もくじ
育成は現場の片手間でやる事ではない
教えるということ
以前、「育成方法」という記事を書きました。こちらにはどちらかというとコミュニケーションを含むマインドセットが中心でした。
今回は、もう少し深掘りして実際にどんな事をやっていけばいいのかという実践形式の内容を書いていこうと思います。
教えるということ
まず教える(育成する)ということは、どういう事かをもう一度考えていきます。教える事というのは「会社が成長するため」です。そのために後輩に仕事を教えます。これはどこの施設や企業でも行われている事ですが、その中で教えるのが上手い人がいたり、苦手な人がいたりします。教えるのが苦手な先輩にあたってしまったために、同じポテンシャルの若手でも1年後に差が出てしまった。
これは避けたい結果ですよね。可能なら若手のポテンシャルを最大限引き出した育成を行いたい。しかし専門部署を立ち上げるまでの人員の余裕は無いので今の人達でやるしかない・・・
ではどうすれはいいのでしょうか?
理想は誰でも一定の能力まで育てられること
10人いればそれぞれ能力値は違います。パレートの法則が有名ですが、これによると2人が優秀、6人が平均、2人が下位という割合になるそうです。この中で、優秀な人は自分で勝手に成長していくことが多いのですが、問題は平均的な6人や下位の2人をどう育成していくかになります。
この8名を上位2名の能力値に近いくらいまで育成出来れば、組織としての生産性はかなり上がります。家庭教師や塾の講師の経験がある人なら分かると思いますが、80点を90点にするのに対して、40点を60点にするのは割と簡単なのです。今の能力が低いからと言って、あいつは出来ないヤツだと早々に諦めてはいないでしょうか?
育成にバラツキが出ると起きる問題
人によってクオリティに差がでる
育成にバラツキが出てくると色々な問題点が出てきます。その中で一番の問題は「クオリティに差がでる」という事ではないでしょうか。同じ価格でも担当する人によって差が出ると信用問題になってきます。
これを防ぐために全員を一定レベルまでに育成する必要がありますが、どうしても個人の能力値に依存しがちです。しかし、これは育成側を教育したり、仕組み化する事である程度対応可能な事も多いのです。育成はやり方があるのです。
せっかくの高ポテンシャル人材が入職しても、それを生かしきる環境がなければ宝の持ち腐れになってしまうのです。
育成に差が出る原因
教える側と教わる側
これは大きく次の2つに分けられます。それは次の通りです。
- 教わる側の問題
- 教える側の問題
この2つのうち修正する事によって大きな効果を期待出来るのは教える側を教育する事です。それでは順に見ていきまよう。
教わる側の能力不足
まず教わる側の能力不足についてですが、これはそのままです。個々によって学力や能力に特徴があるように、読解力や理解力にも個人差があります。ある程度は教え方などでカバーできますが、それでも限度があります。最低限の読み書きや会話のキャッチボールが出来るかどうか、これは面接などの段階で見極めるようにしましょう。
また行間を読んだり雰囲気(空気)を読む能力は誰でも持っているものではありません。これらは非言語情報を読み取るという高度な能力でもあるのですが、中にはこの能力だけが低い人もいます。この能力が低いと本来の意味と違った解釈をして、不適切な発言をして炎上してしまう事もあります。
1番なのは、面接でこの人なら育てられるという見極めをする事です。とは言っても判断するのは中々難しいので適性テストを導入していない施設があれば、導入してみるのも1つの方法だと思います。
教える側の能力不足
一方で教える側の能力不足という問題もあります。一般的に中小企業は育成研修制度のようなものは整っていない事が多いです。これはどういう事かというと、自分が受けた教育方法をそのまま部下にも当てはめているという事です。そして、それに付いて来れない部下はダメなヤツとして認識されてしまいます。これには問題点がいくつかあり、
- 教育法が古い(時代や個々にマッチしていない)場合がある
- 1つだけの尺度で優秀or非優秀の判断がされる
- 1度でもダメの印象がつくと、そこから這い上がるのに難易度が高くなる
- 教える側の問題がある事に本人が気がついていない
こんな事があります。当然ですが、教え方によって育成結果が違ってくる事もあります。スパルタが好きな人に懇切丁寧に教えていても物足りなさを感じてしまいます。でも自分は丁寧に教わってきたのでスパルタのやり方が分からない。これらに共通する事は、教える側が1つの価値観でしか見ていないという事ではないでしょうか?
上司や育成者の普段の振る舞い
また、上司や先輩の普段の仕事への取り組み姿勢も重要です。自分が教わる側の立場になって考えてみましょう。若手の立場になって見たときに、今の自分から教わりたいと思えるでしょうか?
「あれこれ口は出すけど実際にやっている所を見た事が無い」「文句ばかり言っている」「他責思考」
このような人がいたら、その人から教わりたいと思うでしょうか?口ではマトモな事を言っていても、実際に行動が伴っていなければ信用しようとは思わないはずです。もしかしたら教え方に原因があったのに、「ちゃんと教えた」、「教えて出来ない方が悪い」など言って部下のせいにするかも?と思われるかもしれません。
自分が若手だった頃に嫌だった先輩を思い出してみて下さい。その先輩と今の自分が重なっている所は無いと言えるでしょうか?それだけ普段の行動や言動も重要なのです。
上司ガチャ
上司ガチャ失敗した。最近よく聞く言葉ですが、この言葉の背景には部下と上司の期待値に大きなギャップがある事が原因です。上司は若手への期待値があり、若手も上司に対しての期待値があります。そして若手から上司への期待値に対して満たされなかった時に上司ガチャ失敗と言われます。
上司ガチャの問題点は、双方がそのギャップに気がついていないという事です。簡単に言えば、若手は上司に対して期待しすぎているのです。また上司から部下への逆もしかりです。このギャップを埋めるために普段からのコミュニケーションが必要になります。コミュニケーションを通して上司、部下共にお互いの能力や価値観を知っておく事が必要なのです。
上司に完璧を求めてもそんなスーパー上司はいません。当然ながらスーパー部下もいません。上司、部下ともに何を期待しているのか、これを普段のコミュニケーションで埋めておく必要があるのです。
理想の上司については下記の記事に記載しています。参考に読んでみて下さい。
教える側を育成する方がコスパは良い
教える側を変える事で変わるもの
教わる側の問題は新入社員の度に発生します。一方で教える側を教育し一定の教育スキルを持ってもらえれば、翌年以降も同じだけの労力はは必要ありません。会社としてどちらがコスパが良いかと言われると明らかに後者です。簡単に言うと、採用される側にフォーカスした場合は1対1ですが、教える側の能力にフォーカスすれば、1対多数になるのです。
また採用のレベルを設定する事で、採用予定人数が満たせない可能性が高くなるというデメリットもあります。一方で入り口を広げて入社後に教育して補う形であれば、人数の確保はまだ容易になるというメリットもあります。
具体的な教え方
ここまで教える以前の事について記載してきました。これからは、実際にどう教えていけばいいのかを記載していきます。
- 分かりやすい言葉を使っているか
- 数回言ったくらいで覚えると思わない
- 期待をしない
- 仕組み化する
- コミュニケーションの回数を意識する
この5つを意識する事が必要になります。順に見ていきましょう。
分かりやすい言葉を使う
人は分からない言葉が出てくると、それを理解しようとしてその後の話しを聞きません。KPIとかオーソライズとか出てくると、それに気を取られます。結果、伝えたい事が何も分かっていないという状態になります。
「このサマリーみたけど、全然コアコンピタンスが分からないね。もっとブラッシュアップが必要だし、KPIやマイルストーンも再設定した方がいいよ。そっちの方が上層部に提案するときもアグリー取りやすいから。ちなみに関係各社にコンセンサスは取ってあるの?6ヶ月後にローンチ予定だからよろしく!」
何言っているか分かりませんよね。(分かる人は分かると思いますが・・・)
分かりづらい横文字を好んで使う人がいますが、これは相手が理解していない可能性が大なので注意して下さい。もちろん相手のレベルにもよりますが、よく言われる事ですがポイントは中学生でも分かるような言葉を使う事、本当にこれに尽きます。数回言ったくらいでは覚えない
ビリギャルの坪田さんの実験結果によると、人間がある例文を完璧に覚えるまで500回程度必要だったらしいです。なお添削指導をすれば20回程度までに減ったようですが、それでも20回は必要なので数回言った程度では覚えられるとは思わない方が良いです。(おまえ何回言えば分かるんだ? 500回 日経ビジネスオンライン)
よく2~3回言った程度で、さっきも言ったよね?と言ってしまう人を見かけますが、そもそも2~3回程度では覚えられないのです。根気よく教えていきましょう。
期待をしない
個人的にはこれが一番重要だと思っています。期待値のギャップの話をしました。これは相手に期待するという行為から発生します。
- これだけ教えたから出来るようになってるだろう
- メモも取っていたし、それほど難しくない内容なので任せても大丈夫だろう
上司(教える側)はこのような期待値があります。でも実はこれは上司側が勝手に期待しているだけなのです。教わる側からするといい迷惑です。
- 自分の能力はこれくらいだから、担当するならこれくらいの仕事だろう
実はこれも若手側が勝手に期待しているだけに過ぎません。そして期待値とは違った業務が割り振られると失望します。でも上司側からすると知った事ではありません。若手が勝手に期待して勝手に裏切られるといった事が起きています。
つまり相手に期待をしなければいいのです。期待の代わり応援をして下さい。教える事やサポートには全力を尽くすけれども、そこから先、どうやるかは部下や若手次第と考えるのです。この辺りは下記の書籍が参考になります。興味があれば読んでみて下さい。
一喜一憂はしない。こう考える事が出来れば、随分と気が楽になるのではないでしょうか?
仕組み化する
基本的に相手は人間なので、どうしても気分によってその日の浮き沈みがあります。俗に言うモチベーションです。これは教える側からするとどうしようもない事が多いので、出来るだけモチベーションが関係しないような育成方法を仕組み化しておく事をお勧めします。具体的には次の通りです。
- やるべき事をリスト化して期限を設ける
- 1日の中にスケジューリングしてしまう(後ろにも予定を入れてしまう)
- 誰かを巻き込む(制約をかける)
- 終わるまで寝ない(退社しない)
これらをやる事で、やる事が当たり前の状態にまで持っていきましょう。やらない事で何かしらの罰則的なものが連動すると更に良いです。スーツを着るのが面倒だからといって裸で出勤する人はいないでしょう?これは恥ずかしい(そして捕まる、怒られる)という罰則的なものがあるので、やらざるを得ないのです。
コミュニケーションの回数
また日頃のコミュニケーションが重要なのは言うまでもありません。何かを教える時に、日頃からのコミュニケーションがあるか無いかで、相手の納得度が違ってきます。またコミュニケーションを取る事でお互いの考えのギャップについて予め知っておく事が出来るのも上で述べた通りです。
日頃からのコミュニケーションについては1on1が有効です。1on1についてはこちらの記事にも記載しています。
エース級の人が教える側に回ると以外と苦労する?
教えるにも言語化が必要
いわゆるエースと呼ばれる人は自分の中で感覚というものを持っています。これはセンスとも言ったりもしますが、元々の能力も関係している事が多いです。
特に能力がかなり高く、今まで感覚でやってこれた人はその感覚を言語化して説明するのに苦労します。スポーツの世界での、「名選手名監督にあらず」がこれに当てはまるのかもしれません。ここが上手く言語化出来るかどうかで育成者や管理者として能力を発揮出来るかの分かれ目になるのではないでしょうか。
出来る人は出来ない人を見ると何で出来ないのかが分かりません。言語化が出来ているとどこに修正点があるかが分かるようになるのですが、感覚でやっている人には分からないのです。つまり自分が見ている世界は、相手が同じものを見ているとは限らないという事ですね。
まとめ
育成は十分に時間をかけるに値する事
個人的には育成については、現場のついでやるべきものでは無いと思っています。本来なら育成の知識やスキルを持っていて十分に経験がある人が担当すべきで、専門の部署があってもいいくらいだと思っています。
数年前にヒットした鬼〇の刃の鬼殺隊。これも実は育成部門が現場とは分かれています。見ると分かりますが、育成部門で一定のレベルに達してから現場に送り込まれています。育成部門は別にあるので、どんな新人が来ようとも対応する事が出来るのです。
ただそれが出来るのは大企業くらいで、一般的な企業では難しい事も多く現場と教育を兼ねている組織がほとんどだと思います。
新卒で入ってきた人達は最初の上司の影響を大きく受けます。育成が上手い上司に当たるかどうかは運の要素が大きいです。まだ20代であれば十分にリカバリー出来る時間がありますが、30代になってからでは難易度が高くなります。そんな若手を増やさない為に、育成する側として次の事を頭の中に入れましょう。
- 分かりやすい言葉を使う
- 数回言った程度では覚えない
- 期待はせずに応援をする
- 仕組み化してしまう
- 普段からコミュニケーションを取る
期待をしない事で裏切られる事も無くなります。つまり期待値のギャップが生まれません。なので部下の未達に対して冷静な態度で対応出来るようになります。冷静に自分の育成スキルの改善点を見る事が出来ます。それを繰り返していけば、いずれどんなタイプの新人でも育成出来るうようになすでしょう。
この中で参考になる箇所があれば是非トライしてみて下さい。