肺癌(lung cancer)

最近、禁煙エリアが増えたよな。

そうですね。2018年に健康増進法が改正されましたからね。

肺癌(lung cancer)とは

喫煙者のダチが嘆いてたわ。肩身が狭いってな。

ちなみに今の感覚からすると信じられへんかもしれんが、昭和の頃はどこでも喫煙出来たんやで。電車や飛行機の中でも吸えたし、病院の中でも吸えた時代があってん。ワシの小さい頃なんて、町の開業医やと診察室に灰皿とかあったもんな。今からすると信じられへんやろ?

肺癌の概要

ってな訳で今日は、喫煙と関連が深い肺癌についてレクチャーしてくで。

肺癌と一言で言っても色んな種類の肺癌があるのは知ってるか?大きく分けて非小細胞癌に分類される「腺癌」、「扁平上皮癌」、「大細胞癌」の3つと「小細胞癌」の4種類の組織型が基本や。

腺癌には各々の特徴は次の通りや。

肺癌分類
組織分類概要
腺癌(非小細胞癌)・肺癌の中で60%程度で最も最多で増加傾向にある
・肺の末梢に発生し非喫煙者でも罹患し、女性肺癌の7割は腺癌である
・亜分類で置換型腺癌、腺房型腺癌、乳頭型腺癌、充実型腺癌などがある
扁平上皮癌(非小細胞癌)・肺癌の中で30%で喫煙と関連が高い
・主気管支、葉気管支に発生する
・亜型として角化型扁平上皮癌、非角化型扁平上皮癌、類基底細胞型扁平上皮癌がある
大細胞癌(非小細胞癌)・肺癌の中で5%程度 進行が早く化学療法や放射線治療が効きにくい 
小細胞癌・肺癌の中で15%程度を占め、浸潤や転移のスピードが早い
・化学療法や放射線治療が効きやすいという特徴がある
・亜型として小細胞癌、大細胞神経内分泌癌、カルチノイドがある

発生する場所は、腺癌や大細胞癌は肺野、扁平上皮癌は肺門、神経内分泌腫瘍(小細胞癌)は肺門、肺野共に発生するで。CT検診の普及に伴って腺癌の早期発見パターンが多くなってきてるで。

肺の解剖と役割

次に肺の解剖やで。この辺りはもう知ってると思うからサラッとおさらいする程度にするで。

  • 右肺はmajor fissure(大葉間裂)とminor fissure(小葉間裂)で3葉に分かれている
  • 左肺はmajor fissureで2葉に分かれている
  • 各々S1~S10まで肺区域が分かれているが、左肺はS7が無い

この肺区域は超重要やから、まだ覚えてへん人がおったらこれを機に覚えておくんやで。区域を覚えるのに「ブロンコ体操」なるものがあんねん。1度Youtubeなんかで確認しとくとええで。意外と覚えやすいわ。詳細な区域はネットで検索してみてーな。すぐ出てくるで。

肺の解剖

肺の役割は次の2つや。

  1. 呼吸によって取り込まれた酸素を体内に取り込む
  2. 体内の二酸化炭素を肺胞で交換して排出する

何で体内に酸素が必要かって話しやけど、酸素は細胞内のミトコンドリアで有機物を分解する時に使われんねん。この分解の時にエネルギーが発生して、このエネルギーが体を動かす時の原動力になんねんな。つまり酸素があらへんとエネルギーが出来ひん訳や。

詳しくはATP(アデノシン3リン酸)とかなんやけど、まぁそこまではええやろ。

肺の解剖

解剖については、もうちょい詳しく話した内容があるから、そっちも確認しておいてや。こっちでは、CT画像上での肺区域の見分け方や縦隔リンパ節についても話してるで。

肺癌の原因

次に肺癌の原因やけど、これは何と言っても喫煙や。肺癌の60~70%は喫煙が原因とも言われてるんや。

非喫煙者とのリスク比較やと、男性で4.5倍、女性で4.2倍もの違いがあんねん。これは国立がん研究センターの多目的コホート研究(中年期男女における喫煙と組織型別肺がん罹患との関連)の結果なんやで。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11979440/

この中で喫煙指数というのがあって、喫煙年数×1日の喫煙本数で計算されるんやけど、これが増えるほど肺癌の発生率が増加する事が分かってん。600以上で肺癌の高度危険群、1200以上やと非喫煙者と比較して6.4倍も肺癌になりやすいらしいで。

肺癌の治療方法

肺癌の治療方法は組織分類によって次のようになってるで。

  • 非小細胞癌 Stage2までとStage3の一部は手術よる切除術、それ以降のStage3は化学療法と放射線治療、Stage4は化学療法
  • 小細胞癌 化学療法中心

小細胞癌は増殖スピードが速いから発見時にはリンパ節転移している事が多いねん。せやから化学療法の選択肢になるんやけど、一方で化学療法が効きやすいという特徴もあんねん。

もちろん小細胞癌でも限局した早期癌で手術可能と判断されれば手術が選択される事もあるで。

ただ専門医じゃない限り、これ以上の詳細までは知る必要はあらへん。技師はんなら特にな。

肺癌の5年生存率

次に肺癌の5年生存率や。国立がん研究センターのデータを元にしてるで。

こう見ると他の癌と比較して全体的に5年生存率が低いのと小細胞肺癌のデータが極端に悪いのが分かるな。理由としては、小細胞肺癌は増殖が早くて発見された時にはかなりステージが進行してる事が多いからなんやけど、1年前の検診では異常なしで今年はステージ4なんてのもザラにあるで。

Ⅰ期Ⅱ期III期IV期
肺癌全体73%46%25%6%
小細胞肺癌38%27%16%2%
非小細胞肺癌74%48%27%7%
国立がん研究センター 院内がん登録生存率集計結果閲覧システムより

肺癌のTNM分類

次に肺癌のTNM分類についてや。表にしといたから確認してみてや。日本肺癌学会編 肺癌取り扱い規約第8版補訂版を参考に作成してあるで。

T分類TisT1T2T3T4
上内皮癌 充実成分が0cmかつ大きさが3cm以下充実成分が3cm以下 T1mi:微小浸潤性腺癌で充実成分が0.5cm以下かつ大きさが3cm以下
T1a:充実成分が1cm以下でT1miやTisに該当しない
T1b:充実成分が1cm以上2cm以下
T1c:充実成分が2cm以上3cm以下
充実成分が3cm以上5cm以下、または充実成分が3cm以下でも主気管支浸潤、臓側胸膜浸潤、肺門まで連続する部分的または片側全体の無気肺、もしくは閉塞性肺炎
T2a:充実成分が3cm以上4cm以下
T2b:充実成分が4cm以上5cm以下
充実成分が5cm以上7cm以下、または臓側胸膜、胸壁、横隔神経、心膜のいずれかに浸潤がある、もしくは同一肺葉内の不連続な腫瘍充実成分が7cm以上、または横隔膜、縦隔、心臓、大血管、気管、反回神経、食道、椎体、気管分岐部のへ浸潤、同側の違う肺葉内での腫瘍
N分類N0N1N2N3
リンパ節転移なし同側気管周囲、肺門、肺内リンパ節転移で原発腫瘍の直接浸潤を含める同側縦隔リンパ節転移、気管分岐下リンパ節転移対側縦隔、肺門、鎖骨上リンパ節転移
M分類M0M1
遠隔転移なしM1a:対側肺内の腫瘍、胸膜転移、心膜転移、悪性胸水や悪性心嚢水
M1b:肺以外への1臓器への転移 M1c:肺以外の1つの臓器または複数への多発転移
肺癌取扱規約第8版補正版を参考に作成

次にステージ分類や。これも日本肺癌学会編 肺癌取り扱い規約第8版補訂版を参考に作成してあるで。

N0N1N2N3M1aM1bM1c
T1miⅠA1      
T1aⅠA1ⅡBⅢAⅢBⅣAⅣAⅣB
T1bⅠA2ⅡBⅢAⅢBⅣAⅣAⅣB
T1cⅠA3ⅡBⅢAⅢBⅣAⅣAⅣB
T2aⅠBⅡBⅢAⅢBⅣAⅣAⅣB
T2bⅡAⅡBⅢAⅢBⅣAⅣAⅣB
T3ⅡBⅢAⅢBⅢCⅣAⅣAⅣB
T4ⅢAⅢAⅢBⅢCⅣAⅣAⅣB
肺癌取扱規約第8版補正版を参考に作成

以上が肺癌についての基本的な概要や。

画像所見

肺癌の画像所見

肺癌の診断には次のような項目をチェックする必要があるんや。

【肺腫瘍(異常陰影)のチェック項目】

  • 腫瘍の大きさ → 大きいど悪性の可能性が高い
  • 増大(成長)スピード → 増大(倍加)スピードが速いと悪性の可能性が高い
  • 石灰化の有無 → 悪性病変の他に、結核や過誤腫などが鑑別
  • 辺縁の形状 → 分葉状やスピキュラなど
  • 造影効果の有無 → 肺癌(扁平上皮癌や小細胞癌)の他に膿瘍などでも造影効果を認める事がある
  • すりガラス陰影や充実成分の有無 → pure GGN、part-solid nodule、solid noduleなど

その中で肺癌に特徴的な画像所見は次のようなものがあるで。

【辺縁や内部性状】

  • スピキュラ → 腫瘍の辺縁が棘状で周囲への肺癌の浸潤を示唆する所見
  • ノッチ → 分葉状の腫瘍のくぼみの部分で、増殖の早い小細胞癌、大細胞癌、低分化腺癌に見られるが非特異的所見でもある
  • 気管支透亮像(air bronchogram) → 肺腺癌の他に器質化肺炎でも見られる
  • 胸膜嵌入像 → 肺腺癌癌に特有と言われているが、炎症性変化でも見られる事がある
  • 肺静脈巻き込み → 肺癌の可能性がある
  • 空洞化 → 肺癌の他に結核や真菌症の鑑別が必要になる事がある
  • 脂肪組織の有無 → 脂肪組織を認めると過誤腫の可能性が高い
  • 石灰化の有無 → ポップコーン状の石灰化は過誤腫の可能性がある(ただし頻度は少ない)
  • 造影効果の有無 → 造影効果を認めると肺癌(扁平上皮癌)の可能性があるが、カルチノイドや膿瘍が鑑別にあがる

これらの項目を確認して、総合的に診断するんやで。

組織型別の画像所見

ちなみに組織型別での所見の特徴はこんな感じや。

分類画像所見
小細胞癌・抹消型は境界明瞭な腫瘤で、内部は均一な軟部組織と同等、周囲に対して圧排性に進展する
・中枢型は気管支壁肥厚や粘膜下から気管支壁外を主体に腫瘤形成し、リンパ節転移と一塊になっている事も多い
腺癌・肺腺癌のCT所見を参照
扁平上皮癌(SCC)・充実性で圧排性に進展、境界明瞭で分葉状の腫瘤
・スピキュラや胸膜陥入も認めることがある
・局所浸潤傾向が強く腫瘍内に壊死を形成しやすく空洞化を認める事もある
大細胞癌・末梢に多く発生し、境界明瞭な分葉状の充実性腫瘤
・石灰化を10%程度で認める
・不均一な造影効果や内部に壊死を伴う事もある
肺腺癌の分類
肺腺癌の分類CT所見
前浸潤性病変(preinvasive lesion)・異型腺腫様過形成
(Atypical adenomatous hyoerplasia:AAH)
5mm以下のpure GGN
・上内皮腺癌
(Adenocarcinoma in situ:AIS)
3cm以下のpure GGN
微少浸潤癌
(Minimally invasive adenocarcinoma:MIA)
3cm以下のpart solid noduleで充実部分が5mm以下
浸潤癌(invasive adenocarcinoma)・置換型(lepidic pattern)3cm以上のpart solid noduleで充実部が5mm以上
・腺房型(acinar pattern)
・乳頭型(papillay pattern)
・微少乳頭型(micropapillary pattern)
・充実型(solid pattern)
その他の浸潤癌(Variants)・浸潤性粘液性腺癌、コロイド腺癌、胎児型腺癌、腸型腺癌

実際の症例

70代 男性 検診精査

続いて実際の画像や。70代男性で検診精査となって小細胞癌の診断となった例や。右の肺門に病変があるのが分かると思うで。

胸部CT-小細胞癌
胸部CT-小細胞癌


70代 男性 検診精査

70代男性で検診精査でSCCの診断となった例や。右肺下葉に不整に造影される大きな腫瘤を認められるな。

胸部CT-扁平上皮癌
胸部CT-扁平上皮癌

60代 女性 AIS

60代女性でAISの診断となった例や。右上葉に1.6cm大のpure GGNを認めるで。本人希望にて手術してAISの診断や。

胸部CT-AIS
60代 男性 MIA
胸部CT-MIA

参考画像 肺癌の画像所見

参考までに辺縁不整、胸膜陥入の例と胸膜陥入に加えて気管支透亮像の例や。いずれも最終的に肺癌の診断となった例やで。こんな所見を見たら要注意や。

胸部CT-胸膜陥入
辺縁不整+胸膜陥入
胸部CT-胸膜陥入+気管透亮像
胸膜陥入+気管透亮像

鑑別診断のポイント

過誤腫

鑑別診断も重要や。肺の良性腫瘍の中で1番頻度が高いのが過誤腫(hamartoma)や。肺の良性腫瘍の70%程度を占めるで。過誤腫の特徴は下記の通りや。

【過誤腫 概要】

  • 中年に好発し男性に多い
  • 単発がほとんどだが、多発する事もある
  • 肺野末梢に多く、類円形や分葉状の腫瘤
  • 石灰化は20%に認め、ポップコーン状石灰化は特徴的な所見
  • 腫瘍内に脂肪成分を確認できれば診断に有効
  • 10cm以上に増大する事もある
  • 石灰化=過誤腫にはならない点に注意する
胸部CT-過誤腫

肺内リンパ節(管)

次は肺内リンパ節についてや。時に肺癌との鑑別が問題になる事があるで。

  • 末梢肺野の肺内リンパ節
  • CTの高解像像度化によって見つかるようになった
  • ほとんどが10mm以下
  • 中下葉の胸膜直下付近に多く認める
  • 円形や多角形の形状の事が多い
  • 基本的に無症状で診断が確定されれば放置でも問題ない
  • 時に肺転移との鑑別が問題になる事がある
50代 女性 検診精査
肺内リンパ節

その後、数年間変化なし

他の呼吸器系の悪性腫瘍

他の呼吸器系の悪性腫瘍についてはこっちを参照しておいてくれや。

まとめ

今日は肺癌についてレクチャーしたで。ポイントは3つや。

喫煙が1番のリスクファクターで、扁平上皮癌の原因のほとんどが喫煙

小細胞癌は進行は早く1年のインターバルで進行癌として発見される事もしばしば。一方で化学療法や放射線治療が有効な事も多い

辺縁の性状、胸膜陥入像、スピキュラ、ノッチ、肺静脈捲込み、空洞化、造影効果などがあったら肺癌の可能性がある

こんな感じや。肺癌を疑う所見はいくつかあるからな。ちゃんと覚えとくんやで。背景に肺気腫やったり肺炎があったりすると診断が難しい事があるからな。色んな症例を見て勉強しておくんやで。

桑さん:ほな、精進しいやー!