もくじ
問題発見力と問題解決能力
予測不能な世の中
VUCAという言葉を知っているでしょうか?VUCAとはWikipediaによると、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったものとあります。
1990年代後半にアメリカの軍事用語として使われたのが、ビジネスにも使われるようになったと言われています。今現在はVUCAの時代と言われるようになって久しくなりました。VUCAの時代とは「予測困難な状態」の事を言うのですが、昨今の事例を見ても、ロシアとウクライナ情勢、パレスチナ問題、AI(Chat GPT)の登場など数年前から比較して大きな変化がいくつも起きました。これらは事前に予測出来たかというと難しかったのではないでしょうか?まさにVUCAの時代です。そしてこれは何も世界情勢だけじゃなく、身近なビジネスにも十分起きうる事なのです。
VUCAの時代に必要な問題発見力と問題解決力
ではVUCAの時代にあって、ビジネスで何が必要になるかというと次の2つです。
- 問題発見力
- 問題解決力
予測困難な時代において、今や何が問題なのかが分かっているケースはほとんどありません。分かっていても中々解決出来ない問題だったりします。そんな中で何が問題なのか、どんな解決方法があるのかを導き出せる能力が必要になるのです。とは言っても何もインターネットやiPhoneのような革新的な発明をする必要はありません。自分の扱っているビジネス(仕事や業務)において実践出来るようになればいいのです。
問題発見力と問題解決力
これらはプロジェクトマネジメント能力の項目でも少し出てきました。そしてこの能力が仕事を効率良く回すために必要な能力と言っても過言ではありません。この能力の有無によって最終的な結果や、それに至るまでのプロセスに違いが出てくる事が多いです。
そしてこの問題発見力と解決力に必要なのが、次の3つです。
- 仮説力
- 実行力
- 検証力
これらは別名PDCAと言う事が出来るかもしれません。PDCAであれば聞いた事もある人が多いでしょう。
Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字を取ってPDCAと呼んでいますが、これは一種のフレームワークでこの通りにやると効率的に実施出来るというものです。これを上手く使う事で今のプロジェクトの問題点や改善点、つまりボトルネックやレバレッジポイントが分かるようになります。
またこの中で検証力以外はリーダーシップの所でも出てきました。つまり独立した能力ではく、色んなところに影響する能力、つまり普遍的な能力という事も出来ます。
問題発見力や解決力が無いと何が問題なのか
施策の非効率化
なんか上手くいかない。イメージしていた通りの結果が出ない。
こんな事は仕事をしていれば日常茶飯事です。ここで効果的な対応が出来るかどうかが結果への大きな分かれ目になります。そして効果的な施策を打てるかどうかが問題発見力の有無で決まります。
誰でもそれらしい対策は考える事が出来ます。ただその対策の精度や効果の有無はどれだけ真を捉えた解決策であるかがポイントです。お金や時間、人材は有限です。なので手元にある情報から確度が高そうな仮説を作りその対策案を実行する。効果が無ければ更に熟考して仮説を立てて実行する。基本的にその繰り返しになります。この時に問題発見力が無いといつまでも表面上の対策案ばかりになり、無駄にリソースを使ってしまう事にもなりかねないのです。
表面上の問題だけを解決しても意味がない
また、もう一つの問題点として表面的な問題対策ばかりに終始していると、根本的な原因はスルーされたままです。一見効果が出ているように見えても実は根っこでは解決されていないので、いずれ違った形で再浮上してきます。
例えば、ある特定の人が原因で職員が辞めていくのに、待遇や給与を改善しているようなもの。この場合、その原因となっている人に対して改善を求めるのが1番効果的な対策になります。決して給与や休みがじゃないんですね。
コロナ対応で見えた保健所の例
2019年末からCovid-19が世界に広がり始め、日本でも2020年には爆発的に感染者が広がりました。これに伴い感染経路の把握や感染者の管理のために、保健所がパンク状態になりました。この時のニュース映像で保健所の職員の人がノートに手書きでメモしていたのを覚えてる人もいるかもしれません。(新型コロナ保健所’紙の山’との戦い)
この時の問題点はいまだに手書きで紙管理ということでした。ここに気が付けば、アプリを作って対象者に解答してもらう事でかなりの労力が減らせたはずです。目の前の業務に終われてそれどころじゃないというのは分かりますが、上役がこの業務過多を解決できる方法は何か?を考えることで効率性(生産性)が全く違う形になるのかもしれないのです。
問題発見力/解決力があるとどんなふうになるか
部下育成のケース
まず次の2つのケースをイメージしてみて下さい。
① 念入りに計画を立てて部下を育成しているのに何故か結果が伴ってこないケース
② 同様に念入りに計画を立てて育成している所までは一緒だが、結果が出た後に振り返りをしているケース
どちらが成長スピードが早いでしょうか?文字にしてみると簡単ですが、実際には前者の方法をしているケースが多いです。これはPDCAのCAが無い形ですが、これは昭和型で育成されてきた人に多かったりします。その極端な例が、「スキルは見て覚えろ、盗め」というタイプですね。これはDo(たまにCheck)しかしてません。
さすがにこのような極端な例はもう無いと思いますが、これでは教わる方はたまったもんではありません。
この場合の問題点
このケースの問題は何でしょうか?
それは「本人へのフィードバックが無い事」です。フィードバックが無いので、実行してきた事が合っているのかどうかが不明なのと、それに伴って成長しているのかどうかも実感として湧きません。成長の実感が無いので自己肯定感も下がっていきます。このままだと、いずれは退職してしまうかもしれません。これら2つは実際にあった例ですが、この後②の例にもフィードバックする機会を作る事で、課題を本人が意識するようになり成長が期待通りになりました。
問題点を発見出来ると
このように大きな事になる前に、問題を発見し少しテコ入れするだけで劇的に結果が変わったりします。これはどんな事にも応用できます。何か変えたい事、改善したい事、これらの事に対してボトルネックになっている事を見つけて期待通りの結果を得る。
そんな風になったら最高ですよね。アイツは問題解決のプロ。そんな風に言われる事もあるかもしれません。
問題発見に必要な能力
問題発見力とは言い替えると、問題の本質を見抜く力です。そして、そのためには抽象化という能力が必要になります。
抽象化とはwikipediaによると、
「抽象化とは思考における手法のひとつで、対象から注目すべき要素を重点的に抜き出して他は捨て去る方法である」
とあります。少し分かりづらいので詳しくみていきましょう。
抽象化能力とは
抽象的と聞いてどんなイメージを思いうかべるでしょうか。なんかこう言葉に言い表せないモヤモヤとした感じの人もいるかもしれません。では問題です。次のどちらが抽象的な表現でしょうか?
・積み木やボール、絵本
・おもちゃ
これはおもちゃが抽象的な表現になります。
次はどうでしょうか?
・人間
・日本人、アメリカ人、ドイツ人、ブラジル人、インド人
これは人間ですね。つまり個々の中での共通点を見つけるのが抽象化になります。この反対が具体化と言われています。上記の例でいうと、積み木やボール、日本人、アメリカ人などが具体化になりますね。基本的に問題は具体化して表面化します。なのでそこから抽象化して本質を見抜く力が必要なんです。具体的な内容から抽象的な本質を見抜く。そしてその対策案を具体化して現場に落とし込む。具体→抽象→具体。この流れが必要なんです。
ちなみにこの抽象化と具体化はこちらの本に分かりやすく書かれています。興味がある人は読んでみて下さい。
問題発見力/解決力が育たない原因は?
なぜ問題発見力が育たないのか?
このように具体的な事から抽象的な本質を抜き出せば、問題解決に大きく近づきます。一方でこの能力が高い人はそれほど多くないようにも思えます。これは何故なんでしょうか?
学校教育の問題
これには学校教育が関係しているのではないでしょうか?小学校から始まる義務教育。これは中学生まで続きますが、この内容を見てみると自分で考えるという教科はあまり多くありません。歴史や地理などの暗記物はもちろん、数学のような一見して考える事が必要そうな教科も実はパターン学習の成果だったりします。そして高校受験や大学受験といったものは基本的に記憶力の勝負の世界です。どこまで記憶しているか、以前に経験しているかどうか、これらが求められるような形で実施されています。
そして、これらに共通する事はなんでしょうか?
義務教育に始まり大学受験までに必要な教科は、基本的に答えありきの問題ばかりです。そこに自分の考えやプロセスが入る余地はありません。正解か不正解かなんです。一方で社会に出ると答えがある事なんてほどんどありません。答えが無い問題に対して自分で答えを見つけにいくという考えや行動が必要ですが、そもそも問題すら定義されていないことが多いです。ここが学校と社会の大きな違いになります。なので新社会人になる時に問題発見力や解決力を持っていない人がほとんどなんです。(一部の人たちは持っていることもありますが、その場合は環境が大きく影響しています)もちろん彼らを教える先輩も同じような教育を受けてきているので、会社で自分で解決した経験がないと、教える事が出来ないという事もありえるのです。
もともとは問題発見のプロだった
一方で人間はもともとは問題発見や解決のプロだった時があります。それはいつでしょうか?
答えは子供の頃です。歩き始めると行動範囲が広がり日々新しい事が目の前に現れます。そして基本的にみんな、それらに興味津々です。新しいものを差し出すと、まず触ったり舐めたりして確かめます。そして遊び方が分かるとその通りに、はたまた予想外の遊び方さえしたりします。これも良く観察してみると、分からない事が起きる(問題発生)→とりあえず色々やってみる(トライ&エラー)→失敗したり成功したりする→解決方法が分かってくる(抽象化)→同じようなものなら普通に使えるようになる(具体化)、というプロセスを通っています。試しに3歳児にiPadを何も言わずに与えてみて下さい。大抵の子供は色々試してみたりして1日足らずで使い方をマスターして自分でゲームをダウンロードして遊び始めています。
このように誰でも子供の頃は問題発見、解決のプロだったのです。それが学校教育が始まる段階で必要なくなってしまうのです。すでにある堪えをどうやって導けるかという勉強になります。社会で必要な能力は学力よりも問題発見力なんですけどね。
問題発見力/解決力を身に付けるには?
大人になるともう身につかないのか?
では大人になってしまった人はこの問題発見力や解決力は身につかないのでしょうか?そんな事はありません。大人になってからでも十分身につきます。では何をすればいいか?それは、解決したい問題に対して「何故」を2回以上繰り返してみることです。1回ではダメです。最低でも2回以上は繰り返してみてください。1回だと表面上の問題点で本質まで達していないことが多いです。
子供のもう一つの能力
先ほど子供は問題発見のプロだったという話をしましたが、子供の頃にはもう一つの能力があります。子供を持つ親なら分かると思いますが、2歳を越えてくるといわゆる「なぜなぜ期」というのが来ます。この時期は知的好奇心や学習意欲が高まる時期でもあります。これは大人になぜ?と聞くことで自分の好奇心を満たしているからなのですが、実はこの「なぜ?」は魔法の質問で、使い方次第で問題発見力、言い換えると抽象化に大きく関係してきます。
問題発見の具体例
ここで「部下が中々成長してくれない、ミスが多い、報告がなく自分で進めてしまう」という問題があったとします。これになぜを考えてみると、
(なぜ?)→教える側の問題と教わる側の問題がある
教える側→(なぜ?)個々が自己流で教育しているためにバラつきがある
→(なぜ?)教育の仕組みが出来ていない
→(対策)仕組みを構築する
→(なぜ?)教育者の能力不足
→(なぜ?)研修等が何もない
→(対策)教育者対象の研修制度を作ってみよう
教わる側の問題→(なぜ?)元々の資質の問題
→(なぜ?)採用基準が明確じゃなかった
→(対策)採用合格条件を明文化してみよう
→(なぜ?)やりっぱなしで反省しない
→(なぜ?)そのような仕組みがない
→(対策)フィードバックや反省点を一緒に考えるようにしてみよう
こんなふうに「なぜ?」を繰り返すことでいくつかの打ち手が見えてきます。
数をこなしてみよう
このように、「なぜ」を使うと色々と考えられる打ち手が出てきます。ここで抽象化と具体化が使われるのです。上記の例でいうと教える側の問題なのか、教わる側の問題なのかと言う点が抽象化です。そこで共通点を見つけて具体的な対策を立て、1番効果がありそうなものから試していきます。その結果を元に次なる仮説を立てて実施すればいいのです。そしてこれを繰り返す事で仮説の精度、つまり問題発見力があがってくるのです。つまり経験が必要なんですね。
問題発見力と解決力のまとめ
まとめると
問題発見力、解決力を身に付けるためには次の事をしてみましょう。
- 解決したい問題に対して「なぜ」を複数回繰り返す(3歳児に戻ったつもりで)
- 経験あるのみ
この能力はすぐには身につきません。何度もチャレンジしてトライ&エラーを繰り返していく事で磨かれてきます。
実は有名なマーケターやコンサルタントはこの繰り返しを人一倍繰り返しています。他の人よりも経験値が多いんです。たから物事の本質に近い案が出てきます。このスピードが速いので他の人から見たら、自分と地頭が違うという感じに見えるかもしれません。でもそれは膨大な仮説と実験の裏返しなのです。
医療業界の今後
医療業界はこれからDX化が本格的に始まる分野です。現状はあまりにも非効率的な作業が多く残っています。インターネットがこれだけ発達した現代においてもFAXが現役で使われている業界でもあります。電子カルテの普及率も2020年時点で一般病院で57%、クリニックなどの一般診療所で50%という数値が出ています。厚生労働省「電子カルテシステム等の普及状況の推移」
つまりまだ半数近くの施設で手書きのカルテという事なのです。紙カルテの問題点は、保管場所や期限の確保、文字の汚さによる解読不能、検索の不便さ、共有が出来ないなどがあります。これが電子カルテになると解決します。このようにまだまだアナログな世界なので、問題発見力、解決力を試すにはもってこいの業界でもあります。
まずは身近な問題から「なぜ?」を繰り返してみましょう!