仕事が属人化する事で起きること

組織構築の1番の課題である属人化

デメリットだらけの属人化

「仕事属人化問題」

「この仕事はあの人が担当しているからちょっと分からないな」、「この業務はあの人じゃないと出来ないんだよ」

このような事は、多かれ少なかれほとんどの企業が経験している事ではないでしょうか?特に中小企業では従業員の人数が少ないので他の人がカバー出来るほど余裕がないのもあるかもしれません。ただこれは放置しておくと、いずれ大きな問題に発展する事が多いので注意が必要になります。

組織の理想のイメージ

組織構築において理想の環境とはどんなものでしょうか?

現場が優秀なボトムアップ型、カリスマが率いるトップダウン型、もしくは役職を排除したティール組織などがあります。もう少し具体的に言うと、部下から必要な情報が上がってくる、ミスが起きない、新人が育つ、排他的じゃない、皆やりがいを持っている等々でしょうか。これらは組織の色によってどんな環境が適しているかが変わります。なのでどれも正解になるし、不正解にもなります。

役職が上がりチームマネジメントが求められるようになると、組織構築やチーム運営は重要な仕事であり、かつそれが求められているものでもあります。

企業の寿命

企業の平均寿命

これは中小企業庁が出している資料の中にあるデータです。(中小企業白書2017 中小企業のライフサイクル

このデータによると起業して5年後も存続している割合は82%となり、他の諸国と比較してもかなり多いのではないでしょうか?ただ、現代において組織や会社が成長していくためには時代やニーズに合わせて変化していく必要もあります。起業当初からずっと同じ分野、業態でやってこれる起業はほんの一握りです。

例えば今はメジャーになったyoutubeは最初の目的は出会い系アプリだったとも言われています。それが紆余曲折を経て今のスタイルになりました。今や企業の平均寿命は20年とも言われています。これは同じ業態にいた場合ですが、サイクルの早い業態だと数年単位の事も珍しくありません。つまり生き残っていくためには時代に合わせて変わる事が必要なのです。

属人化してしまう事での問題点

人は意識しないと現状維持を選ぶ

このように組織を作って運営、成長していく上で、会社としても変わっていく場面が出てきます。ただ「業務の属人化」という問題を解決しないまま実行すると上手く変わる事が出来ません。

人は基本的に変化を嫌う生き物です。なぜなら不安だからです。

変化をするというのは未知の事にチャレンジするという事。未知にチャレンジするということは自分がどうなるか分からない、得をするかもしれないし損をするかもしれない。この不確かさが不安の正体です。

人は不安が続く事をストレスに感じる生き物なので、ストレスを感じるくらいなら現状維持を望みます。(中には現状維持をする事の方がストレスの人もいますが)。貯金と投資が良い例ですね。投資はプラスもあればマイナスになる時もあります。一方で貯金はマイナスになる事はありません。多くの人は損失を嫌うので、大きくプラスになる事があるのは分かっていてもマイナスになる事はない貯金を選ぶのです。

現状維持の結果どうなるか、それは自分の価値観が広がらない事を意味します。つまり価値観が固定される事で、チームが変わろうとする時にその理由を受け入れられずに拒絶反応を示す人が一定数出てきます。そしてそういった人達はその組織に長く属している事が多く、業務を知り尽くしているので裏ボス的なポジションの事が多いです。お局的な感じといえばイメージしやすいでしょうかね。

経営側からみると

これは経営側から見ると良い状態とは言えません。会社が存続していくには成長していかなければなりません。成長し利益を上げる事で新しい事業に投資をしたり人件費に充てたりします。この成長が止まると、その組織に属している人達の成長も止まります。なぜなら新しい業務が増える事で人間は新しい知識やスキルを身につけるからです。この成長とは変化する事もあります。そしてこの変化に対する現場を納得させるのに大きな労力が必要になるのです。

成長サイクル

誰しも経験があるのでは無いでしょうか?新人だった頃は、仕事を覚えるのに一所懸命で失敗を繰り返しながら少しずつ知識やスキルを向上させていきました。そして段々と出来る事が増えていき、ある日単独で業務を任せてもらえる日が来て、また試行錯誤しながらチャレンジする。まさにこの状態が成長しているという事です。

しかしいつからか、出来る事が増えてきた結果、現状のスキルの範囲内でできる業務が多くなってきます。こうなると仕事はルーティンワークに変化していきます。ここに個としての新たな付加価値(成長)はありません。つまり会社としては、新しいプロジェクトや課題を作る必要があります。それを作る事で社員の成長も担っているのです。

成長サイクルの落とし穴

そしてこの成長、言い換えると新規事業にチャレンジする時に弊害となる事が多いのが、長年在籍している人達です。彼ら彼女らは上記の通り変化を嫌います。どう転ぶか分からない事業にチャレンジするくらいなら現状維持を望みます。新しい事業や考え方をもった人が入ってくると途端に拒絶反応を示します。そして長年いる事で自分のグループも作っている事が多く、排他的な動きをしたりします。

結果、新しい目はすぐに潰されてしまうのです。そしてこの動きを可能にしてしまっている原因が仕事の属人化なのです。つまりその人達が抜けると業務が回らないという状態です。

仕事が属人化する原因

原因は1つではない

属人化する原因にはいくつかあります。主なものは次のような理由じゃないでしょうか?

  • 退職率が高いために長期在籍者に仕事が集中している
  • 役職を担当している期間が長い
  • ジョブローテの仕組みが無い
  • ジョブローテする程の部署や人員がいない
  • 仕事内容が専門的で資格などが必要(国家資格など)

パッと考えつくものだけでもこれくらいは出てきます。勿論これ以外にもあるので全て挙げたらキリが無いですね。ただこれらは会社や周りの環境の結果として属人化してしまったというのが正しいのかもしれません。最初から個人に問題があるといいうケースは少ないです。つまり属人化し始めた時点で会社が何も対策をしない事が大きな問題なのです。

会社側の問題点

会社側に問題があるというのは上記で話した通りですが、属人化の徴候が出始めた時点で何も対策を取らないと、会社がそれを認めてるというサインにも捉えられます。つまり本人は会社からのお墨付きでやっているイメージなんです。本人からすると今まで会社からお墨付きがあった業務が、ある日突然間違っていると言われる。今までと辻褄が合わないので納得できない。なので反対する。これが会社が成長する時に弊害となる属人化した人達の正体です。つまり会社側が生み出してしまっているとも言えるんです。

属人化にも良い属人化がある?

属人化というのは、その人にしか出来ない仕事がある状態の事を指します。実はこれ自体は決して悪い事ばかりではありません。営業活動によって顧客と信頼関係を作れている。ある特定分野でズバ抜けた能力を持っている。これらは良い属人化になります。この違いは何でしょうか?

ベース業務と+α業務

覚えるべき業務をベース業務、ベース業務の上に個性として追加されるのがプラスアルファ業務とします。ベース業務はマニュアル化が可能な業務と考えてもらえれば分かりやすいかもしれません。最低限の能力さえあれば、誰でも担当可能な業務です。プラスアルファ業務はベース業務の上に個々の特徴を生かした業務の事を言います。

良い属人化

良い属人化とはプラスアルファ業務の事です。これはその人特有の能力であり、共通化や言語化が難しい事が多いです。これは代変えがきかないものでもあります。つまりその人の能力が大きく成長している証拠でもあります。これが結果的に属人化してしまうのは、ある程度仕方が無い事でもあります。

ダメな属人化

しかし中にはベース業務を属人化してしまう人がいます。これが問題で、何かしら理由をつけてある業務を自分だけのものにしてしまったり、共有化を指示されても、多忙という使い勝手が良い理由でスルーしたりします(実際、多忙ではあるのですが)。

本当に多忙なら早々にマニュアル化して共有してしまった方が自分も楽になるのにそれをしようとしない。それは自分が必要とされている感を得るためでもあります。言い替えれば承認欲求でしょうか。ここを正さない限り今の状態が続きます。

属人化させないためには

属人化しない仕組みを作る

会社の成長に弊害となりうる仕事の属人化、これを生まないようにする為にはどうすればいいのか、それは、

「一定期間で移動する仕組みにする」

というルールを作る事です。定期的に移動する事でお局的な人が生まれる環境が出来にくくなります。その業務を熟知して派閥を作り始める前に移動になるからです。お局様が誕生するメカニズムは上記の通り同じ部署に長年在籍してしまう事で、自分にしか出来ない業務が生まれる事が大きな原因です。言い換えれば、これが生まれないようにすれば良いのです。ただこれは権限が必要で自分ではどうにもならない事も多いかもしれません。その時は、部署移動ではなく、同じグループ内の違う仕事に担当を変えるだけでも効果があったりします。これくらいなら出来るのではないでしょうか?

元々はその人も悪気があって業務を担当していた訳ではありません。結果的にそのような形になってしまっている事が多いです。なので仕組み化して解決しましょう。

一定期間で移動させる事でのメリット

一定期間で移動させる事で、属人化を防ぐ以外にも次のようなメリットがあります。

  • 業務内容のマニュアル化
  • マニュアルのブラッシュアップ

新しく配属された人には、一定期間で仕事を覚えて戦力になってもらう必要があるので、どんどんマニュアル化しないと教えるだけで終わってしまいます。また定期的に新しい人が配属される事により、既存のマニュアルも本当に使いやすいものかどうかもチェックする事が出来ます。これが無いと新しく入ってきた人達が業務にフィットするのに時間がかかり、また成長が個々の能力に依存してしまう事でパフォーマンスが安定しません。

教えるのが上手いA先輩と、教えるのが苦手で自分のスキルを上げる事の方が好きなB先輩と、ほぼ同じ能力を持った若手が2名いたとします。A先輩の元についた若手はグングン成長しているが、B先輩に教わっている若手はイマイチ。スタートラインは一緒だったのに育成結果に差がついてしまった。これは若手の評価にも違いが出ますし、教えた先輩の評価も違いが生まれてしまいます。これではもったいないですよね。

ここを解決するのがマニュアルになります。マニュアルがある事で、誰もが一定レベルまで成長する事が出来るようになります。つまり全体的な能力の底上げが出来るのです。

自施設でやってみて

私がいる医療業界はそれぞれに専門の免許が必要です。そのため部門間での移動は大変ですが、部内でいくつかのセクションに分かれていたので、それを利用しました。具体的には次のような事を実施しています。

  • 数年でセクション間のローテーションをする事をルール化
  • 業務を属人化させないように徹底的にルール(小さなものも含め)の言語化とマニュアル化

特に2つめのどんな事も言語化するというのは大きかったと思います。これをする事でベース業務はほぼマニュアル化出来ました。またいわゆる常識と言われるような事も言語化、ルール化したおかげで、若手や新しく入ってきた人の行動指針がぶれる事も少なくなりました。結果的に個人の判断が出来るだけ入らないようなチームが作れたと思います。また、今の所お局的な人がいるという報告もないので、上手くいっているのではないかと思います。

まとめ

属人化を防ぐために

業務が属人化してしまうことの弊害と、属人化が出来てしまうプロセスについて記載してきました。

属人化といっても2つの種類があります。ベース業務とプラスアルファの業務。プラスアルファ業務で属人化する事は問題ありません。というか性質上、属人化にならざるを得ません。問題はベース業務の属人化。これはミクロで見てもマクロで見ても組織にとって害しかありません。出来るだけ早めに無くしましょう。その為にやる事は次の事です。

  • 一定期間で移動する仕組みを作る

基本的にこれでほぼ解決すると思います。属人化させない事で、副次的なメリットも生まれるかもしれません。

理想は従業員が数人程度のベンチャー企業でしょうか。人手が少なく全員が全ての業務を担当するくらいなら属人化が生まれません。属人化をさせない為にも組織としてのルール作成を進めてみてはどうでしょうか?