(憩室炎など)、子宮内膜症、血腫などや。

膀胱壁肥厚を伴うものとしては、膀胱内腔の拡張不良、前立腺肥大や神経因性膀胱による肉柱形成、慢性膀胱炎などや。頻度は低いんやけど、出血で肥厚する場合もあるで。

他に泌尿器関係の悪性腫瘍は次のものがあるで。合わせて確認しといてな。

まとめ

今日は膀胱癌についてレクチャーしたで。ポイントは3つや。

喫煙者は非喫煙者と比較して4倍ほど罹患リスクが高くなる

筋層浸潤の有無が治療方針に関係するため、画像診断ではこの点をよく見る(VI-RADSを参考にする)

画像診断にはT2強調画像とダイナミック画像が必要

こんな感じやな。ちなみに膀胱癌が転移しやすい場所はある程度決まってて、肺、肝臓、骨が転移場所としては多いな。

他に知っておく事としては、筋層非浸潤癌のTURBTは局所再発を繰り返す事が多いのが特徴や。ただその時は再度TURBTを実施して、BCG注入療法や膀胱全摘を行えば完治が十分見込めると考えられとるで。

さてと、今日はこれくらいにしとこかな。

ほな、精進しいやー!