肝癌(liver cancer)

アルコールに弱くなりたいわー。

僕は激弱なので、飲める人が羨ましいです。たまにいますよねー、お酒を水のように飲める人って。

実は日本人は半数近くがお酒に弱い人達やねん。そもそもアルコール分解に必要なALDH2(アルデヒドデヒドロゲナーゼ2)という酵素があるんやけど、これが日本人の44%は欠損してるらしいねんな。つまり10人中4人はお酒に弱い人達やねん。結構な数字やん?

ちなみに地域差もあるらしくて、秋田や鹿児島などの東北、九州、沖縄は強くて、三重、愛知なんかの近畿、中部地方が弱いらしいな。

世界で見ると同じアジアでも韓国人は28%、中国人は41%が持ってへんらしいで。この違いってなんなんやろな。ちなみにドイツ人は0%って話しや。前に学会でドイツに行った事があるけど、アイツらビールばっかり飲んでたで。

他にアフリカ系やヨーロッパ系はこの酵素の欠損が0%らしいな。ただ分解が出来るからといって、大量に飲むと体には毒やで。肝硬変から肝癌のコースや。

てな訳で今日は肝癌についてレクチャーしていくで。

肝癌(liver cancer)とは

肝癌の概要

今日は沈黙の臓器代表の肝臓に発生する「肝癌」について話していくで。まずは概要からや。

肝癌には大きく分けて2つのパターンがあるで。1つめが肝臓が原発の癌、2つめが転移性肝癌や。この中で前者を肝細胞癌(hepatocellular carcinoma:HCC)と呼ぶんやけど、実はこのHCCにも前癌段階があったりすんねん。

肝細胞癌 InternalWorkingParty分類

肝細胞癌は中年以降に発生率が上がってきて、70~80代でピークやねん。男性の方が多いで。罹患率自体は男性は徐々に減少してきていて、女性やと横ばいという話しや。

原因の約90%がウィルス感染(B型肝炎ウィルス Hepatitis B virus:HBV(20%)、C型肝炎ウィルス Hepatitis C virus:HCV(70%))と言われてんねん。肝炎を治療する人が増えてきたのも減少の1つの理由かもしれんな。

他には多量のアルコール飲酒があるで。

両方共に共通するのが、肝細胞に慢性的にダメージを与えてる事や。脂肪肝から肝硬変になって、その中で何回も修復を繰り返す内にエラーが起きて癌化するって流れなんや。

肝細胞癌の概要
・70~80代にピークを迎え、男性が多い
・罹患率は男性で減少、女性で横ばい
・若年でも発症する例もある 原因の90%が肝炎ウィルスで、B型肝炎ウィルスが20%、C型肝炎ウィルスが70%
・他にはアルコールなどがあり、肥満や糖尿病とも関係があるというデータもある
・肝細胞癌は前癌病変から早期肝細胞癌、高分化肝細胞癌、中分化肝細胞癌という発育過程をとるとされている
・転移性肝癌の原発は消化器系癌が多く大腸癌が最多
・肝細胞癌には早期や進行期も含め特異的な症状は無く発見時には進行癌の事も多い

肝臓の解剖と役割

次に肝臓の解剖について話していくで。

肝臓は重さが約1kg程ある体内で1番大きい臓器で、肝鎌状間膜を境に左右に分かれてんねん。

またこれが重要な事なんやけど肝臓は8つの亜区域に分類されてんねん。Couinaud(クイノー)分類とか聞いた事あるやろ。S1~S8という形で記載されるから、これは必須で覚えておくべき事や。これを知らんと医者との会話が成り立たへんで。

肝臓解剖
肝臓区域分類(クイノー分類)

肝臓の役割は、大きく3つあって、①代謝や合成、②解毒や分解、③胆汁生成・分泌の3つや。各々の詳細は下記の通りやから確認しておいてな。

肝機能が低下すると、全身にエネルギーが行き渡りにくくなって、解毒作用も低下して、胆汁も生成されなくなんねん。こうなると生命維持にも関わってくるで。

 肝臓の主な役割
【代謝】
胃や腸で吸収された栄養素を貯蔵し、必要に応じて分解してエネルギーを生成している
血管を通じて全身に送り出される
必要以上のエネルギーが入ってくると肝臓に脂肪が蓄積し脂肪肝になる
【解毒】
アルコールなどの有害物質を解毒し尿や胆汁に排泄している
肝機能が低下すると体内から有害物質が排泄されにくくり、中毒症状などが起きる事もある
【胆汁生成・分泌】
胆汁は脂肪吸収酵素やコレステロールを体外に排出する役目があり、肝臓で生成され胆嚢に貯蔵される
胆汁には胆汁酸、ビリルビン、コレステロールなどが含まれている

肝癌の原因と治癒率

HCCの原因は概要で話した通りウィルス感染が90%で最多や。

ただこれは近年の治療薬の開発で肝炎ウィルス感染者が減少してきてる事で、同時に肝細胞癌の罹患者も減少傾向にあるで。他にアルコールの多量飲酒も原因の1つやし、肥満、糖尿病なんかも関係があるとされとる。

肝炎ウィルスによる慢性肝炎、多量の飲酒による脂肪肝、これらから肝硬変になって肝癌になるってパターンがほとんどや。

HCCを発見するにはUS検査やCT、MRI検査などの画像診断の他に、AFP(アルファ・フェトプロテイン)やPIVKA-2、AFP-L3分画を測定して診断の助けにする事もあんねん。ただ腫瘍マーカーだけやと、肝臓のどこに腫瘍があるかが分からへんから、最終的には画像診断が必要になるで。血流状態を見るために造影は必須やな。

治療法は外科的手術や薬物療法などやな。早期で発見できればRFA(ラジオ波焼灼療法)やTAEやTACEといったカテーテル治療を実施する事もあんねん。ただあまりにも進行していると外科的治療しか選択肢が無いケースもあるで。

5年生存率については国立がん研究センターの2015年のデータで下記のようになってるで。

肝細胞癌(5年生存率)Ⅰ期:78.9% Ⅱ期:65.7% Ⅲ期:26.7% Ⅳ期:7.6%

肝癌のTNM分類

肝癌(肝細胞癌)のTNM分類とステージ表を表にしておいたで。今はUICC8版と原発性肝癌取扱規約第6版があるで。各々で微妙にステージの定義が違うから注意や。

T分類T1T2T3T4
肝細胞癌(原発性肝癌取扱規約第6版)腫瘍が1つ、大きさが2cm以下、脈管(門脈、静脈、胆管)に広がっていないの3つが合致している腫瘍が1つ、大きさが2cm以下、脈管(門脈、静脈、胆管)に広がっていない内の2項目が合致している腫瘍が1つ、大きさが2cm以下、脈管(門脈、静脈、胆管)に広がっていない内の1項目が合致している全て合致せず
肝細胞癌(UICC8版)T1a:血管侵襲の有無に関係無く、最大径が2cm以下の腫瘍が1つある
T1b:血管侵襲を伴わず最大径が2cmを超える腫瘍が1つある
血管侵襲を伴い、最大径が2cmを超える腫瘍が1つ、または最大径が5cm以下の腫瘍が2つ以上ある最大径が5cmを超える腫瘍が2つ以上ある門脈もしくは肝静脈が枝分かれしている部分を含み、胆嚢以外の横隔膜を含む隣接臓器に直接浸潤する腫瘍、または臓側腹膜を貫通する腫瘍がある
N分類N0N1N3
肝細胞癌(原発性肝癌取扱規約第6版)リンパ節転移なしリンパ節転移がある
肝細胞癌(UICC8版)領域リンパ節への転移がある
M分類M0M1
肝細胞癌(原発性肝癌取扱規約第6版)遠隔転移なし遠隔転移あり
肝細胞癌(UICC8版)
                                  原発性肝癌取扱規約6版とUICC8版を参考に作成
原発性肝癌取扱規約6版N0N1M1
T1ⅣAⅣB
T2ⅣAⅣB
T3ⅣAⅣB
T4ⅣAⅣAⅣB
原発性肝癌取扱規約6版を参考に作成
UICC8版N0N1M1
T1aⅠAⅣAⅣB
T1bⅠBⅣAⅣB
T2ⅣAⅣB
T3ⅢAⅣAⅣB
T4ⅢBⅣAⅣB
UICC8版を参考に作成

ちなみに、肝細胞癌の治療やけど、肝臓の予備機能を判定するchild-Pugh分類ってのがあって、これを参考に切除、塞栓療法、化学療法、肝移植などが決められるで。

簡単に説明するとChild-Pugh分類はA、B、Cがあって、Cだと肝移植の可否のレベルになんねん。かなり進行していて肝予備機能も少ない状態って事やな。Aの方が予備機能が多いで。同じような指標として、肝障害度というのもあるで。これもA~Cに分類されてCが一番肝機能が少ない状態のことになるんや。

まぁ画像診断とはあまり関係があらへんけど、参考までに知っておいてもええかなと思うわ。

画像所見

肝癌の画像所見

さて画像診断についてレクチャーしてくで。

肝癌の概要の表で確認したとおり、基本的に肝細胞癌は多血性なんや。せやから肝実質が濃染される前に腫瘍が染まってくるで。対して門脈血流は少ないから後期相(平衡相)では、あまり染まらんねん。その一方で周囲の肝実質は染まってくるから、抜けたような画像(wash out)になんねん。典型的な画像所見は早期濃染からのWash outやで。

病変の大きさや分化度によって早期相の画像所見は違ってくるけど、後期相で抜けた画像を認めた時はHCC(early HCC含む)を鑑別診断にあげておくべきや。この辺の大まかな画像診断のチェックポイントを記載しておくで。

肝細胞癌の画像所見
・早期濃染かつモザイク状の構造を確認する事が多い(モザイク状の構造は隔壁や被膜)
・後期相では濃染せず低吸収域として描出(Wash out)され、リング状の造影効果を認める事もある
・肝細胞癌の脂肪化は3cm以下のHCCで半数に見られるためMRIで脂肪の有無の判断は重要
・脈管浸潤は門脈浸潤が20%、肝静脈浸潤が9%、胆管浸潤が3%程度というデータがある
・2cm以下の小肝細胞癌(早期肝細胞癌)では腫瘍内部に門脈域(正常な動脈、門脈)が残存しているために、肝動脈や門脈が同程度、もしくは門脈優位の血行動態を示す場合もある
・病変の悪性度が高まると門脈血流は次第に減少して中分化、低分化では完全に欠損する
・門脈血流が減少し始める時期はhigh grade DNあたりだと考えられている

EOB・プリモビスト造影剤

HCCの中には血流動態が変化せーへんパターンもあるんや。正確には血流動態が変化する前段階の状態の癌やな。これは従来やと検出が難しかってん。そりゃそうやな。画像上は正常パターンと同じ血流動態やからな。でもMRIの造影剤でプリモビストが出てきて、これも検出できるようになったんやで。

従来の造影剤は血流動態をDynamic画像で見て診断しているのに対して、プリモビストはDynamicに加えて、正常な肝細胞に取り込まれる仕組み(正常ではない部分には取り込まれない)も利用してんねん。せやから造影後20分(肝細胞層)を撮影して造影効果の有無を確認する事で、診断の参考にしているんや。癌によって肝細胞が消失してると染まらへんねん。Dynamicで血流動態を確認して、肝細胞層で取り込み具合を確認する。つまり見ているのが血流だけや無いんやな。プリモビストにおけるHCCの造影パターンとしては、肝動脈相だけで染まって、それ以降は黒く抜けるような画像になるで。これも覚えておくべき事や。

「早期濃染→wash out→肝細胞層でも染まらない」 これが典型的なHCCのパターンやで。

ほな、実際の画像を見ていこか。

実際の症例

70代男性で、DM(糖尿病)治療中にHbA1cが悪化してきて膵臓の精査で検査して見つかった症例や。S7に分葉状かつ早期濃染とWash outされる腫瘤を認める事が出来ると思う。大きさは2.5cm程度や。脈管への浸潤は認めてへん。

腹部CT-肝細胞癌
左上から横に単純、肝動脈相、左下から門脈層、平衡相

こっちは50代男性で腹部USで多発肝嚢胞、腎腫瘤疑いでCT検査となった例や。S6に早期濃染される3cm大のモザイク状の腫瘤を認めるで。最終的にHCCと診断されてるわ。

腹部CT-肝細胞癌
左上から単純、肝動脈相、左下から門脈層、平衡相
腹部CT-肝細胞癌
左上から単純、肝動脈相、左下から門脈層、平衡相

80代女性でUSで肝臓に腫瘤疑いとなって精査MRIを実施した例や。In-phase、Opposed-phaseでS7の腫瘤の一部に脂肪成分を認めて、早期濃染とWash outを呈してるのが分かると思う。

ちなみに、大きな腫瘤の脇にもう1個HCCを認めるで。これは早期相では濃染されてなくて、後期相(肝細胞相)で確認出来ると思う。

腹部MRI-肝細胞癌
上段がIn-Oppsed phaseで下段がT2WI、T2FS
腹部MRI-肝細胞癌
Dynamic画像(プリモビスト)

ちなみに、原発性肝癌はFDG-PETでは集積せーへんで。この症例はS8にHCCがあんねんけど、左側のFDG-PETでは該当箇所に集積は認めへん。

ただこれが転移性肝癌になると高集積になんねん。これは分化度の違いや。高分化の場合はグルコース脱リン酸化酵素活性が高いから集積が低いねん。一方で低分化型の場合は逆で高集積なんや。これは頭のどこかに入れておいてもええ知識やで。

腹部MRIとFDG-PET-肝細胞癌
左がFDG-PET画像、右がMRI(プリモビスト)画像

鑑別診断のポイント

主な鑑別疾患

さて、次は鑑別診断についてやな。肝臓については様々なパターンがあんねん。

その中でもHCCとの鑑別が必要そうなパターンを下にまとめておいたで。所見別とその代表的な鑑別疾患を挙げておいたから覚えておくとええで。

主な鑑別疾患
多血性肝腫瘤focal nodular hyperplasia:FNH、肝血管腫、多血性肝転移、肝膿瘍(初期)、acute myelocytic leukemia:AML、Budd-Chiari症候群 など
多血性偽病変Dynamicの動脈相で腫瘍が存在しないのに濃染を認める現象をtransient hepatic attenuation difference:THADと呼んでいる
門脈塞栓などでの区域性の肝動脈血流変化によるもの
リング状増強効果転移性肝癌、肝膿瘍など
亜急性期の血腫や炎症によるものと、転移性腫瘍によるものがある
遅延性濃染大腸癌や膵島腫瘍などの転移性腫瘍、胆管細胞癌、類上皮性血管内皮腫、血管腫、肝紫斑病、進行した肝硬変、炎症性偽腫瘍など

S8の肝膿瘍の症例や。拡散強調画像で高信号なのが特徴的やな。

腹部MRI-肝膿瘍
左上段からT2FS、拡散強調、下段が造影画像

こっちは肝血管腫。S3に早期相で辺縁に結節状の濃染域を認めて、徐々に中心部に広がっていくのが分かると思う。後期相も遷延する造影効果があるな。典型的な血管腫の濃染パターンや。

他には2cm以下の小さな腫瘤やと、最初から全体に濃染して門脈相、後期相まで遷延して血管内腔と等吸収になるパターンもあるで。覚えておきや。

腹部CT-肝血管腫
左上から単純、肝動脈相、右下から門脈層、平衡相

その他の肝疾患については下記を参考にしてくれや。特に急性肝炎のperiportal coller signなんかは有名やで。覚えておいて損はないで。

肝臓付近の臓器の悪性腫瘍はこっちで話してるで。

まとめ

今日は肝癌(肝細胞癌)についてレクチャーしたで。ポイントは3つ。

沈黙の臓器と言われてて、初期は自覚症状がほとんどない

低分化になるに従って多血性(動脈優位)で門脈からの栄養が無くなる

つまりHCCは早期濃染とWash outが典型的なパターン!

他にも色々あんねんけど、ポイントを絞るとしたらこんな感じやな。肝臓は検査する頻度も多いやろから覚えてとき。

ちなみに、ワシが学生の頃に感じたのは、肝臓は栄養血管が複雑で理解するのが難しかった記憶があるで。1番混乱したのが門脈からも栄養されてるって事や。門脈って静脈やん?栄養は動脈だけちゃうんかい的な。

まぁワシが混乱した話しはおいといて、肝臓は悪性腫瘍以外にも急性肝炎の特異的な所見のperiportal coller signなんかもあるで。覚える事はまだまだ沢山あるっちゅー事や。

さて、今日はこれくらいにしとこか。

ほな、精進しいやー!