なぁ、自分の家族の中で癌になった人っておる?
お爺ちゃんが胃癌、叔母さんが乳癌になりましたね。なにかあったんですか?
いや、実はな、高校の同級が食道癌になってな。
そこそこ進行した状態らしくて今はChemo中らしいねんけど、かなりキツそうでな。
昔一緒にアホやってた同級が病気になったとなると、ちょっと自分事にも思えてくるわ。
もくじ
甲状腺癌(thyroid cancer)とは
甲状腺癌の種類
さてと、気を取り直して、今日は甲状腺癌についてや。
まずは甲状腺癌の概要についてや。
甲状腺癌は年間1.5万人程度が罹患(2013年度)して、死亡者は1,800人程度(2016年度)や。
甲状腺癌にはいくつかの病理学的分類があって、その中でも乳頭癌の頻度が最も高くて50~80%、濾胞癌、未分化癌が10%程度や。
高分化型腺癌、若年者、血行性転移が無いケースは予後良好なんやけど、肺転移を認めても進行は緩徐なんや。
検診の普及や超音波装置の向上もあって、微小乳頭癌の発見率も高くなってきてんねん。これが罹患者数が多い割に、死亡者数が少ない理由の一つやで。
甲状腺への転移もあるにはあって、この時の原発は腎癌や肺癌が多いと言われてるで。
個々の概要は次の通りや。一読しておいてや。
種類 | 内容 |
---|---|
乳頭癌 | 幅広い年齢に認められ甲状腺癌の90%を占める リンパ節転移も来すが進行はゆっくりで予後は比較的良い 1cm以下の乳頭癌は経過観察が勧められている 高分化癌だが一部は未分化癌に転化する事もある |
濾胞癌 | 甲状腺癌の5%を占める 血行転移を来しやすいが遠隔転移が無い場合は予後が比較的良い 高分化癌に分類される 濾胞腺腫と鑑別が難しい事がある |
低分化癌 | 全体の1%未満 高分化癌と未分化癌の中間的な癌 |
髄様癌 | 甲状腺癌の1%程度 甲状腺C細胞から発生する 両葉の上極側に多く分布しており好発部位でもある 遺伝性の場合もある |
未分化癌 | 甲状腺癌の1%程度 60代以降に好発 乳頭癌や濾胞癌からの悪性転化が多い 発育が早いため周囲への浸潤も早期におこし予後不良 |
悪性リンパ腫 | 甲状腺癌の1%程度 背景に橋本病がある事が多い MALTリンパ腫やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫などがある |
甲状腺の解剖と産生ホルモン
甲状腺の解剖
次に解剖や。知ってる人も多いかと思うけどおさらいやで。
甲状腺は甲状軟骨の下に存在する内分泌臓器で、被膜によって覆われてるで。
右葉と左葉があって、これらが中央で峡部と言われる箇所で繋がって正面から見たら蝶のような形をしてるんや。
加えて、背側上下左右に副甲状腺が1個ずつ存在してんねんで。

頚部リンパ節のレベル
これは頸部リンパ節の解剖や。画像診断の時は頸部リンパ節への転移の有無の診断が重要やから、覚えておくべき内容やな。
特に舌癌の場合は、Level2までの範囲で転移しやすいと言われとる。
ちなみに、レベルⅠ~ⅡとⅢ、Ⅵの境目は舌骨を、ⅢとⅣの境目は輪状軟骨を基準にするとええで。
ⅢとⅤA、ⅣとⅤBの境目は内頸静脈を基準にするんや。

- レベルIは、オトガイ下リンパ節および顎下リンパ節を含む
- レベルIIは、上内頸静脈リンパ節(顎二腹筋の上方)を含む
- レベルIIIは、中内頸静脈リンパ節(肩甲舌骨筋と顎二腹筋の間)を含む
- レベルIVは、下内頸静脈リンパ節を含む
- レベルVは、後頸三角リンパ節を含む
- 咽頭後リンパ節
甲状腺の役割
甲状腺の主な機能はヨードを取り込んで、甲状腺ホルモンを生産する事なんや。
甲状腺ホルモンはトリヨードサイロキシン(T3)やサイロキシン(T4)といったものがあって、新陳代謝、つまり脳や骨の成長、糖代謝、体温調節などの役割を担ってるんや。
ちなみに、T3は活性型ホルモンで、T4はT3の前駆体ホルモンなんやで。別名、貯蔵型ホルモンとも呼ばれとる。
甲状腺癌の原因と治癒率
甲状腺癌の原因
甲状腺癌の原因は不明な事が多いねん。ただ一部では放射線被曝、肥満、遺伝性が関係している事が分かってるで。
これはチェルノブイリからのデータだったり、85万人を追跡調査したデータから判明してるで。
他の危険因子は、喫煙、過度な飲酒、女性ホルモンなんかがあると言われとる。
甲状腺癌の治癒率
また5年生存率は以下の通りや。未分化癌はT4扱いでステージもⅣ期になって、かなり生存率が悪いで。
相対生存率で4%くらいというデータや。かなり低いな。
- 甲状腺(乳頭/濾胞)癌の5年生存率 ⇒ Ⅰ期:95.9% Ⅱ期:94.1% Ⅲ期:95.2% Ⅳ期:84.5%
甲状腺癌のTNM分類
次にTNM分類や。次の表の通りや。未分化癌は全てT4となる点に注意や。
TNM | 分類 | 内容 |
---|---|---|
T:原発 | T1 | 甲状腺に限局し大きさが2cm以下 |
T2 | 甲状腺に限局し大きさが2cm以上4cm以下 | |
T3 | 甲状腺に限局し大きさが4cm以上 または甲状腺外への前頚筋群への軽度の浸潤 | |
T4 | 未分化癌は全てT4 T4a:それ以外は甲状腺被膜をこえて皮下軟部組織、喉頭、気管、食道、反射神経のいずれかに浸潤 T4b:甲状腺被膜をこえて椎前筋膜、縦隔内の血管に浸潤している、または頚動脈を全周性に取り囲んでいる | |
N:リンパ節転移 | N0 | 所属リンパ節転移なし |
N1 | 所属リンパ節転移あり N1a:気管前、気管傍リンパ節転移 N1b:それ以外の中心領域リンパ節への転移 | |
M:遠隔転移 | M0 | 遠隔転移なし |
M1 | 遠隔転移あり |
他にStage分類もあるんや。特徴としてはStage分類に年齢が取り入れられてる事やな。高分化癌で45歳未満やとNの有無にかかわらずMの有無でStageⅠかⅡに分類されるねん。他は次の通りやで。
高分化癌(45歳未満) | N0 | N1 | M1 |
---|---|---|---|
T1~T4 | Ⅰ | Ⅰ | Ⅱ |
高分化癌(45歳以上) | N0 | N1 | M1 |
---|---|---|---|
T1 | Ⅰ | Ⅲ | ⅣC |
T2 | Ⅱ | Ⅲ | ⅣC |
T3 | Ⅲ | Ⅲ | ⅣC |
T4 | ⅣA or ⅣB | ⅣA or ⅣB | ⅣC |
未分化癌 | N0 | N1 | M1 |
---|---|---|---|
T4 | ⅣA or ⅣB | ⅣB | ⅣC |
さて、概要が分かった所で次に画像所見について話していくで。
画像所見
甲状腺癌の画像所見
次に画像所見や。
基本的に知っておいて欲しいのは、甲状腺腫瘍の画像診断においてファーストチョイスなのは超音波検査という事や。
もちろんCTやMRI検査でも分かるんやけど、良悪性診断や組織型までは難しいケースもあんねん。せやからCTやMRIは病期診断目的な事が多いで。
主な画像所見について記載しておくで。
US | CT | MRI | 他 | |
---|---|---|---|---|
乳頭癌 | 形状不整と境界不明瞭な充実性結節、内部不均一と微細石灰化を認める | 単純で低吸収、造影で高吸収 石灰化も認める | T1強調で軽度低信号、T2強調で高信号、造影効果あり | リンパ節転移している事が多い 遠隔転移の好発部位は肺 |
濾胞癌 | 比較的境界明瞭で石灰化はない | 単純で低吸収、造影で高吸収だが中心部に低吸収域がある | T1強調で軽度低信号、T2強調で高信号、造影効果はあまりない | 濾胞腺腫と濾胞癌の鑑別は組織学的診断による |
髄様癌 | 充実性腫瘤で粗大石灰化を認める事がある | 非特異的な所見の充実性腫瘤 粗大石灰化を伴う事がある | CTと同様 | 家族性の場合は両側性に発生する事が多い |
未分化癌 | 石灰化や壊死を認める | 巨大な不整形腫瘤 造影効果はあまりない事もしばしば 石灰化を認める事もある | CTと同様 | 周囲への浸潤傾向が強い |
悪性リンパ腫 | 均一な腫瘤 石灰化は認めない | 均一な低吸収腫瘤で造影効果は軽度 石灰化や壊死は認めない事が多い | CTと同様で拡散強調でADCの低下を認める | ドーナッツサインなどが有名 |
実際の症例
これは乳頭癌の症例や。
左側が単純、右側が造影CTの画像やで。不均一に造影される腫瘤と石灰化を認める事が出来ると思うで。
いくら進行が緩徐と言っても、やっぱり着実に進行はしてんねんな。


こっちは別症例でMRIの画像や。
同じ乳頭癌の症例なんやけど、こっちは嚢胞成分の中に充実性部分を認めるな。

乳頭癌のFDG-PET画像も載せておくで。高集積やな。肺転移もあるで。


鑑別診断のポイント
甲状腺腫や甲状腺炎 その他
次に鑑別診断について話していくで。
これは甲状腺腫や甲状腺炎なんかが挙げられるな。
鑑別ポイントとしては、悪性腫瘍は良性腫瘍と比較してADCの値が低い事が多いねん。ADCを見ておくと良いで。
種類 | 内容 |
---|---|
甲状腺炎 | 30代以降の女性に多い 原因は細菌やウィルス感染 ウィルス性は疼痛と硬い腫瘤で放置しても1ヶ月程度で回復する 細菌性は左側優位に発症し腫脹や疼痛がある 膿瘍を形成する事もありドレナージが必要な事もある |
甲状腺腫 | 過形成病変 女性に多い 良性病変だが増大すると手術的治療を行う事もある |
あとは急速に増大する点から未分化癌と悪性リンパ腫の鑑別が問題になる時があるで。
もちろん最終診断は組織診断になるんやけど、画像上は未分化癌は内部に壊死や石灰化を伴う事が多いから、そこで鑑別が可能な事があるわな。
頭頚部の他の悪性腫瘍
他の頭頚部の悪性腫瘍や。以下に載せておくから見ておいてーな。
まとめ
さて、今日は甲状腺癌についてレクチャーしたで。ポイントは2つや。
甲状腺癌の80~90%は乳頭癌で、早期に発見すれば予後が良い
CTやMRIで質的診断は難しく、超音波が有用(CTやMRIは病期診断で用いられる)
こんな感じやな。
甲状腺癌って、CTやMRIである程度の質的診断まで思ってる人も多いんやけど、超音波の方が形状や内部構造まで見る事が出来るから有用な事が多いねん。特に病変が小さければ小さいほどな。
ちなみに最終的な診断は生検などの組織学的診断になるで。
さて、今日はこの変にしとこかな。
ほな、精進しいやー!