卵巣癌(ovarian cancer)

今日は女性特有の病気、卵巣癌について話していくで。

卵巣関連もMRIで検査する事が多いですからね。しっかり学んでおきたいと思います!

ちなみにHBOCって聞いた事あるか?HBOCってのは「遺伝性乳癌卵巣癌症候群、Hereditary Breast and Ovarian Cancer syndrome」の事や。簡単に言うと、BRCAとBRCA1とBRCA2という遺伝子があって、ここに病的変異があると将来的に乳癌や卵巣癌に罹患する確率が高い事が分かってんねん。ほんでこの2つの遺伝子の変異を持つ人の事をHBOCって呼んでんねん。

乳癌を発症するリスクは、一般の人が約10%に対してBRCA1に変異がある場合は72%、BRCA2に変異がある場合は69%、卵巣癌の場合は一般が1.6%に対してBRCA1が44%、BRCA2が17%とも言われてんねん。卵巣癌と診断された100人中20人程度がこの遺伝子変異を持ってたとうデータもあるで。

Risks of Breast, Ovarian, and Contralateral Breast Cancer for BRCA1 and BRCA2 Mutation Carriers(PubMed)

ちなみに親のどちらかがBRCA遺伝子に変異がある場合、その子供は性別に関係無く50%の確率で遺伝する事も分かってんねん。乳癌診療やってると必ず家族歴を聞くやん?それはこれを確認してんねんで。

ちょっと前にアンジェリーナジョリーが予防的に乳腺や卵巣を切除して話題になったやん?あれはBRCA1に変異があるのが分かったからなんやで。まぁアメリカやから出来たんであって、日本やと正常組織を予防目的で切除するってのは難しいと思うけどな。

ちょっと話しがズレたわ。そろそろ本題にいくで。

卵巣癌(ovarian cancer)とは

卵巣癌の概要

まずは卵巣癌の概要についてや。

卵巣癌は近年増加傾向にある癌なんや。2014年では約1万人が新規で罹患してて、女性生殖器悪性腫瘍の中で最も死亡者数の多い癌でもあるんや。初期臨床症状はあらへんくて、症状が出てきた時には進行癌の状態で発見される事も死亡者数が多い原因の1つやな。上皮性腫瘍が最も多くて、その中でも組織型は大きく7つに分類されてるで。概要は以下の通りや。

概要
・近年増加傾向にある癌で40代から増加し60代でピークになる
・閉経後に発症する傾向が強い
・原因は食生活の欧米化や肥満、ホルモン療法、子宮内膜症や多嚢胞性卵巣症候群、遺伝的影響(HBOC)など
・HBOCは50%の確率で子供にも遺伝する事が知られている
・初期段階での症状はなく進行した状態で見つかる場合も多い
・癌が発生する場所によって上皮性腫瘍(90%)、性索間質性腫瘍(5%)、胚細胞腫瘍(4%)の3つに分類され、その中でも良性、境界悪性、悪性の3つに分類される
・上皮性腫瘍の多くは中年~高齢者に好発するが、粘液性癌は若年層にも発症する事がある
・胚細胞腫瘍は30代までの若い人が多い
・上皮性腫瘍には漿液性癌、明細胞癌、類内膜癌、粘液性癌、悪性ブレンナー腫瘍、漿液粘液性癌、未分化癌に分類され、漿液性癌が約35%、明細胞癌が25%となっている
・消化器からの転移をクルーケンベルグ腫瘍とも呼ぶ事がある

卵巣の解剖と役割

次に卵巣の解剖についてや。

卵巣は子宮上端の左右に位置する母指頭程度の臓器で左右に1対あって重さは数グラム程度や。表面は漿膜(胚上皮)と白膜に覆われてて、内部は皮質と髄質で構成されてんねんけど、皮質は原始卵胞が、髄質には血管や神経を含む結合組織になってるで。

ちなみに子宮とは固有卵巣索でつなぎ止められてねんけど、子宮と直接繋がってる訳やあらへん。卵巣の近くに卵管の開口部(卵管采)があって、ここから卵子をピックアップして子宮へ送ってんねん。

骨盤の解剖

卵巣の役割は何と言っても卵子の元となる卵細胞を維持、成熟させて卵巣から排出する事や。これを排卵と呼んでて、この時に卵管内で精子と受精すると、子宮へ送られ妊娠という形になんねん。

もうちょっと詳しく言うと、卵巣の内部に多数ある卵胞内に卵細胞が入ってて、卵胞が卵細胞を成熟させ一定の周期で排卵、卵管内で受精し子宮内膜に着床して妊娠という流れになんねんな。ちなみに排卵後の卵胞は黄体に変化してプロゲステロンやエストロゲンを分泌すんねんで。これは受精、着床、妊娠に重要なホルモンになるで。

卵巣癌の原因と治癒率

卵巣癌のリスク因子については、次のようなものが知られてるで。

大きく分けて、内分泌的因子、環境的因子、遺伝的因子の3つや。

内分泌的因子は排卵の回数(未妊)やホルモン剤使用が関係してて、排卵回数が多いほどリスクが高くなんねん。理由としては、排卵の時に傷ついた上皮が卵巣内に取り込まれる事で将来的に悪性腫瘍化すると考えられてるからで。

環境的因子は食生活や喫煙、肥満などやな。

遺伝的因子はHBOC(BRCA1/2)の人や。HBOCの人が将来的に卵巣癌に罹患する確率は10~30倍も違ってくんねんで。

卵巣癌の治癒率(5年生存率)については国立がん研究センターの2015年のデータから下記のように出てるで。初期で見つかれば十分治癒可能なんやけど、問題は症状がほとんどあらへんという事や。進行癌の状態で見つかるケースも多いで。

卵巣癌(5年生存率)Ⅰ期:91.0% Ⅱ期:77.7% Ⅲ期:47.3% Ⅳ期:27.2%

卵巣癌のTNM分類

卵巣癌も子宮癌と同様にFIGO分類ってのが使われてるで。ちなみにFIGOはThe International Federation og Gynecology and Obstetoricsの頭文字をとったものや。下の表はFIGO2014を参考に作成してるで。

FIGO2014
Ⅰ期:卵巣あるいは卵管内限局発育
 ⅠA期:腫瘍が片側の卵巣(被膜破綻がない)あるいは卵管に限局し、被膜表面への浸潤が認められないもの
     腹水または洗浄液の細胞診にて悪性細胞の認められないもの
 ⅠB期:腫瘍が両側の卵巣(被膜破綻がない)あるいは卵管に限局し、被膜表面への浸潤が認められないもの
     腹水または洗浄液の細胞診にて悪性細胞の認められないもの
 ⅠC期:腫瘍が片側または両側の卵巣あるいは卵管に限局するが、以下のいずれかが認められるもの
  ⅠC1期:手術操作による被膜破綻
  ⅠC2期:自然被膜破綻あるいは被膜表面への浸潤
  ⅠC3期:腹水または腹腔洗浄細胞診に悪性細胞が認められるもの 
Ⅱ期:腫瘍が一側または両側の卵巣あるいは卵管に存在し、さらに骨盤内(小骨盤腔)への進展を認めるもの、あるいは原発性腹膜癌
 ⅡA期:進展ならびに/あるいは転移が子宮ならびに/あるいは卵管ならびに/あるいは卵巣におよぶもの
 ⅡB期:他の骨盤部腹腔内臓器に進展するもの
Ⅲ期:腫瘍が一側または両側の卵巣あるいは卵管に存在し、
   あるいは原発性腹膜癌で、細胞学的あるいは組織学的に確認された骨盤外の腹膜播種ならびに/あるいは後腹膜リンパ節転移を認めるもの
 ⅢA1期:後腹膜リンパ説転移陽性のみを認めるもの(細胞学的あるいは組織学的に確認)
  ⅢA1(ⅰ)期:転移巣最大径10mm以下
  ⅢA1(ⅱ)期:転移巣最大径が10mmを超える
 ⅢA2期:後腹膜リンパ節転移の有無にかかわらず骨盤外に顕微鏡的播種を認めるもの
 ⅢB期:後腹膜リンパ節転移の有無にかかわらず最大径2cm以下の腹腔内播種を認めるもの
 ⅢC期:後腹膜リンパ節転移の有無にかかわらず最大径2cmを超える腹腔内播種を認めるもの
    (実質転移を伴わない肝臓および脾臓への被膜への進展を含む)
Ⅳ期:腹膜播種を除く遠隔転移
 ⅣA期:胸水中に悪性細胞を認める
 ⅣB期:実質転移ならびに腹腔外臓器(鼠径リンパ節ならびに腹腔外リンパ節を含む)に転移を認めるもの
FIGO2014を参考に作成

卵巣癌の概要については以上や。次に画像所見について見ていくで。

画像所見

卵巣癌の画像所見

卵巣癌の画像所見についてや。

卵巣の画像診断のファーストチョイスはUSやと言われてる。理由は空間分解能に優れ内部構造の詳細な評価が可能な事や。ただ腹膜播種などの広い範囲を検査するのは時間がかかって不向きやと言われてるわ。

その次に選択されるのがMRIやで。MRIで鑑別が必要になるのは次の4つで、内膜症性嚢胞、成熟奇形腫、他の良性疾患、悪性腫瘍になるで。

卵巣癌は様々な組織型が存在してて、MRIの画像所見も多岐に渡んねん。せやから、まず分かりやすい内膜症性嚢胞と成熟奇形腫を読影出来るようにするのがええと思うで。内膜性嚢胞は別名チョコレート嚢胞とも呼ばれてて、血液成分を含む事からT1強調で高信号、T2強調で様々な信号になるで。成熟奇形腫は内部に脂肪成分を含む事からT1強調、T2強調共に高信号でT1強調脂肪抑制で信号が低下すれば診断は容易や。

信号強度による画像所見
・T1強調:低信号 T2強調:高信号 ⇒ 尿、胆汁、膵液などの液体成分
・T1強調:高信号 ⇒ 脂肪、血液
・T2低信号 ⇒ 繊維成分(fibroma)、筋腫(変性があると高信号になる事も)、血腫、ヘモジデリンなどの沈殿物
卵巣癌の画像所見
・腫瘍の大きさ(4cm以上)
・両側性
・多房性嚢胞に加え充実部もある
・充実部を主体とする、または充実部に壊死を伴う腫瘤
・充実部は内部に低信号の樹枝状構造を伴うT2強調高信号なら漿液性境界悪性腫瘍を考慮し、T2強調が低信号ならブレンナー腫瘍やクルーケンベルグ腫瘍、粘液性嚢胞性腺癌などを考慮する
・嚢胞性腫瘤で嚢胞壁が3mm以上の場合や、乳頭状の壁在結節を認める場合
・多房性嚢胞は転移の可能性を考慮し、多房になるほど悪性の可能性が高くなる
良性を疑う画像所見
・内膜症性嚢胞を疑うT2強調でのShadingを伴う出血性嚢胞
・脂肪成分の有無(奇形腫を疑う所見)
・線維性腫瘍を示唆するT2強調での強い低信号の充実部

実際の症例

40代女性でUSで両側卵巣腫瘤を認めて精査となった例や。右卵巣由来の大小隔壁がある多房性嚢胞性腫瘍を認めて、造影後に隔壁や腫瘤内の濃染を認めるで。大きさは10cm*7cmや。悪性疑い+子宮浸潤疑いの診断になってるわ。

骨盤MRI-卵巣癌
骨盤MRI-卵巣癌

60代女性でUSで右卵巣に腫瘤疑いで精査となった例や。多房性嚢胞に加えて一部充実性部分も認めて、濃染されるのが確認出来ると思うで。これも精査の結果、卵巣癌と診断されてるで。

骨盤MRI-右卵巣癌
左上から右へ順にT2強調、T1強調、T2脂肪抑制
下段左から拡散強調、ADC、造影後T1の画像
骨盤MRI-右卵巣癌
左がT2脂肪抑制、右が造影後T1画像

50代女性で検診精査の例や。10cm*10cmの隔壁や充実成分を含む不整形の腫瘤があって、造影後には濃染される箇所も確認出来ると思うで。右卵巣由来の卵巣癌と診断されてるで。

骨盤MRI-右卵巣癌
左上からT2強調、T1強調、T2脂肪抑制、2段目左からT1脂肪抑制、拡散強調、ADC
骨盤MRI-右卵巣癌
3上段はT2脂肪抑制の3方向、下段は造影後T1の3方向

鑑別診断のポイント

内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)

鑑別診断やけど、上で話した通り卵巣腫瘍の種類はかなり多いねん。それと比例して多彩な画像所見にもなるんやけど、その中でも頻度の高い疾患で特徴的な所見を呈するものは覚えておくべきや。

次の症例は内膜症性嚢胞、いわゆるチョコレート嚢胞や。

ちなみにチョコレート嚢胞には特徴的なShadeingを認める事があるで。ShadeingってのはT2強調画像で、高信号と低信号が混在する事を言うねん。

骨盤MRI-チョコレート嚢胞
上段左からT2強調、T1強調、T2脂肪抑制
下段左からT1脂肪抑制、拡散強調、T2脂肪抑制矢状断

成熟奇形腫

次の症例は成熟奇形腫や。

T1強調で高信号部分が脂肪抑制画像で低信号になってるのが分かると思うで。これは脂肪成分がある事を意味してんねん。成熟奇形腫は脂肪成分を含むのが特徴の1つやからな。ただ成熟奇形腫は時に悪性転化する場合もある事を知っておくようにな。

骨盤MRI-成熟奇形腫
上段左からT2強調、T1強調、T2脂肪抑制
下段左から拡散強調、T1脂肪抑制、造影後T1

卵巣線維腫

こっちの症例はT2強調で低信号を認める事が出来ると思うで。卵巣線維腺腫の症例や。

骨盤MRI-卵巣線維腫
上段左からT2強調、T1強調、T2脂肪抑制
下段左からT1脂肪抑制、拡散強調、造影後T1

少なくともこの3パターンは覚えておくとええで。

他の婦人科系の悪性腫瘍

他の婦人科系の悪性腫瘍については下記を参考にしてくれや。

まとめ

今日は卵巣癌についてレクチャーしたで。ポイントは3つや。

近年増加傾向で、臨床症状がなく進行癌で発見される事が多い

様々な種類の腫瘍が存在し画像所見も多岐にわたる為、良性病変で特徴的な所見は覚えておく

悪性を疑う所見は、多房性、充実成分の有無、嚢胞内部の乳頭状の病変、大きさ(4cm以上)などがあるため、代表的なものだけでも覚えておく

こんな感じや。とにかく卵巣腫瘍は色んな信号パターンがあんねん。全部を覚えるのは理想やけど最初の内は代表的な所見だけでも覚えておくんやで。

確かに卵巣の検査って色んな信号パターンがあって難しい気がします。

経験を詰めばある程度の読影は出来るようになるで。経験や。

まぁAIが先に読む時代が来るかもしれへんけどな。AIに負けへんように今から準備しとかんとな。AIを使う側になるか、使われる側になるかや。

さて、今日は終わりにするで。

ほな、精進しいやー!