悪性中皮腫(malignant pleural mesothelioma)

アスベストって知ってるか?

名前は聞いた事があります。でも詳しくは知りませんね。

アスベストは石綿とも呼ばれてるんやけど、天然繊維状けい酸塩鉱物って呼ばれてて、線維がメチャ細いねん。昔は断熱材なんかに普通に使われてたんやで。

ほんで厄介な事にアスベストは発癌性物質も含んでんねんな。これを呼吸などで吸い込む事で、肺内にアスベストが滞留してアスベストが線維化して肺癌、悪性胸膜中皮腫の原因の1つになる事が分かってるんや。特に悪性胸膜中皮腫は関係性が強いと言われてるで。

こういった背景があって2006年から法律で使用が全面的に禁止されてんねんけど、以前、特に1975年より前は普通に使用された過去があんねん。せやからワシが医者になったばかりの頃は石綿肺(アスベスト肺)の患者さんを良く見たもんや。でも最近はほとんど見なくなっててんけど、それが昨日かな、久しぶりに石綿肺と思われる症例があってな。今の若い子は知ってるのかと思って聞いてみたんよ。

せや、今日は悪性胸膜中皮腫についてレクチャーしてこか。そうしよ!

悪性胸膜中皮腫(malignant pleural mesothelioma)とは

悪性胸膜中皮腫(malignant pleural mesothelioma)の概要

まず悪性胸膜中皮腫とはどんな病気かを話していくで。悪性胸膜中皮腫は胸膜の表面にある中皮細胞から発生する腫瘍なんや。組織型によって上皮型、肉腫型、二相型に分類されるで。肉腫の亜型として組織線維型というのもあるわ。

ちなみに悪性中皮腫は胸膜だけやなくて、腹膜からも発生するものの総称や。胸膜に発生するのを悪性胸膜中皮腫、腹膜に発生するのを悪性腹膜中皮腫、心膜に発生するのを悪性心膜中皮腫と呼ぶねん。胸膜が最多で肉腫型が1番予後が悪いで。

悪性中皮腫分類

この中で今回のお題でもある悪性中皮腫は、男性に多くて年齢は50~70歳に見られるで。前述した通りアスベストには発癌性物質が入ってて、これを呼吸などで取り込む事を石綿曝露って呼んでんねん。ほんで石綿曝露から20~50年の潜伏期を経て発症するんや。せやから昔アスベスト関連で仕事してた人で潜伏期を経過した人、つまり男性高齢者がもっとも多いねん。ちなみに低曝露でも発症するで。以下は悪性胸膜中皮腫の大まかな概要や。ちなみに悪性胸膜中皮腫は抗がん剤(化学療法)、放射線治療、外科的治療のいずれも有効性は低いと言われてんねん。

概要
悪性胸膜中皮腫・胸膜の中皮細胞から発症する
・石綿曝露と相関が高く、20~50年の潜伏期を経て発症する
・男性、50~70代に多い
・上皮型、2相型、肉腫型の3つに組織分類され、肉腫型の亜型で線維形成型もある
・予後不良だが、その中でも上皮型、2相型、肉腫型の順に予後が悪くなる
・胸水を合併する事も多い
・臨床症状は息切れや胸痛など

胸膜の解剖と役割

次に胸膜の解剖やけど、これは今更言わんでも分かるやろ。下の図の通りや。胸膜の役割としては、肺側膜と臓側膜の間、つまり胸膜腔に液体(胸水)があるんやけど、この液体が肺が膨らむ時の潤滑油として機能してんねん。

つまりこの潤滑油があるおかげてスムーズに呼吸が出来んねんで。ここに何かしらの原因で炎症が起きたりすると水が溜まって胸水になったり、外傷などで空気が入ったりすると気胸になんねん。

胸膜解剖

悪性胸膜中皮腫の原因と治癒率

悪性胸膜中皮腫の原因はアスベストや。この石綿曝露があるか無いかで全然発症率はちゃうで。もちろん石綿曝露がある方が発症率は高いで。

治癒率やけど、かなりの予後不良や。色々な数字が出てるけど、総じて予後は12ヶ月程度のデータが多いな。2年生存率は30%程度、5年生存率は4%程度というデータもあるで。理由としては、特徴的な臨床症状が無い事から発見時には進行している事が多い為と言われてるな。

悪性胸膜中皮腫のTNM分類

悪性胸膜中皮腫のTNM分類とステージ分類や。これはUICC-TNM分類ver8に沿って作成してあるで。

T分類T1T2T3T4
同側胸膜(壁側または臓側胸膜)に腫瘍が限局(縦隔胸膜、横隔膜含む)している同側胸膜(壁側または臓側胸膜)に腫瘍があり、横隔膜筋層浸潤、肺実質浸潤がある同側胸膜(壁側または臓側胸膜)に腫瘍があり、胸内筋膜浸潤、縦隔脂肪織浸潤、胸壁軟部組織の孤在性腫瘍、非貫通性心膜浸潤のいずれかが認められる同側胸膜(壁側または臓側胸膜)に腫瘍があり、胸壁(肋骨破壊の有無は問わない)への浸潤、経横隔膜的腹膜浸潤、対側胸膜浸潤、縦隔臓器浸潤、脊椎や脊髄(神経孔)への浸潤、貫通性心膜浸潤のいずれかが認められる
N分類N0N1N2N3
リンパ節転移なし同側胸腔内リンパ節転移(肺門、気管支周囲、気管分岐部、内胸など)対側胸腔内リンパ節転移、同側または対側鎖骨上窩リンパ節転移
M分類M0M1
遠隔転移なし遠隔転移あり
UICC-TNM分類ver8を参考に作成
N0 N1N2M
T1ⅠAⅢB
T2ⅠBⅢB
T3ⅠBⅢAⅢB
T4ⅢBⅢBⅢB
UICC-TNM分類ver8を参考に作成

画像所見

悪性胸膜中皮腫の画像所見

さて、悪性胸膜中皮腫の画像所見についてや。単純写真、CT別での所見は以下の通りやで。

画像所見
悪性胸膜中皮腫【単純写真】
 片側性胸水 びまん性の胸膜肥厚、患側胸郭容積減少など
【CT】
 片側胸水、不整ないし結節状の胸膜肥厚、1cmを超える胸膜肥厚、縦隔側胸膜肥厚、環状胸膜肥厚、胸膜プラークを伴う事もある

次からは実際の画像を見ていくで。

実際の症例

60代男性でアスベスト暴露歴ありの人や。左胸膜の肥厚が確認出来ると思うで。FDG-PETも実施してたから合わせて載せておくわ。左胸膜肥厚と腋窩リンパ節に転移を認めるな。

胸部CT-悪性中皮腫
FDG-PET-悪性中皮腫
下段左画像のみFDG-PET

70代女性。胸水穿刺で悪性胸膜中皮腫の診断となった例や。左胸膜の肥厚と胸水を認めるな。

胸部CT-悪性中皮腫
FDG-PET-悪性中皮腫
下段左画像のみFDG-PET

こっちは60代女性の例や。右胸膜の肥厚と胸水を認めるで。FDG-PETやと胸膜肥厚に一致して集積を認めると思うわ。なんとなくでも画像のイメージが涌いてくれたらOKや。

FDG-PET-悪性中皮腫
下段右画像のみFDG-PET

鑑別診断のポイント

びまん性胸膜肥厚

悪性胸膜中皮腫と鑑別を要する疾患を話していくで。これはびまん性胸膜肥厚を呈する疾患やな。具体的には、偽中皮腫様肺腺癌、癌性胸膜炎、結核性胸膜炎、線維性胸膜炎などや。偽中皮腫様肺腺癌は悪性胸膜中皮腫と所見が酷似しているんや。画像上やと鑑別が難しい場合も多いで。他に鑑別を要する疾患としては胸膜播種などがあるわ。

呼吸器関連だと肺癌もあるから、合わせて確認しておいてもらえるとええで。

他に炎症系の疾患もあるで。

まとめ

今日は悪性胸膜中皮腫についてレクチャーしたで。ポイントは1つだけや。

アスベスト曝露歴があり1cm以上の胸膜肥厚は悪性胸膜中皮腫を疑う

これやな。とにかくアスベスト(石綿)曝露が関係してんねん。高濃度曝露だけやなくて、低濃度曝露でも発症する場合がある事を覚えとき。

2006年に完全に使用が禁止されたということは、長くても2050年くらいまではアスベストが原因の悪性胸膜中皮腫が発症する可能性があるって事ですよね。

せやな。職業性曝露だけやなくて、低濃度曝露でも発症するってのが厄介やな。アスベストの他にも今では危険性が判明しているものでも、昔は普通に使われていた者もあるんやろな。水銀とかオゾンとか。

ただ、ワシらが今やらなアカンのはこうやって症例の経験を積んで検査の時に正確に診断が出来る画像を撮る、読影する事や。日々の積み重ねなんやで!

ほな、精進しいやー!