Brain Driven

【概要】

  • 著者:青砥 瑞人
  • 発売日:2020年9月25日
  • ページ数:343ページ

本の目次

  • はじめに
  • CHAPTER 1 モチベーション
  • CHAPTER 2 ストレス
  • CHAPTER 3 クリエイティビティ
  • おわりに

【結論(1番の訴求ポイント)】

脳内ホルモンをコントロールする事で脳をハックする

人が仕事をしていく上で重要なものに、モチベーションとストレス、クリエイティビティなどがある。

モチベーションは仕事の質に影響し、ストレスはメンタル面に影響を与えるし、クリエイティビティは新しい企画を考える時などに必要だ。これらをコントロールする事で、仕事の質が高くも低くもなったりする。モチベーションが高い時に行う仕事は、成果も比例していた記憶があるのは誰しも経験がある事だろう。もちろん仕事だけじゃなく、普段の生活でも重要になる場面も多くある。

ではモチベーションとは何か?ストレスとは何か?クリエイティビティとは何なのか?

人は知らないモノに対して不安を感じる。本書はこれらについて脳科学的な面から、脳の中で何が起きて、なぜそうなるのか、どうすれば対処できるのかを解説したものである。各々が起きる原理や仕組みを理解する事で、自分の脳をハックしよう。

【ポイント】

モチベーションは期待値のコントロール

「モチベーションが下がった」、「モチベーションが上がらない」

こんな事は仕事をしていれば1度や2度じゃないだろう。常にモチベーションがMAXの人はそうそういるものではない。

ではなぜモチベーションが下がるのか?

評価に納得が出来ない、仕事で結果が出ない、上司から怒られた等々、理由は色々あるだろう。普段仕事をしているとモチベーションが下がる要素はそこら中にあったりする。これらに共通しているのが、自分に対してネガティブな事が起きた時という事だ。つまり自己肯定感が低くなるような事が起きた時と言える。

脳内で起きていること
ここで脳内で何が起きているのかを見てみる事にする。モチベーションに関係する脳内物質は、ドーパミンとノルアドレナリンの2つだ。

本書では詳しく解説しているが、簡単にいうと、ドーパミンが出ると「超集中モード」になり、ノルアドレナリンが出ると「注意力散漫」の状態になる。そして、どちらかだけ暴走する事の無いように、この2つの物質がバランスを取り合っている。ドーパミンが出過ぎるとノルアドレナリンが「もう少し周りも見ろよ」と言ってくるようなイメージだ。逆にノルアドレナリンが優位だと、ドーパミンが「もっと集中しろよ!」と激を飛ばしてくれる。つまり、モチベーションが高い時はドーパミンが優位の時だと考えられる。

ドーパミンを出すには?

ではどうすればドーパミンが出るのか?

その答えが期待値のコントロールだ。ドーパミンが出る時の条件として、期待値と結果に差があった時ほど出やすいというのがある。

例をあげるとギャンブルになる。競馬や競輪、身近なところでいうと宝くじもそうだが、これらは普通は当たらなく、基本的に外れる。なので買う方もそれを承知の上で購入している。つまり「当たれば嬉しいけど、まぁ外れるよね的」な心情だ。

しかしたまに当たって大きな配当を得たりする事があり、この時に多くのドーパミンが出る。自分の見積もった(低い)期待値に対して、大きな配当という感情のギャップの大きさがある時だ。いわゆるサプライズに近い状態で、この期待値の差がドーパミンが出る1番の要素だったりする。

このドーパミンが出る快感はかなり強烈だ。中には脳内麻薬という表現をする人さえいる。この快感を味わいたくて、ギャンブルにハマっていく人がいるのである。

仕事への応用

ではこれを普段の仕事に応用するにはどうすればいいか。それは普段から期待値をコントロールする事に限る。分かりやすく言うと、過度な期待はしないと言う事である。そもそも期待していなければ、思いがけない結果の時に感情のギャップが生まれる。

しかし人間はどうしても期待しまうもの。なので、それが難しいと思う場合は別の方法でもいい。要は結果までに山有り谷有りの状態を作れればいいので、自分を追い込んでみるというのも有効な方法だ。

パンクしない程度に追い込む事で、1度どん底に近い状態を作る。そこから這い上がって得られた結果については、大きな感情のギャップがあるのでドーパミンが出て喜びが2倍にも3倍にもなる。これが成功者が過去を美化しやすい裏側だ。ただこれは結果を出す必要がある。結果が出なければ、辛い労働をしただけというネガティブな面しか残らない場合も多い。そういった意味では、ここでも期待値のコントロールが重要になってくるのだ。

また副次的な効果として、1回この経験をするとそれが成功体験となり、次回のチャレンジに対してもハードルが低くなる。

ただこの時に注意しなければならいのが、全て自分で決定するという事だ。他人から強制されたケースでは該当せず、感情のギャップが生まれにくい。以下の図はドーパミンとノルアドレナリンがどのようなモチベーションにしているかの図である。参考になると幸いだ。

ドーパミンとノルアドレナリンの関係図

自分に対して、「応援」はするけど「期待」はしない。

これは自分に対してもそうであるが、部下や後輩を育成するときにも使える考え方でもある。

ストレスには2種類あり、悪いことばかりじゃない

ストレスは仕事の効率を下げる原因の1つだ。一般的にストレスは悪いイメージがある。ストレスを受ける事で、生産性の低下や心身状態の低下などを引き起こす。しかし本書の中では、ストレスには2種類あり、良いストレスには生産性を高める役割があるとしている。

ストレスには、情報種類の選別や記憶力の向上、直感力といった役割があるとされているが、そもそも良いストレスと悪いストレスの違いは何だろうか?

これは本書の中で、「自分がやりたい事から受けるストレス」と「やりたくない事からのストレス」として分けている。

良いストレス

自分が興味を持って自発的に行動している時に受けるストレスにはドーパミンやノルアドレナリンなどが前頭前野に作用する。前頭前野は記憶や感情、行動、そして集中力も司っているので、ストレスにより記憶力向上などの作用を生んでいる。つまり成功しやすくなるのだ。

結果が出るまで辛い事もあるだろう。しかし辛いというストレスの感情は後で書き換えられる事もある。良い結果が出た時に過去を振り返ると、辛かった事もポジティブな事として脳に記憶されるのだ。つまり「終わり良ければ全て良し」という状態だ。

これには結果が出る事が重要で、やはり自発的な行動が出来るかが鍵になる。そういった意味だも、自分がやりたくてやっているかどうかが重要なのだ。

悪いストレス

一方で、悪いストレスは前頭前野の機能がストップしてしまう事が知られている。結果として集中力低下などが引き起こされ、結果が出ずに悪循環になる。またストレスが慢性化するとコルチゾールというストレスホルモンが出続けて、これが海馬に作用して萎縮などの作用をもたらす事が知られている。

このように、出来るだけ悪いストレスを避けて良いストレスを受ける事が重要だ。しかし仕事において全てに対して興味を持ってやれる訳ではない。では良いストレスにするには、どうしたらいいか?

自分事化する
それは仕事を自分事化するのが一番だ。簡単に言うと「やらされ感を無くす」という事だ。

日々の業務の中で勝手に目標を立ててみる。この目標も大それたものじゃなくていい。今まで30分かかってた業務を20分で終わらす。今日は絶対に残業しないなどでもいい。自分で目標を立てる事で自分事化になる。それはつまり、良いストレスへの第一歩になるのだ。

脳にとって最もストレスがかかる状態は、認識されていない曖昧な状態が続く事だ。

著者は「人はストレスを感じている状態に気が付いて初めてストレスと認識する」とも記載している。つまり気が付かなければストレスではないのだ。

今は情報過多でストレス社会とも言われている。時にはそんな鈍感さも必要になるのかもしれない。

クリエイティビティに必要なのは大脳辺縁系、つまり後天的に成長できるモノ

著者はクリエイティビティに必要なのは創造であると言っている。

「創造」とは、周りの評価に関わらず、本人にとって新しく価値のある情報や刺激を脳内で生みだすプロセスをいい、その能力をクリエイティビティといっている。そして、この想像をするにあたって、重要なのが大脳辺縁系にある緑上回や中心後回、角回といったものだ。緑上回は身体感覚が、中心後回は感覚神経が、角回は情報のハブだったり、メタファー(例え)に関係している。体で感じたものをメタファーして新しい創造をしているのである。

脳科学の中で、Use it or Lose itという言葉がある。使わなければ無くなるという意味だ。逆に言えば、神経細胞を使えば使うほど神経細胞同士の繋がりが強固になり、クリエイティビティが発揮されるようになる。

クリエイティビティに必要な3つのモード

脳がクリエイティビティを発揮する時には3つのモードが関係しているとされている。デフォルトモード・ネットワーク、セントラル・エグゼティブ・ネットワーク、サリエンス・ネットワークの3つだ。

デフォルトモードは簡単に言うと、ボーッとしている状態。自分の世界に入り込んでいる状態とも言える。これがクリエイティビティには重要だと言われている。セントラル・エグゼティブは逆に意識的にモノを見ていたり、考えている状態の事だ。サリエンスは上記2つの中間のようなイメージだ。切り替える役割をしているとも言う。

セントラル・エグゼティブで物事に対して集中して考え、デフォルトモードでボーッとする。実はこの時にも脳内では無意識下で処理をしている。その結果、クリエイティビティが発揮される事があるのだ。

お風呂に入っている時にアイデアが思いついたという事はないだろうか?これはデフォルトモードによる所が大きい。

違和感と曖昧さ

また著者は違和感も大切にするようにと言っている。

違和感の正体は過去に経験した事が無い事だ。

つまり経験そのものが少ないと違和感だらけになる。ましては全く知らない事に対しては違和感すら感じない。しかし多くの事を経験した上での違和感は重要だ。ここで感じる違和感は小さなものなので、意識しないとスルーしてしまったりもする。

この重要な違和感を感じられるようにするためには、日頃から新しい事に対する感度を高めておく事が重要だ。新しいモノや事に対して貪欲になる。気になったものに対して、まずは試してみる。このような経験を積む事で、クリエイティビティが発揮されやすくなるのである。

また、違和感は考えても答えが出ない事も多い。そんな時は、その「曖昧さ」も受け入れる事で、クリエイティビティが発揮されやすくなったりもする。

つまり新しい事に感度を高くして、実際に触ってみる、使ってみる。その情報から何が出来るかを、これでもかと考える。そしてボーッとする事で創造が出来るという事だ。

【最後に】

自分や部下、後輩のために

本書は上記以外にもモチベーションやストレス、クリエイティビティについて詳細に記載されている。一部専門用語も出てくるので、最初は取っつきにくく、理解するまでに時間がかかるかもしれない。しかしこれらは論文に基づいたデータや知識であり再現性は高いと思われる。これら3つは仕事をする上で避けては通れないものだ。例外は無い。

最初は3つのうち興味ある分野だけ読むのもアリだ。どの章も読み応えがあるが、それ相応のリターンはあると思われる。

自己防衛や部下のマネジメント目的で本書を一読してみるのも良いだろう。