「ノックアウトされた若手ピッチャー、悔しさのあまり壁を殴り骨折。全治6ヶ月」
・・・・アホや。気持ちは分からんでもないけどな。
スポーツ選手って怪我がつきものですよね。
せやな。今回の例はちょっと例外としても、怪我はいくら気をつけていてもやってまう時はやってまうからな。
特にプロは活躍できひんと解雇されてしまう世界やから、できるもんなら怪我したくないってのが本音やろな。
せや、今日は肩関節についてレクチャーしてこか。肩も多くの靱帯や筋肉が複雑に絡んでいる部位やからな。
1度、話しておくのも悪くあらへんと思うで。
もくじ
関節唇損傷(glenoid labrum and capsular injury)とは
ってな訳で、今日は関節唇損傷についてや。肩ほど自由に動かせる関節は人体上にそうあらへん。これは骨の解剖学上のメリットだったり、それに伴ういくつもの靱帯(腱板)や筋肉が複雑に絡み合っているからなんやけど、その分、怪我や損傷も多い部位やねん。特に野球やバレー、柔道なんかの腕を使うスポーツや激しいコンタクトスポーツで多いな。
脱臼に関する関節唇損傷やと、SLAP lesionやBankart lesionなんかは過去に話したけど、それ以外も多くあんねん。今回は、その辺りを話していくで。
関節唇損傷の概要
さて、一言で関節唇損傷と言っても多くの種類があんねん。どれも肩関節を読影する上で必要なものや。しっかりと覚えておくようにな。
その前に関節唇とはどんなものかの復習からや。関節唇は肩関節窩の周囲を覆っている線維性の組織で、上方関節唇、前方関節唇、後方関節唇、下方関節唇の4つに分けられてんねん。
原因別による関節唇損傷
解剖も復習した所で、関節唇損傷についてや。具体的には下記のようなものがあるわ。大きく分けて前方脱臼、不安定性と後方脱臼、不安定性に分けられるで。
【前方脱臼や前方不安定性に関連】
- Perthes lesion:関節唇が肩甲骨関節窩から分離しているが、骨膜によって関節窩と繋がっている状態
- ALPSA lesion(anterior labroligamentous periosteal sleeve avulsion):関節唇が分離し、剥離した骨膜の深部にロール上に巻き込まれた状態
- GLAD lesion(glenoid labral articular disruption):肩甲骨関節窩の軟骨が関節唇基部で関節唇と共に剥離、損傷したもの
- HAGL lesion(humeral avulsion of the glenohumeral ligament):下肩甲上腕靱帯の上腕骨付着部側の断裂または剥離
【後方脱臼や後方不安定に関連】
- reverse Bankart lesion:後方脱臼による後方関節唇の剥離、または関節窩後縁の骨折
- Bennett lesion:後方関節包の関節窩付着部における骨化
不安定性はどういう状態かと言うと、初回の脱臼なんかで肩関節支持組織の破綻が起きて、反復性肩関節脱臼が起きやすい状態の事や。
これは初回発症が若年者ほど不安定性に繋がりやすくて、20歳以下での反復性脱臼への移行率は半数近くにもなるとのデータがあるで。ちなみにこれが30~40代になると、反復性脱臼に移行する割合が10%程度にまで低下するとの事や。
臨床症状
関節唇損傷における臨床症状は主に肩関節痛や。野球なんかやと投球時に肩が抜けるような感覚を訴えるパターンもあるな。疼痛、不安定感、可動域制限なんかがメインの症状や。
治療法
関節唇損傷になった場合、残念ながら自然に治癒する事はあらへん。安静にしてれば痛みや症状が改善してくる事もあるんやけど、実は根本的な原因が解決した訳ではあらへんねん。これを治療するには、外科的な方法で治療する事が必要になるで。
具体的には、アンカーを肩甲骨に打ち込んで関節唇を安定させるバンカート法、肩甲骨の一部を移植するバンカート法+ブリストウ法、上腕骨にもアンカーを打ち込むバンカート法+レンプリサージ法なんかがあるらしいな。
それほど激しいスポーツをする必要があらへん場合は、保存療法とリハビリで可動域の改善を図る方法もあるで。この時の目的は、筋力の向上と拘縮の予防やな。
画像所見
関節唇損傷の画像所見
次に画像所見について話していくで。基本的にMRIのT2スター画像がよく分かるで。他には脂肪抑制画像も有効やな。関節造影までやっている施設もあるかもしれん。その場合はより読影がしやすくなるで。
具体的な所見は以下の通りや。上で話した状態も含めて記載しておくで。そっちの方がイメージしやすいやろからな。
所見 | 状態 | 画像所見 |
---|---|---|
Perthes lesion | 関節唇が肩甲骨関節窩から分離しているが、骨膜によって関節窩と繋がっている状態 | 関節唇の変位はなく、関節唇基部と関節窩の間に線状の高信号が見られる |
ALPSA lesion | 関節唇が分離し、剥離した骨膜の深部にロール上に巻き込まれた状態 | 関節窩内方に変位した関節唇が確認される |
GLAD lesion | 肩甲骨関節窩の軟骨が関節唇基部で関節唇と共に剥離、損傷したもの | |
HAGL lesion | 下肩甲上腕靱帯の上腕骨付着部側の断裂または剥離 | 脂肪抑制画像で上腕骨側の損傷部に信号上昇を認め、J signと呼ばれる所見が見られる |
reverse Bankart lesion | 後方脱臼による後方関節唇の剥離または関節窩後縁の骨折 | 上腕骨頭前面の陥凹や骨髄浮腫による高信号を認める |
Bennett lesion | 後方関節包の関節窩付着部における骨化 | 関節窩の後部に線状の低信号域(関節包付着部の剥離損傷に伴う骨化)が確認出来る事がある |
実際の症例
Perthes lesion
まぁ、言葉で説明するよりも画像で見た方が早いやろ。まずはPerthes lesionからや。40代男性で交通事故外傷の精査でMRIを実施した例やな。前方関節唇の基部に剥離が確認できると思うで。
ALPSA lesion/HAGL lision
次はALPSA lesion、HAGL lisionや。転倒して脱臼してんねん。整復後にMRI検査を実施した例や。ALPSA lesionとHAGL lisionの2つを確認出来るで。HAGL lisionのJ signやけど、これは断裂した箇所から関節包内に液体が脱出しているのを反映してんねん。
GLAD lesion
次はGLAD lesionや。転倒受傷して肩痛の精査のためにMRIを実施した例や。前下関節唇と関節軟骨の剥離損傷を認めて、GLAD lesionを認めるで。
reverse Bankart lesion
次はreverse Bankart lesionの例や。こちらも転倒受傷して肩痛の精査でMRIを実施した例やで。後方関節唇の剥離損傷が分かると思うで。
Bennett lesion
最後にBennett lesionの例や。1年前からの投球時の痛みがあって、その精査でMRIを実施した例や。関節窩の後方に剥離損傷が疑われるで。
鑑別診断のポイント
鑑別疾患
鑑別診断のポイントやけど、これはすでに上で関節唇損傷について色々話したからもうええやろ。前方脱臼や後方脱臼に伴う所見が多くあったから確認しておいてくれや。
しいて言うならSLAP Lesionとか腱板損傷とかになるかな。それらはこっちで解説してるから合わせて見ておいてな。
まとめ
さて今日は肩関節唇損傷についてレクチャーしたで。一言で関節唇損傷って言ってもいくつもパターンがあって、その代表的なものを説明していったで。パターンを多く紹介したからポイントは絞りきれへん。あえて言うなら以下になるかな。
・T2スター(もしくは脂肪抑制画像)で関節唇損傷の状態をチェックする
前方脱臼の時と、後方脱臼の時に想定される疾患がいくつかあったで。それを覚えておけば自ずと診断がつくと思うで。
これって複数の病態が同時に起きる事もあるんですよね?
もちろんや。
高エネルギー外傷なんかやと関節唇損傷に加えて、腱板損傷をしているケースも多くあるで。もちろん骨折もしている場合もあるな。
せやから1つだけの所見を見つけて満足してしまってはアカンって事や。これは肩関節だけやなくて、他の部位の読影にも言える事なんやけどな。
さて、余り長く話していると話しが長いって嫌われるから、今日はこのへんで終わりにしよかな。
ほな、精進しいやー!