給与という労働対価

給与の対価は労働時間ではない

労働時間と労働価値の違い

自分の給与はどこから出ているのだろう?

大抵の人は何かしら労働をして給与を得ていると思います。この給与はどこから出てきているのか?この事を考えた事はあるでしょうか?

お金は自然に湧いてくるものではありません。何かしらの商品やサービスの対価として支払われています。つまり誰かの悩みを解決した(するであろうと期待した)時に支払われているのですが、この対価は業界によって大きく違ったりします。

ここ数年給与が上がっていない、収入が増えていない、そんな人は少し従来の考え方や物の見方を変える必要があるかもしれませんよ。

どれくらいの給与が欲しいのか

どれくらいの給与があれば満足しますか?50万?100万?1000万?金額は人それぞれだと思いますが、多ければ多いほど良いのは共通していると思います。

ここに厚生労働省が出している「令和4年国民生活基礎調査の概要」がありますが、これによると年収1000万以上の人の割合は12.4%となっています。1200万以上は5%以下、1500万以上は1.4%程度です。

多くは月に100万、つまり年収1200万程度あれば満足出来るんじゃないでしょうか。これは上位5%に入る必要があるという事になりますが、逆に言うと多くの人が希望していても、その中で5%しか達成出来ていないという事でもあります。

100人中5人、つまり20人に1人。こう書くと達成出来そうな確率のように見えますが、ただ言葉で書くのは簡単でも実際に稼ぐとなるとかなりの努力が必要になります。

給与の正体

同じ労働をしていても月に10万稼ぐ人と、100万稼ぐ人、1000万以上稼ぐ人がいるのはなぜでしょうか?また同じ8時間労働でも職種や内容によって得られる給与が全然違ったりします。というか、そもそもお金って何でしょうか?

お金とは、何か解決したい問題があって、それを解決してくれる商品やサービスに対して支払わるものです。そして金額の大きさは次の方程式で表す事が出来ます。

「問題解決で相手を喜ばせた割合の大きさ」×「問題の難易度」×「解決する人数の多さ」

相手を喜ばせる職種は沢山あります。でもその中で得られる金額に差が出てくるのは、解決したい問題の難易度が関係しています。医師は命を扱います。病気が治った、命が助かったとなれば喜びの度合いは大きいです。そしてこれは解決難易度が高く、医師免許が必要なので誰にでも出来る事ではありません。だから高額な報酬が得られるのです。

給与が上がらない事での問題点

お金の価値は一定ではない

まず知っておいて欲しい事があります。それは、お金の価値は常に一定ではないという事。10年前の1万円と2023年現在の1万円は価値が違います。

それは他の通貨とのパワーバランスのためで、ここでは詳しくは説明しませんがインフレやデフレ、また物価や為替という形で現れたりします。つまり10年前に1万円で買えたものが今は買えなかったりします。逆に、10年前以上に多く買えたりする事もあります。

日本は人口増加もあって高度経済成長期、バブル経済期を経て円の価値は大きくなりました。しかしバブル以降の30年は経済成長がほとんどなく相対的に円の価値が下がり続けている状態です。そのため以前より多く稼がないと生活レベルの維持が難しいのです。

生活していくためにはお金が必要

人は生活していく上でお金が必要です。食品であったり衣料品を買う時もお金が必要になります。地方に住んでいると車も必要になる事も多いでしょう。結婚して家庭を持って、子供ができれば更にお金が必要になります。大学の学費は大きな金額です。そして子供が独立すると以前ほどお金は必要じゃなくなる事も多いです。

このように人生のステージによって必要なお金の量が変わります。その時々に合わせて給与も上がったりすればいいのですが、一般的にそういう形態にはなっていません。つまり必要な時に必要な量が足ない事が往々にしてあるのです。そして、その穴埋めとして金融機関から借りたり、奨学金として借金したりしています。

また家庭を持たない人でも、趣味にお金が必要になるかも知れません。親の介護でお金が必要になるかもしれません。

必要最低限、食べてさえいければいいという人がいれば別ですが、多くの人はそうではないと思います。このように生活していく上で、お金は必要で、そしてその価値は一定ではないのです。

給与が上がらない原因

給与が上がらない原因その1 個人の生産性

お金は自然に湧いてくる訳ではなく、提供された商品やサービスに対して顧客が対価という形で支払われているというのは前述した通りです。

自由競争の場合、値段は売り手が決められる事がほとんどで、その金額に対して納得した人だけが購入します。しかし世の中にはすでに売値が決まっている場合もあり、私のいる医療業界では診療報酬という国から決められたものがあります。これはその行為に対してどれほど時間をかけても変わりません。

通常であれば時間をかけてサービスの質を高める事で金額に反映させますが、これが出来ません。どれだけ質を高めても得られる金額は一緒なのです。つまり採血を3分で終わらせようが20分かけようが点数は変わらないのです。

生産性という概念

ここで必要なのが生産性という概念です。前者と後者を比較した場合、生産性は7倍も違う事になります。収入が上がらないと言っている人は、実は後者に当てはまる人が意外と多いんです。

生産性は労働生産性とも言いますが、次のように言われています。

「労働投入量1単位あたりの産出量・産出額」

つまり、投入したリソースに対してどれだけ結果が出たかという事です。同じ1万円の商品でも10分で売る人と10日かかる人では全然違うのです。前者は時給6万円、日給で48万です。方や後者は日給1.3万円なのです。どちらが多くの給与を得られるかと言われると、前者なのは明白でしょう。

これらは業界の労働分配率や総利益率によっても変わってきますが、だいたい希望する年収の数倍は利益を上げる必要があります。全く同じ条件で売り上げを1億上げる人と1000万の人、どちらがより高給を取れるかは簡単に分かると思います。

自分はどれくらい売り上げを立てているでしょうか?生産性についてはこちらも参考になります。

給与が上がらない原因その2 需要と供給のバランス

2つ目の理由が、労働力の需要と供給のバランスです。

一般的に労働力の需要が大きければ給与は高くなります。なぜなら高くしないと人が集まらないからです。

逆に供給が多くなると買いたたかれる事が多くなります。なぜなら他にもやりたいという人がいるからです。

つまり誰でも出来る仕事には多くの供給があり、一方で高難易度な仕事、例えば医師などは限られた人達を奪い合うという事が起きているのです。このように需要と供給のバランスも重要なのです。

給与が上がらない原因その3 成長産業かどうか

3つ目が所属している業界が成長産業かどうかです。その業界が成長していると、ビジネスチャンスが多くあるので多くの企業が参入してきます。つまりヒトとモノが入ってきます。この2つが流入してくる事で、自ずとお金も入ってくるので業界に流れるお金の量が増えるのです。

成長産業では企業も成長していきます。企業が成長するという事は売り上げが上がる事です。つまり人件費に使える金額も多くなるという事なのです。

1億円の業界で100社が取り合うのと、100億円の業界で100社が取り合うのでは1社当たりの取り分が違ってくるのです。

より多くの売り上げを上げるには?

付加価値の落とし穴

個人の生産性を高めて、需要が多く成長産業の業界で働く。これが自分の給与を上げる方法でした。後者2つはある程度イメージがつきやすいかと思います。なのでここでは個人の生産性を高める方法を具体的に話していきます。

少し前に給与の正体について話しました。

給与=「問題解決で相手を喜ばせた割合の大きさ」×「問題の難易度」×「解決する人数の多さ」

この中で「解決する人の多さ」は、需要と供給のバランスに関係してきます。そして、その他の2項目については、別名「付加価値」とも言う事ができます。この付加価値を高める事で販売金額を上げて収益をアップさせる事、つまり生産性を上げる事が可能なのですが、付加価値は本当に相手が望むものでなければ意味がありません。

良い例がテレビのリモコン。リモコンには多くのボタンが付いています。どれも何かしらの意味や機能を持っていますが、あのボタンを全部使っている人は、いったいどれくらいいるのでしょうか?あのボタンの種類の多さがハイエンド商品購入の決め手になるなんて事はほとんどありません。

しかし作ってる方は必要だと思っているので付けています。そこには様々なリソースが加わっています。つまり売り上げに貢献しない(しても極小)のものにリソースを割いているのです。

このように何でも付ければ高く売れるというものでもないんです。

顧客単価を上げる

基本的に売り上げは次の3つの要素から構成されています。先ほどの付加価値もこれら3つの要素を上げるための施策になります。

  • 顧客数
  • 顧客単価
  • 購入頻度

順に見ていきましょう。

顧客数を増やす

商品やサービスを購入するプロセスにAIDMA(Attendion:注意 Interest:興味 Desire:欲しい Memory:記憶 Action:購入)というモデルがあります。これは商品購入の一連の流れを示したものですが、ここでもまずは知ってもらう事(Attension)が最初にきています。

近年、AISAS(Attension Interest Search:検索 Action Shere:共有)というモデルも出てきました。これはインターネットが主流になった現代で考えられているモデルですが、ここにもAttensionが入っています。

つまり、どんなに優れたサービス、プロダクトでも知ってもらわなければ存在していないのと同じ意味になります。知ってもらうためにマーケティング活動(広告費をかけてCMやリスティング)を行っています。最近ではSNSを利用して広告を出す例も良くみかけるようになりましたね。

これは多くの人に知ってもらえれば、そのぶん購入する人も増えるという考えで行っています。100人のグループに購入打診するのと、1,000,000人のグループに打診するのでは、どちらが売れる可能性が高いのか?という事をイメージしてもらえれば分かりやすいかと思います。

顧客単価を上げる

単価が高ければその分売り上げも上がります。ただ高単価な商品を購入してもらおうとすると、それだけハードルが高くなります。人間は失敗を避けようとする傾向があるためです。

100円のものを買って失敗してもそれほどダメージはありませんが、1万円のものを買って失敗するとそれなりにダメージを受けます。これが10万円、100万円となるとダメージが大きくなるのでかなり慎重になります。これがなかなか高単価商品を売りずらい要因だったりします。

対策として、セットメニュー(クロスセル)を作る、別のサービスを付加する、アップセルを行う、などがありますが、これらも本人が必要としていなければ意味無い事は高付加価値の時に話した事と同様です。

高くてもいい(費用対効果が良い)と思ってもらえるようなサービスを作る事が必要なのです。

購入頻度を上げる

当然ですが、商品を購入する回数が単発で終わるより、リピート購入してもらった方が継続的な売り上げに繋がります。

このリピート購入のメリットは、広告コストがゼロという事です。すでに一度購入し使用した上で、再購入してくれているので認知から購入までのコストがかかりません。これは特に定期的に購入するものに効果が大きいです。

スポーツジムなどの会員制ビジネスはこれの応用です。会員という形で半ば強制的にリピーターにしてしまう訳ですね。他に似たような形態で保険商品なんかもそうかもしれません。一度入れば基本的にずっと支払い続けてくれます。定期的にコンタクトを取らなくてもです。

これはスイッチングコストが影響しています。変える時には一から比較検討しなければなりません。一般的にこれは面倒なので初回に入ったものを継続する傾向があります。なので各社、最初の獲得に全力を出す訳です。

町中にある無料相談所はなぜ相談が無料なのでしょうか?そこで働いている人達がいるにも関わらずです。最初のコストをタダにしても、それだけ後から大きな利益になるって事なのではないでしょうか?

これがリピートの力なのです。

まとめ

給与は労働時間ではなく労働価値で決まる

このように、給与は次の項目で決まります。

  • 給与=「問題解決で相手を喜ばせた割合の大きさ」×「問題の難易度」×「解決する人数の多さ」
  • 前者2つは「生産性(付加価値)」、後者は「需要と供給のバランス」「成長産業」に関係する
  • 生産性を上げる=どれだけ効率良く売り上げ(「顧客数」×「顧客単価」×「購入頻度」)を上げられるか

ここに勤務時間は入っていません。高い給与を得たければ、決められた時間で結果を出す必要があるのです。この結果が大きければ大きいほど自分に返ってきます。すなわち給与に反映されます。

給与は「労働時間」で決まるのではありません。「労働価値」で決まります。

窓際オジサンが高給取りと言われるのは上記を満たしていないからです。つまり給与に見合った結果を出していないのです。欧米であれば降格やレイオフの対象になりますが、日本は規制があり難しいです。

自分が欲しい給与に対して、それだけの結果を上げているのか。この辺りを考えてみると、何をすればいいのかが見えてくるかもしれません。