仕事に関係あらへん話ししていい?
はい。ちょっと休憩しましょうか。
最近の会話の中で「ヤバい」ほど理解が難しいものはあらへんくない?
「ヤバイ」って良い意味でも悪い意味でも使われるやん?おっちゃん、たまにどっちのヤバイか分からん時があんねん。
この間、研修医と昼メシ食っててな、その研修医が一口食べた時に「ヤバっ」って言うたんよ。上手い方のヤバイかと思って「せやろ?」って言ってら、「いや、僕、甲殻類アレルギーなんです」って言うんよ。
そっちのヤバイかい!ってな。
「でもそんなにヤバイほどのアレルギーじゃないんで」って。もう分からんわ。
こういう便利な言葉って、話し言葉やから通じるんであって、文章だと全然伝わらん事もあるんよな。
マジでヤバない?
脊索腫(chordoma)とは
脊索腫の概要
アカン、残り時間がヤバくなってきたから早速始めるで。今日は脊索腫についてや。脊索腫って中々聞き慣れない言葉かもしれんな。
そうですね。ヤバイくらいあまり見ないですね。
それマジでヤバいで!脊索腫ってのはなかなりレアな症例やねん。
胎児期の脊索かの遺残から発生すんねんけど年間で100万人に1人くらいの確率やと言われとる。
脊索は胎児期に作られて、脊椎が出来るまでの胎児の体を支える役目があんねん。成長するに従って脊索は最終的に脊椎、仙骨、頭蓋底骨、椎間板の髄核となるんやけど、一部で残ってまう事もあんねん。ここから腫瘍になったのが脊索腫や。
好発部位も頭蓋底骨や仙尾骨が多いという話や。斜台と仙尾骨で各40%程度、脊椎で15%程度やと言われとるな。
好発年齢は20~60歳や。
分葉状で柔らかくゼラチン状の腫瘍で、時に石灰化や出血、壊死も見られるとの事や。
良性の分類とされていて、基本的に発育はゆっくりなんやけども、中には数ヶ月単位で大きくなるものもあるらしいで。
細胞内の泡様空胞(bubble-like vacuole)が特徴で良性なんやけど浸潤性が高いとも言われとるわ。
一応、悪性転化は5%ってデータもあるんやけど浸潤性やからオペで全摘するのも難しいと言われとるんや。
概要をまとめるとこんな感じや。
概要 | 特徴 | |
---|---|---|
脊索腫 | 100万人に1人の割合と頻度は少ない 斜台と仙尾骨に多く発生する 良性だが浸潤性が高い 30~60代に発生 臨床症状は斜台に発生すると、複視や視力障害、嚥下障害などがある | 分葉状で柔らかいゼラチン状の腫瘍 石灰化は50%で認める 細胞内の泡様空胞(bubble-like vacuole)が特徴 硬膜外に存在し骨破壊性の増殖 |
稀な症例なんやけどネットなどで1度は画像を見とくんやで。そっちの方が確実に記憶に残るからな。
斜台に発生するのが特徴的やで。ちなみに同じような脊索遺残から出来るのゼラチン状の腫瘍でecchordosis physaliphoraっていうのががあんねん。
これは硬膜内に留まっていて基本的に無症状で臨床的に問題となるケースが少ない嚢胞性の腫瘍や。
橋前槽に斜台背側壁と連即して認める事が多いねん。
脊索腫よりもサイズが小さくて、かつ大きくならへん事が多いから放っておいても問題あらへんヤツとも言われとる。ただ病理学的にもあまり脊索腫と変わりあらへんらしいで。
画像所見
脊索腫の画像所見
次に画像所見についてやな。
分葉状の腫瘍でT2強調で著明な高信号になるで。これは空胞状細胞を反映してるからや。
T1強調では低~等信号で、造影ではある程度の造影効果は認めるんやけど、内部の石灰化などにより不規則なまだら状の信号強度となるわ。
石灰化や骨融解を認める事もある関係でCTも有効な事があるな。
髄液播種をする事もあるらしいけど、正直、画像診断だけでの確定は難しくて最終的には組織診で確定させるらしで。
T2強調 | T1WI | 造影 | 他 | |
脊索腫 | 著明な高信号 | 低~等信号 | まだら状の造影効果 | 石灰化が50%でみられる 浸潤傾向が強い 骨融解も認める事あり、その時はCTも有効 |
理想はオペで全摘するのがベストやねんけども、どうしても発生部位の関係で全摘は難しい事が多いと言われてるわ。浸潤傾向も強いしな。
放射線治療なんかもあまり効かないんですかね?
そんな事ないで。X線やγ線より陽子線の方が効果的やという実験結果もあるらしいしな。ただ確立されたスタンダードな治療法はまだ無いって感じやな。
実際の症例
実際の症例や。仙骨に発生した例やけどな。
鑑別診断のポイント
頭蓋内腫瘍との鑑別
鑑別診断は軟骨腫、鼻腔腫瘍や骨転移、下垂体腺腫、髄膜腫などがあるかな。
斜台発生でT2強調で著明な高信号、不規則な石灰化などが見られない場合は、これらの腫瘍と鑑別が難しい事が多い印象や。
発生場所や石灰化の有無で判断する事が多いな。ecchordosis physaliphoraも鑑別が難しいしな。
まとめ
さて、今日は脊索腫についてレクチャーしたで。ポイントは3つかな。
T2強調では空胞状細胞を反映して高信号、T1強調で低~等信号、粘液成分や骨融解などでまだら状の造影効果を呈する
斜台と仙尾骨に多く発生する
CTも石灰化や骨融解などで有効な事も多い
これらの部位に分葉状の腫瘤を認めて、上記の画像所見やったら脊索腫を鑑別診断に入れておくべきやな。あまり頻度は高くない病気やから忘れんようにな。
どうしても技師はんやと普段見慣れてない病気は中々選択肢にあがってこんから難しいのは分かるんやけど、逆にそれを指摘出来ると「こいつ、ヤバない!?」って医者から一目置かれる存在になれるで。分からん症例は必ずネット上でええから見ておくんやで。この積み重ねが後々効いてくんねん。
特に今回のような脊索腫は知ってるかどうかが大きいからな。
ほな、精進しいやー!