キーンベック病(Kienbock’s disease)

なぁ、昔はカルテにドイツ語で記入してたって知ってる?

風の噂では聞いた事があります。

実際あったらしいな。ワシが医者になった頃は英語と日本語メインやったから、全然イメージ涌かへんのやけど、小さい頃に通ってた町医者はカルテに暗号みたいな文字書いてたな。今思えば、アレはドイツ語やったのかもしれんな。

今は電子カルテが普及してるからかなり楽になったんやけど、昔、それこそワシが放射線科医になりたての頃はまだ紙カルテやってん。ほんで読影するときに依頼内容を確認するんやけど、これがまた解読するのが難しい先生がいたんよ。でも読影せなアカンから、なんとか解読して所見を書くんやけどメチャメチャ時間がかかってな。

その点、電子カルテは誰が記入しても読める文字やからな。電子カルテ様々や。

日本語の時ですらそんな感じやったから、ドイツ語メインの時ってかなり苦労したんちゃうかなとも思ってみたり。

まぁ、昔話はこのへんにしといて今日のレクチャー始めるで!

キーンベック病(Kienbock’s disease)とは

キーンベック病の概要

今日はキーンベック病についてやってくで。これはメジャーな病気やから知ってる人も多いんちゃうかな?

キーンベック病ってのは月状骨が骨壊死を起こした状態の事を言うねん。

20~40代が好発年齢や。これといった明確な原因は不明なんやけど、月状骨への反復負荷や外傷なんで血流が低下して起きるとも言われてるで。尺骨が橈骨と比較して短い場合に多い事が知られてて、これをnegative ulnar varianceとも呼ぶで。病気分類にはLichtman分類というのが使われてるで。

概要
キーンベック病何らかの原因で月状骨が骨壊死してしまっている状態
原因は明確ではないが月状骨への反復負荷や外傷などが挙げられている
男性に多く10~50代と幅広い年代で発症するがピークは20代
尺骨が橈骨と比較して短いnagetive ulnar varianceに多い事が知られている
病気分類にはLichtman分類を用いられており、StageⅢ以上が手術の対象
Lichtman分類
Stage月状骨の圧痛のみ 単純写真では以上を認めないがMRIで所見がある
Stage単純写真で骨硬化像を認めるが圧潰像はなし
StageⅢA分節状変化と圧潰像がある
StageⅢB分節状変化と圧潰像があり、かつ手根骨の配列異常を認める
Stage手根骨関節の関節症変化がある

手関節の解剖

次に手関節の解剖や。この辺は基本やからな。サラッとでええやろ。っていうか月状骨を知らん人はまさかおらんよね?

手関節解剖

キーンベック病の原因と臨床症状

キーンベック病の原因は特に明確にはなってへん。スポーツや仕事なんかで慢性的に月状骨に負荷がかる事で骨壊死を起こしてるとも言われとるな。

主な症状は、手関節の疼痛や。進行してくると握力低下や運動制限が出てくる事もあるで。

治療法は保存療法と外科的療法や。保存療法は安静にしたりギプス固定で負荷を減らす事で回復を期待すんねんけど、保存療法でも改善せーへんかった時に橈骨短縮骨切り術や骨移植、壊死した月状骨を摘出して代わりに腱球挿入なんかをしたりするらしいで。

早期発見と早期治療が重要との事や。

画像所見

キーンベック病の画像所見

次に画像所見についてやな。

早期の場合は単純写真やと指摘出来ひん。進行するに従って骨硬化像を認めるようになるで。

一方でMRIやと早期から指摘可能や。T1強調で低信号、T2強調で様々な信号パターンを呈するで。T2強調で等~高信号の場合は比較的予後がええって報告もあんねん。

キーンベック病
単純写真では月状骨の骨硬化の有無を確認する
他に月状骨の分節化、minus variance(橈骨と尺骨の高さの違いが3mm以上)、舟状骨掌屈回転(cortical ring sign)など
MRIではT1強調で低信号、T2強調で様々な信号パターン
T2強調で等~高信号の場合は予後が良いとも言われている

実際の症例

次に実際の症例や。60代女性で誘因なく月状骨付近の痛みが発生した例や。MRIでキーンベック病と診断されたで。脂肪抑制が像で月状骨の高信号を認めると思う。

手関節MRI-キーンベック病
左が脂肪抑制、右がプロトン強調

次は20代男性の例なんやけど、Lichtman分類でいうところのStageⅢAにあたる症例や。圧潰像が確認出来ると思うで。

手関節MRI-キーンベック病(Stage3a)

次は40代女性で元々キーンベック病と診断されてん。転院に伴いフォロー検査を実施した例や。月状骨に脂肪抑制で高信号と嚢胞成分を認める事が出来ると思うで。圧潰像は認めへんからStageⅡ相当ってところになるかな。

手関節MRI-キーンベック病(Stage2)
左からT2強調、T2脂肪抑制、T1強調

鑑別診断のポイント

TFCC損傷 尺側手根伸筋腱鞘炎

次に鑑別診断やな。これはTFCC損傷や尺側手根伸筋腱鞘炎なんがが挙がると思うで。これらはどれも手関節痛があんねん。まぁ単純写真やMRI検査を実施すればキーンベック病は特徴的な所見やから、それほど迷わずに診断出来るとは思うけどな。

舟状骨骨折

他に似たような所見として舟状骨骨折があるわ。

これはその名の通り、舟状骨が骨折してる状態の事を言うねんけど、スポーツなんかで手をついた時に起きる事が多くて、サッカーで多いらしいな。

症状は急性期には疼痛と腫脹があるんやけど、急性期を過ぎると一時的に痛みが軽快すんねん。これを捻挫と思って放置すると後で偽関節になったりするで。偽関節とは骨が癒合せずに分離したままの状態で、この状態になると本来関節があらへんトコに関節があるようになってしまって、骨の変形や機能障害を起こす事もあるとの事や。

手関節MR-舟状骨骨折

この症例は40代女性でバレーボールで負傷して精査となった例や。舟状骨に骨折を認める事が出来るな。

まとめ

今日はキーンベック病についてレクチャーしたで。ポイントは1つかな。

月状骨の異常(骨硬化や骨壊死)の有無

MRIを撮影すれば分かりやすいんやけどな。MRIを持ってへんかったり検査連携施設の検査待ちが長かったりで、中々撮影できひん施設もあると思うから難しい所や。ただキーンベック病に関してはMRIまで撮影した方が間違いなくええ事は確かや。単純写真やと初期は指摘が困難な時が多いからな。

ただ一方で、検査施設が増えても読む医者も増えん事にはアカンねんけどな。ただこれは時間がかかるから、そういった意味で技師はんが読めるようになってくれると強力なんや。

さて、今日はこのへんにしとこか。

ほな、精進しいやー!