労働市場で評価される普遍的な能力 その3

プロジェクトマネジメント能力とは

プロジェクトマネジメント能力とはどんな能力か

プロジェクトマネジメント能力は言い替えると全体を見る力です。全体俯瞰力とでも言うべきでしょうか。

結果に対して逆算していく事で、今、何をやらなければいけないかをスケジューリングし実行する能力です。もう少し細分化したのをタスクマネジメント能力と言ったりもしますね。

これがあるのと無いのでは大きな差が生まれます。この能力が高いとプロジェクトに対して見通しが立てられるようになります。また途中で起きうる障害も予め予期して対策を打っておく事も出来ます。つまり納期までに仕事を完了させられるかどうかに関係してくるのです。

プロジェクトマネジメント能力を構成するもの

プロジェクトマネジメント能力は主に次の能力で構成されると考えます。

  • 全体俯瞰能力
  • 結果へのコミット力
  • 対話力

順番に見ていきましょう。

全体俯瞰能力

プロジェクトを予定通りスケジューリングするには、与えられた材料の特徴を把握し、適材適所に配置する能力が重要です。

通常、プロジェクトに選ばれた人は何かしらの得意分野がある人達です。彼ら彼女らを纏めて求められている結果を出すのがプロジェクトリーダーの役目です。個々の能力やレベルを把握し、タスク(課題)を担当してもらう。イレギュラーが出ても迅速に対応する。どこにボトルネックがあって、どこがレバレッジポイントなのかを判断する。

このように個々の個性をふまえて全体を見る事ができる能力、それが全体俯瞰能力です。違う言い方をすると問題発見能力、問題解決能力とでも言うんでしょうかね。全体から見て、逆算して考えられる力は必須になります。

コミット力

次にコミット力ですが、これは結果に対してコミットする力が弱いと最終的に目標達成をしなくてもいいという雰囲気が出てきます。リーダーがこれでは、せっかくのプロジェクトも意味の無いものになってしまいますね。これを避けるためにコミット力が必要なんです。

そしてコミット力に必要なのが、タスクを分解する能力と、求められている結果を相手と共有している事です。ここがずれていると、スケジューリング通りに進めてもお互いがイメージした結果ではなく、意味が無いものになってしまう事もあるので注意が必要です。

タスクを分解し、やるべき事を明らかにして、それを実行すれば結果が出るようになる。ここまで出来れば最高ですね。

対話力

次に対話力です。プロジェクトは1人でやるものではありません。必ず他者と協力して実施します。ここで必要になるのが対話力です。どれだけ味方が多いかでプロジェクトの成功確率も変わってきます。

ただ最初は味方が少ない事も多いです。ここで辛抱強く対話を重ねていくと、少しずつ仲間が増えていきます。そしてティッピングポイントと言われる一定の閾値を超えると爆発的に仲間が増えていきます。このティッピングポイントを超えるまで継続出来るかがカギです。

ティッピングポイントについてはこの動画が有名ですね。最初は数人でしたが、一定の数を超えると一気に集まります。

味方を増やしていくには粘り強い対話力が必要です。相手の価値観を理解した上で協力関係に持ち込む。これが出来るのと出来ないのではプロジェクトの進行に大きな差が出ます。

プロジェクトマネジメント能力があるとどうなるか

今は何かに特化した能力を持っている人は多くなってきました。ただ特化した人達だけでも勝てる訳ではありません。サッカーやバスケのようなチームスポーツには監督やコーチが必ずいます。これらの人達は個々の能力が無駄なく最大限生きるような配置や戦略を考えます。この監督、コーチの役目の人がビジネスにも必要なんです。

野球の例

プロチーム競技もリーグ優勝や日本一というプロジェクトに向けて日々試合をしているとも言う事が出来ますが、野球では監督が替わるだけで、Bクラスだったチームが優勝争いに加わったりします。つまり選手(会社の場合は職員)にそれほど大きな差は無く、マネジメント能力で全然結果が違ってくるとも言えるのです。

プロジェクトをディレクション(指揮)出来るというのは、それだけで重要かつ貴重な能力なのです。どこの会社にもアイツにプロジェクトを任せておけば大丈夫と言われる人が1人はいると思います。どうせなら自分もそんな人の1人にカウントされたいですよね。

プロジェクトマネジメント能力が無い事で起きる問題

何が問題点として出てくるか

一方でプロジェクトマネジメント能力が無い場合に起きる事を想定してみましょう。それには主に下記のような項目が弊害として出てくると考えられます。緊急性の高いものから、リカバリーが難しそうな事まで色々とありそうです。

  • 人材配置のミスによる非効率化
  • それに伴う現場からの不満感、不信感の発生
  • 現場からの信頼性が欠如する
  • 期限(納期)に間に合わない
  • 見積が甘いために追加費用が発生してしまう
  • 出来上がった製品のクオリティが低い
  • 経験がノウハウとして蓄積されない

パッと頭に浮かんだけでも、これだけの項目が出てきました。中々ヘビーな内容がありますね。これらは最終的に会社の負担や損失に繋がります。本来なら(能力がある人が指揮していれば)支払う必要の無かったコストも含まれているかもしれません。

そのコストの出所はどこでしょうか?お金は自動で増える訳ではありません。ましてや他人が払ってくれる訳でもありません。

つまりは最終的な利益が減ってしまう事を意味しているのです。

昔のジョークにこんなのがあります。

「世界最強の軍隊は、アメリカ人の将軍とドイツ人の将校、日本人の兵だ。逆に再弱の軍隊は、中国人の将軍、日本人の将校、イタリア人の兵を集めればいい」

つまり、日本は昔から現場は強いがマネジメント能力は低いという評価だったんですね。 これは先の第二次世界大戦での日本が取った戦略や、バブル後の日本企業のとってきた戦略を見ても分かると思います。

ちなみに戦略関係の辺りは「超」入門 失敗の本質という本が参考になります。興味があれば是非読んで見て下さい。

プロジェクト能力がない事で起きる1番の問題点

ミクロ的には上記のような項目がありますが、もう少し抽象的に考えてみましょう。上記のような事が起きる事で、結局は何が起きるかというと、次の一言になります。

「顧客からの信用がなくなる」

商売は基本的に相手がいて成り立ちます。つまり相手が欲しい、納得する商品やサービスを提供して対価としてお金を得ています。この購入を決定する時に必要になるのが信用なんです。いくら安くても効果が保証されない、つまりその商品に信用が無いと売れないのです。

100歩譲って社内のメンバーが迷惑を被るだけなら何とかなります。普段から顔を合わせている関係でまだリカバリーもしやすいです。

ただこれが顧客にまで影響してしまうと回復が難しくなるのです。

プロジェクトマネジメント能力が育たない理由

圧倒的な経験不足

では何故プロジェクトマネジメント能力が育たないのでしょうか?昔は育っていたのでしょうか?それとも昔から育っていなかったのでしょうか。

これには過去20~30年の景気低迷による組織の育成方針の変換が関係しているのではないかと思います。

終身雇用制度のメリット

現代では終身雇用、年功序列などという言葉が形骸化しつつありますが、以前の企業は終身雇用が当たり前でした。終身雇用制度とはwikipediaによると「終身雇用制度は、同一企業で業績悪化による企業倒産が発生しないかぎり、定年まで雇用され続けるという、日本の正社員雇用においての慣習である。」とあります。

つまり約40年間の長期雇用が前提なんですね。長期雇用なので育成もある程度時間をかけて行う事が出来ます。難易度が低いプロジェクトから経験させて実績と経験を積ませる。そして結果を出した人には、より大きなプロジェクトを担当してもらうという流れが出来ていたのです。

また時代的に高度成長、バブルと好景気が続いた事もあり企業にも資金と体力に余裕がありました。数回の失敗程度は問題無く、しかも好景気なので仕事(プロジェクト)も次から次へと出てくる。なので1、2回程度の失敗なら経験と捉えられた時代でもあったのです。

バブル崩壊とその後の30年

それがバブルが崩壊して一変しました。バブル崩壊後は失われた30年とも言われ、デフレと結果主義が流行った事、数十年に1度ともいわれるリーマンショックという危機が起きた事から、企業も先行きが不透明になった事と、体力が削られた事もあり、特に中小企業では失敗を容認する余裕がなくなり若手にチャレンジさせるという機会が激減しました。

しかし危機はいつまでもは続きません。必ず上振れする時が来ます。問題は、その後景気が回復してきても育成マインドは変わらなかった事です。そのために結果的に2021年度の企業の内部留保が500兆円(9年連続で上昇)という金額になっているのです。これは2019年から発生したCovid-19の経過を加味した結果です。

つまり今と昔ではチャレンジの回数が全然違うのです。このツケが今になって表面化してきたのではないでしょうか?

プロジェクトマネジメント能力を身に付けるためには

最初は簡単な事から

ではどうやったらプロジェクトマネジメント能力を身につける事ができるのか。何も実績が無い人がいきなりプロジェクトリーダーにはなれません。なのでファーストステップとして次の事をやってみましょう。

  • 他部署も絡む悩みを解決する

自部署だけではなくて他部署も絡むというのがKeyです。内容も大きな事じゃなく、普段の業務でちょっと不便に感じている事、もしくは改善したい事なんかで大丈夫です。あまり大きな事になると上司もOKとは言いづらいでしょう。複数の部署にまたがる飲み会の幹事なんかうってつけです。

他部署も絡む事の意味

他部署も絡む事で、別職種との横断的な調整が必要になります。ここを調整して最適解を見つける事が練習として最適です。大丈夫です、公式なプロジェクトじゃないので失敗しても自分の評価には関係しません。むしろ成功したら自分の評価が高まります。

言ってみれば、ローリスク、ハイリターンです。

この時のポイントは最終的なゴールを先に決めて共有するという事です。飲み会なら日にちを決める事です。ゴールを決める事で逆算して調整していくと、今の段階で何をやらなければいけないかが分かってきます。この時、他部署との調整も必要になる事もあるでしょう。そこを経験する事が重要なのです。小さな事からチャレンジしていって、自分の価値を高めていって下さい。このプロジェクトマネジメント能力は経験が絶対的に必要です。

プロジェクトマネジメント能力に必要な能力のまとめ

今回のまとめ

プロジェクトとは新しく何かを始める事がほとんどです。それは社長直轄の社運をかけたプロジェクトから、現場レベルの改善プロジェクトもあるでしょう。ただ自分1人だけでやれるものはほとんどありません。プロジェクトを遂行して行くためには他人に協力してもらい、仲間を増やしていかなければなりません。その為には経験が必要です。まずは身近な問題から解決してみましょう。もしくは先輩が担当しているプロジェクトに参加させてもらうのもいいですね。そうすれば実際にどんな形でマネジメントしてディレクションしているのかが分かると思います。

プロジェクトマネジメントに必要な能力は次の3つで、後天的に身に付ける事が可能です。

  • 全体俯瞰能力(問題発見能力、問題解決能力)
  • コミット力
  • 対話力

そしてプロジェクトマネジメント能力を身に付けるファーストステップは次の通り。

  • 他部署が絡む小さな問題や課題を他人を巻き込んで解決してみる

求められる結果を明確にして共有する。また対話によって仲間を増やしていく。その仲間に得意なタスクにをやってもらう。定期的に進捗チェックする。これを繰り返し進捗管理していく。こんな流れになるとかと思います。

特に私がいる医療業界はDX化が遅れています。今後、色々なプロジェクトが出てくるでしょう。経験するにはもってこいの環境です。小さな事から経験を積んで、いずれは会社の重要なプロジェクトに対してリーダーとしてディレクションする。そして上層部が期待する通りの結果を出せる。滅茶苦茶カッコイイと思うのは私だけでは無いでしょう?

さぁ、社内から一目おかれる人材になれるように、今この瞬間から行動してみましょう!