陰茎癌(penile carcinoma)

心臓に癌って出来てるの見た事ある?

無いです。そもそも癌って心臓に出来るんですか?

正確に言うと、癌は出来ひんけど肉腫は出来るんやて。って、ワシも実際に見た事はあらへんのやけどな。頻度としては全身に出来る腫瘍の中で0.1%以下で、その中でも70%は良性腫瘍らしいねん。残りの30%が悪性、つまり肉腫って事になるんやけど、数とすれば10万人中数人ってレベルやな。心筋や血管に出来る腫瘍で軟部肉腫とも呼ばれてるわ。

心臓に出来る悪性腫瘍は他に悪性リンパ腫や転移性悪性腫瘍があるらしいわ。つまり何が言いたいかというと悪性腫瘍ってのは全身どこにでも出来うるって事や。

実は今回の題目でもある陰茎も例外やないんやで。あまり聞かへんけどな。ってな訳で今日は陰茎癌についてレクチャーや!

陰茎癌(penile carcinoma)とは

陰茎癌の概要

今日は陰茎癌についてレクチャーしてくで。

まず陰茎癌は稀な悪性腫瘍に分類されるんや。発生頻度的には10万人中0.5人程度で、男性泌尿生殖器癌の5%以下や。60代以上で多くて発症リスクは、喫煙、ヒトパピローマウイルス(HPV)なんかがあるとされてるで。

好発部位は亀頭部で潰瘍や腫瘤で気づく事が多いで。

以下が陰茎癌の要約や。

概要
・60代以上に増加する男性泌尿生殖器癌
・10万人中0.5人程度で稀な癌に分類される
・喫煙やHPV(16型、18型)が原因とも考えられている
・扁平上皮癌が9割以上で他に基底細胞癌や肉腫など
・高分化型が多く発育はゆっくりな事が多い
・亀頭部が好発部位で潰瘍や腫瘍の自覚で判明する事が多い
・良性腫瘍もあり代表的なものに尖圭コンジローマがあるが、こちらはHPV(6型、11型)の感染が多い
・予後はリンパ節転移の有無で大きく変わるが、炎症性腫大も好発する事もあり生検で確定される
・病期分類はJacson分類、TNM分類がある

以前は包茎との関連性もあると言われていたんやけど、最近では必ずしも関連性があるとは言えへんという説が主流やな。それよりはHPVとの関連の方が強くなってきてるで。つまりはワクチンで予防出来る可能性があるって事やな。

陰茎の解剖と役割

次に解剖や。陰茎は海綿体、尿道、亀頭、包皮の4つの組織から構成されてんねん。陰茎の中にある海綿体は3つあって、左右に1対ある陰茎海綿体と尿道海綿体や。尿道海綿体は先端で大きく膨らんで亀頭を形成してるで。各々の役割は次の通りや。

【海綿体】:静脈洞が密集した組織で性的興奮などが起きると陰茎深静脈から血液が流入、貯留する事で太く、固くなる

【尿道】:腎臓から作られた尿が膀胱に貯留し体外に排出する時に使用する管で、前立腺の位置に精液が合流する精管がありここを切断する事をパイプカットとも言う

【亀頭】:尿道海綿体で構成される組織で、性的興奮時に血液が流入、貯留し大きく膨らむ また皮膚が薄く感覚受容器が発達しているために、射精のために重要な感覚になる

【包皮】:海綿体を覆っている皮膚の事で、亀頭下から陰茎の根本にかけて伸縮性がある皮膚で構成されている

これらで陰茎は構成されてるで。この辺りは学生時代にも解剖で習ってると思うから忘れてる人がおったらもう一度復習しといてな。

男性器解剖

ちなみに余談なんやけど、陰茎に骨がある哺乳類がおるのは知ってるか?人間は持ってへんらしいけどな。興味があったら「陰茎骨」で検索してみると出てくるで。

Wikiによると陰茎骨を持つ哺乳類は、食肉類、霊長類、真無盲腸類、翼手類、齧歯類、

持たへん哺乳類は、有袋類、単孔類、ゾウ目、ジュゴン目、鯨偶蹄目、ウマ目、ウサギ目、サル目の一部(ヒト、クモザル属、メガネザル属など)、食肉目の一部(ジャコウネコ科の一部、ハイエナ科)、コウモリ目の一部などらしいねん。

まぁ余談や。

陰茎癌の原因と治癒率

陰茎癌の原因としては、喫煙とHPV(16型、18型)が関係してると言われてるで。

以前は包茎も関係してるとされてたんやけど、最近はそうでもあらへんって説が有力やな。これは以前は陰茎癌は包茎を伴っている事が多かった事、割礼をしている人にはほとんど見られなかった事が原因としてあんねんけど、最近はHPVの方が関連性が高いって話しや。喫煙は非喫煙者と比較して数倍の発生リスクがあると言われてるで。

治癒率については、数が少ない為かあまりデータが出てへんのやけど、リンパ節転移の有無で大きく生存率が変わるのは間違いなさそうやな。1期、2期では90%以上なのに対して、3期や4期やと50%程度という報告もあるわ。

陰茎癌のTNM分類

陰茎癌の病気分類やけど、これはJacson分類とTNM分類の2つがあんねん。順番に説明していくで。まずはJacson分類からや。

Jacson分類
陰茎癌1期:腫瘍が亀頭部、包皮もしくは両者の表層に限局
2期:腫瘍が陰茎体部に浸潤
3期:鼠径リンパ節転移を認めるが手術可能
4期:隣接臓器への浸潤あるいは手術不可能な鼠径リンパ節転移

分かりやすいな。次にUICC8版を参考にしたTNM分類表や。

T分類TisT1T2T3T4
Tis:上皮内癌(carcinoma in situ:CIS)
Ta:非浸潤性の限局性扁平上皮癌 
T1a:上皮下結合組織に浸潤、脈管侵襲または神経周囲浸潤がなく、かつ低分化度ではない
T1b:上皮下結合組織に浸潤、脈管侵襲または神経周囲浸潤も伴う、または低分化度腫瘍 
尿道浸潤の有無に関係無く尿道海綿体に浸潤している尿道浸潤の有無に関係無く陰茎海綿体に浸潤している他の隣接組織に浸潤している
N分類N0N1N2N3
リンパ節への転移なし1個の表在鼠径リンパ節転移複数あるいは両側性の表在鼠径リンパ節転移深部の表在鼠径リンパ節転移あるは骨盤内リンパ節転移
M分類M0M1
遠隔転移なし遠隔転移がある
                                        UICC-TNM8版を参考に作成
N0N1N2N3M1
T1aⅢAⅢB
T1bⅡAⅢAⅢB
T2ⅡAⅢAⅢB
T3ⅡBⅢAⅢB
T4
UICC-TNM8版を参考に作成

リンパ節転移と局所深達度はよく相関する事が知られてて、T1ならリンパ節転移が20%程度なのに対して、T2~T4になると47~66%にまでなんねん。

Jacson分類の3期までが手術対象になるで。局所再発、鼠径リンパ節再発共に2年以内が多いのと再発の90%は5年以内に発生する事から、少なくとも5年間は定期的なフォローが必要なんや。

画像所見

陰茎癌の画像所見

次に画像所見についてレクチャーしていくで。

画像診断の主な目的は深達度診断や。これはMRIのT2強調と造影T1が有効やで。造影の濃染程度が浸潤度判別に有効や。

CTやFDG-PET検査はリンパ節転移や遠隔転移診断に使われんねん。ただリンパ節転移についてはサイズ評価だけやと困難な場合が多いで。

理由は感染を伴っている事が多く反応性リンパ節腫大の事が少なくないからや。初診時にリンパ節腫大を認める割合は60%程度で、この中で実際に転移があるのは半数の30%程度という数字もあんねん。診断が難しい場合はリンパ節生検まで実施する事もあるで。鼠径リンパ節に転移がなければ骨盤内リンパ節にも転移が無い事がほとんどや。

ほな、実際の画像を見ていくで。

実際の症例

50代男性の例や。Jacson分類でいうと2期になるかな。MRIで陰茎に濃染される部位を認める事が出来ると思うで。ちなみにCTだとこんな感じに描出されるで。

造影CT-陰茎癌
骨盤MRI-陰茎癌
骨盤MRI-陰茎癌

鑑別診断のポイント

尖圭コンジローマなど

鑑別診断としては、尖圭コンジローマなどの良性病変との鑑別が必要になる場合があるで。

尖圭コンジローマはHPV6型や11型が原因のウィルス性感染症なんや。主に性交渉で感染して生殖器やその周辺に発生、褐色の病変で特徴的な形態をすんねん。良性で自然治癒が多いとは言われてるけど、場合によっては悪性転化する事もあんねんで。尖形コンジローマも同様の濃染を示す事があるんやけど、尖形コンジローマは視診で判定可能な事が多いわ。

陰茎癌の臨床的特徴としては、カリフラワー状の発育病変や結節病変があるのが半数で潰瘍や炎症性変化も多いねん。ただ最終的な確定診断は生検によって行われるで。

他の男性特有の悪性腫瘍については下記を参照しておいてくれや。

まとめ

今日は陰茎癌についてレクチャーしたで。ポイントは3つや。

稀な癌である事

リンパ節転移の有無で予後が変わる事

分類にはTNMとJacson分類がある

こんな感じやな。画像診断をする時は生検で確定診断後に局所深達度や転移診断の事が多いと思うから、鑑別診断は少ないかもしれんな。ただ画像所見を知っておく事は重要やで。他の目的の検査中に偶然発見される場合もあるからな。

ワシの先輩から教わった言葉があんねん。

「何が病変を見つけてもそれで満足するな。もっと重大な病変が隠れている事も多々ある」

ってな。これを聞いた時は「ふーん」くらいやったんやけど、そのしばらく後で実際に自分が読影した症例で同じような事があってな。その時は指導医が指摘してくれて助かったんやけど、それ以降は「まだ何かあるんやないか?」っていう目で見るようにしてんねん。

ただ、これの難点は読影時間がかかるって事やな。

さて、今日も長くなってもうたから、これくらいで終わりにしよかな。

ほな、精進しいやー!