人材採用におけるブランディング

企業ブランディングをリクルートにも応用する

ブランディングをやっていますか?

採用が楽になる、求人をかけて応募が来る、欲しい人材が来るようになる、働いている人がその施設で働いている事で優越感を得られる。

「このご時世において、そんな施設は無いよ。外資コンサル企業や日系でも一部上場企業だけでしょ?」

そう思うのも無理はありません。現状として多くの施設で人材採用は吃緊の課題です。どこも苦労しています。その一方で自分の施設がこんな状態になると最高じゃないでしょうか?業界によって難易度の差はありますが、世の中にはキャッチコピーを工夫する事で(デメリットを長所として言い替える事で)上手くいっている企業もあるのです。

どうでしょうか?そんな組織になってみたくはありませんか?その解決方法の1つとして自社のブランディングがあります。簡単に作れる訳ではありませんが、やってみる価値は十分にあります。

そもそもブランディングとは

よく聞く「ブランディング」、これを具体的に答えられる人ってどれくらいいるのでしょうか?Wikipediaによるとブランディングとは、

「ブランドに対する共感や信頼などを通じて顧客にとっての価値を高めていく企業と組織のマーケティング戦略」

とあります。ただこれだと抽象的すぎて今一ピンと来ない人も多いかもしれません。簡単に言うと、企業イメージを作る事です。

仕事や商売をしていく上でブランディングが重要であるとは良く聞きます。そして実際にブランディングが出来てくると色々なメリットがあります。ブランディングが出来ていればマーケティングにも有効だったり、ターゲット層を選定するのにも役立ちますね。そして人材採用においても自社のブランディングが出来て伝わっていれば、それに興味を持った人や希望の能力を持った人が応募してくれるようになるのです。

このようにブランディングを目的別で上手く使う事で、企業にとってメリットになる事も多いのです。

やらない事を決める

自社ブランディングを行う上で必要な事は何でしょうか?待遇の改善?セールスコピーを考える事?口コミ?これらは全て大切な事ではありますが、項目を挙げていったらキリが無いのも事実です。逆説的ではありますが、ブランドイメージを作るために必要な事は次の事だと思っています。

「やらないことを決める」

簡単に言うと取捨選択をする事です。自分のチームや組織はどんな価値を提供出来るのか(するのか)、逆にどんなものは提供出来ないのかをハッキリさせましょう。当然ですが全てパーフェクトな組織などありません。1チームがサッカーもバスケもスキーも強いなんてありえません。でも実際の現場ではこういう事を求めているのが頻繁に起きてたりするのです。アレもコレも出来ますは、逆に言うと何にも出来ませんと言っているようなものなのです。いわゆる取捨選択が出来ておらず思考停止に近い状態ですね。

自社ブランディングをやらない事での問題点

採用におけるブランディング

今現在、自社チームのブランディングが出来ていますか?商品やサービスについてはブランディングが出来ているかもしれませんが、採用分野で自信を持ってYesと答えられる企業はそれほどいないのではないでしょうか?採用において自社のブランドイメージがはっきりしていないと、次のような問題点が起きます。

  • 採用コストが高い(求める人物像以外の人も応募してくる、そもそも応募数が少ない場合も)
  • 入社した人達の退職率が高い
  • 入社後にベクトルを合わせるのが大変

どれも避けたい項目だらけです。どうでしょうか?自分のチームはこのような問題点が起きてないでしょうか?当然、ブランディングでこれら全てか解決する訳ではありません。他に原因があることもしばしばです。しかしブランディングで解決する事もあるのです。

一方でブランディングはすぐには完成しません。企業側がイメージを打ち出し、実際に第3者がそう思って始めてブランディングが出来ます。イメージに対して「実績」が必要になるのです。人間関係でもそうですよね。自分は誠実だといくら言っていても実際に行動や結果が伴っていないと意味はありません。これと同じです。

採用についてはこちらの記事で話しています。興味がある人は読んでみて下さい。

やらない事を決めるのはなぜ必要か?

なぜこのような事が必要なのか?

世界には色々な人がいます。日本国内で見ても性別や年齢、住んでいる地域が違います。これらが違えば当然価値観も違います。共通点が多い兄弟でさえも同じ価値観を持った人は少ないのではないでしょうか。兄弟でさえ違うので他人であれば価値観は違って当たり前です。

その人達全員に響くような商品やサービスは、本当に限られた一部のものだけです。そこを目指すには膨大なコスト(人的リソースと時間、アイデア)が必要です。そこを追いかける事は、限られたリソースの中でやっている企業において現実的ではありません。お金も人も時間も有限です。全てに100%で投入する事は出来ません。なので「やらない事を決める」事が必要なのです。

特徴を出そうとしてあれもこれもでやってしまうと、結局何も特徴が無い組織になってしまうのです。

採用ブランディングが難しい理由

ブランディングには特徴と実績が必要

このようにポイントを絞って実施する事で効果が大きい自社ブランディングですが、出来ている組織は少ないようです。出来ない理由には次のような事があると思います。

  • 自分のチームがどのような方向性なのか決まっていない
  • ブランディングの方法を知らない
  • ブランディングの必要性を感じていない
  • ブランディングが出来る人がいない
  • ブランディングに必要な会社の理念がお飾りになってしまっている

よくある「アットホームな職場です」、「未経験者でも親切に教えます」的なものはブランディングではありません。これらは抽象的すぎて他の施設でも簡単に言えて(マネ出来て)しまうのと、実績が伴っていない場合が多いからです。ブランディングには具体的である必要があるのです。

具体的な特徴とそれに沿った実績この2つがマッチして始めてブランドイメージが構築されます。それにはまず、具体的な項目、つまり自社の色が必要です。ここが固まっていない施設が多くみられます。そしてここを作るのに参考になるのが、自社の理念なのです。

お飾り化してしまっている企業理念

ブランディングは何をやるか、何をやらないかを決める事です。やる事、やらない事を決めるにあたって指標となるものが必要になります。すでに自己分析が済んでいて何が提供出来るのか、どんな人材を求めているのかが分かっている場合は問題ありませんが、ほとんどが決まっていないと思います。そこで参考にするのが企業理念です。

自社の企業理念を知っている人はどれくらいいるでしょうか?採用面接の時に見ただけで、それ以降は確認した事が無いという人も多いかもしれません。企業理念は創業者の言葉なので、少なくとも組織文化と関係しています。これを利用しましょう。

まずは自社の理念を確認して下さい。その上で理念に沿った形でイメージを構築していきましょう。

ブランディングの実際

ブランディング方法

では実際にどうやって構築していくのか。それはおおよそ次のような流れになります。

  • 企業理念を参考に自社組織の特徴を洗い出す
  • リストを元に取捨選択をする(多くても2つまで。それ以上だと中途半端になる可能性が高い)
  • 具体的な特徴が決まったら、必要な人に周知(マーケティング活動)をする
  • 約束は守る(出来ない事を出来るとは言わない)

これをら繰り返していく事で徐々に相手にイメージとして定着していきます。事前に約束した価値(特徴)を相手の期待値通りに提供する。採用でいうと、自社で得られるスキルやキャリアプランかもしれません。職場の雰囲気(良好な人間関係)なのかもしれません。待遇なのかもしれません。

簡単に言うと、約束した価値を約束通りに提供する。守れない約束はしない。これだけです。これを繰り返し行う事で顧客(求職者)の中に少しずつイメージが構築されていきます。これは時間が必要な事が多いので、効果を実感出来るまで中長期的に見ていきましょう。また途中でアンケートや口コミなどのフィードバックを参考に、改善もしてきいましょう。最初から完璧なものを作るのは難しいと思います。

採用ブランディングの実例

我々の施設では開院当初から一貫して設備投資に力を入れてきました。一般的に医療業界では10~15年が検査機器の更新サイクルなのですが、そこを半分以下の7年前後でやっており、機器も複数台ある事から2~3年に1回の頻度で最新機器の導入のアナウンスを打っているような形でした。これにより近隣からのイメージは常に最新鋭の検査機器があるというもので、集患もそれで出来ていました。

ただ設備投資に資金を入れるために人件費に回せずに、若手が入職しては退職しているという問題がありました。集患力はあったので患者さんは来ます。検査(仕事)も多いです。でも給与が安い。医療という安定感と、まだ就職氷河期の時代だったので最初は入職希望者も多くいましたが、このような評判が広まり段々と応募も無くなっていったのです。

ここをどうにかするという事で、プロジェクトチームが作られました。原因は労働量と賃金が釣り合っていないという事は明らかだったのですが、よく調べてみると、そもそも学生が応募してくる段階で自社の事を調べてこないパターンも多くあったのです。当然、入職後のギャップは大きく、早期退職の原因の1つになっていました。

そこを踏まえて、対学生においての採用ブランディングを開始しました。この時利用したのが会社のイメージです。学生にとって自社が提供できるものの中で1番何が刺さるかを考えた結果、「多彩な経験」というキーワードが出てきました。これはつまり「自身の成長」とも言えます。またこの項目は企業理念とも一致する部分が多かったのが幸いでした。

そして給与が安いという事実も、「勉強しながら給与も貰える施設」という訴求ポイントにする事で、「給与が貰える大学院」というキャッチフレーズを作りました。大学院なので、長期間(10年以上)もいる施設ではないというイメージになります。いわば長期での在籍を捨てたという事です。

つまり、稼ぐために就職するという形ではなく、勉強するために就職するという軸に変えたのです。

そしてこれに合わせた求人のランディングページを作り、内部での育成プランも再構築し、最短で最大の経験が得られるようにしました。また脱落しないようにメンター制度も導入し、規定の年数を在籍すれば一定の能力が身につくようにしました。この時のLP内容も「多彩な経験」、「成長」というワードをちりばめる事で応募の段階で価値観に合わない人(成長を望んでいない人)をふるいに掛けるようにしてあります。

これらの結果、応募数が実施前では0~2名/年程度だったのが、最低でも5名以上は来るようになりました。また価値観の方向性も揃っている事が多く、入職後の退職率も下がっています。

また結果的に長期で在籍してくれる人も増えました。これは嬉しい誤算でしたが、このように、普通であれば必須の項目をやらないと決めた事で成功した例になります。

念のために伝えておくと、それでも違う価値観の人が応募してくる事があるので、面接でその人がどんな価値観を持って、何を職場に求めているのか、それは提供出来るのかを確認する事は必要です。

まとめ

意味のあるブランディングを実施するために

まとめると、採用ブランディングを実施するにあたり注意する事は下記の通りです。

  • 提供価値を明確にする(価値の取捨選択)
  • 約束は守る

言葉で書くのは簡単ですが、実際にやってみると難しく思い通りにいかない事もしばしば起きます。ただそこを乗り越えると、一気に楽になる時が来ます。ポイントは小さな課題を設定する事です。最初から大きなゴールだと途中で挫折します。ドラゴンクエストでも最初はスライムから倒していきます。そうやって勇者になっていくのです。

イメージやブランディングは構築するのは時間と労力が必要ですが壊すのは一瞬です。

この事に注意をして、採用やそれ以外についての自施設でのブランドイメージの構築にトライしてみてはどうでしょうか。