指示待ちか自立型か

若手育成時の課題

なぜ指示待ち型が出来てしまうのか

若手を育成していて面白いように2パターンに分かれます。自発的に動ける人と指示待ちの人です。割合的には支持待ちの方が多いのですが、この違いがなぜなのかがずっと分かりませんでした。職場内での教育方法は同じなんですが、指示されるまで動かない人がいる一方で、自分で考え相談しに来て行動に移す人もいるんですよね。

自立型の部下がいる組織

今自分が何をすべきかを考え行動に移す。自己判断せずに分からない点があれば聞きにくる。

こんな部下や後輩がいたらどうでしょうか?仕事が大分楽になりますよね。適切なレベルの課題を設定するだけで勝手に成長してくれます。上司としては最高の部下です。むしろ上司自身も結果を出さないと、追い抜かれてしまうかもしれません。

このような状態は組織内での健全な競争が起きていて理想の状態とも言えます。でもそんな施設ばかりではありません。大半は指示待ち部下に困っていると思います。

自立型のみを採用する会社

そんな中でも採用コストをかけてでも、自立型の部下のみ採用するという会社もあるようです。なんでも長期的に見ると、そちらの方がコストパフォーマンスが良いんだとか。

確かに入社してからの年月は長いです。そこに育成コストをかけるよりは、最初にコストをかけて自立型人材を採用して、勝手に成長してもらう。これも1つの方法なのかもしれません。ただこのような手法が取れる組織ばかりではないと思います。

主体性が無い事での問題点

主体性とはなにか?

自立型=主体性があるとも言えますが、そもそも主体性とはなんでしょうか?ちょっと抽象的な言葉なのでここでは、次のように定義したいと思います。

「課題や仕事に対して自分で考え行動する人」

つまり動くだけではダメで、考える必要もあるという事です。この自分で考えるというのが難しくしてしまっているのです。

主体性が無い事でどんな事が起きるか

では、主体性を持った部下や若手がいなかったり、少なかったりするのはどんな問題があるのでしょうか?

まず、指示待ち人材にはそれほど付加価値がありません。会社は利益を上げ続ける必要があります。なぜならこの利益から様々な費用を払うからです。そして新たに利益を生み出すのは指示待ちでは難しいのです。新しい企画や施策を打った結果で利益が増えていきます。そしてこれは自分で考える事が必要不可欠なのです。ルールを作る側と守る側と言えば分かりやすいでしょうか。会社はルールを作る側が欲しいのです。

ほかにミクロ的な事では、上司の細かい管理が必要になります。なぜなら言わないと動かないからです。そのため上司に時間的余裕が生まれません。しかし仕事は次から次へと出てくるので溜まる一方です。これを解消するために残業をする事もあるかもしれません。

次に責任感が育ちません。言われた事をやるというのは自分には責任が無い、つまり指示した側に責任が発生するというマインドです。クオリティというのは責任感とセットです。責任感があって始めて質を担保しなければという考えになるのです。受け身だとクオリティが上がらないのはこういう理由があるためです。

これらについては、以下も参考になると思うので見てみて下さい。

成長スピードにも影響する

また若手の成長スピードも主体性が関係している事が多いです。

仕事を覚えるコツは自分で考えているかどうかです。

主体的な人は次に何をすればいいのかを考えているので、その分吸収も早いです。仮に失敗した時も、事前に自分の仮説があるので、そことのギャップを修正すれば少なくとも同じ失敗しません。一方で主体性が少ない人は考えるプロセスが抜けているので、本質的な事が分かっていない事が多いです。そのため、どうしても同じ失敗をしたりして成長が遅い事が多いですね。

主体性のある人とない人

全体的にみると指示待ちの人が多いのは、下記の資料でも分かります。これはマイナビが出している「自分が主体性があるかどうか」というアンケート結果ですが、一般的に若手と言われる20代では半数以上が主体性が無いタイプと回答しています。アンケート対象が転職希望者という事を考えても、少なくない数字だと思います。(普通、転職希望者が自ら主体性がありませんと言う事はほとんどありません。転職に不利になりますからね。)

主体性がある人と指示待ちタイプの割合グラフ
調査方法/マイナビ転職来訪者を対象にインターネット調査。 実施期間2021年3月12日~3月15日、回答数1,260名

https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/datalabo/14

若手は自分の事を指示待ちタイプだと考えている。でも会社が必要としているのは逆のタイプ。このように、会社側と働く側、双方の希望のギャップが発生しているのが現状なのです。

主体性の有無が生まれてしまう原因

主な原因は学校教育?

ではなぜ、指示待ちタイプが多いのか。それは次の3つが考えられます。

  • プロスペクト理論(損失回避の法則)
  • 学校教育(義務教育)
  • 同調圧力

順番に見ていきましょう。

人は失敗を恐れる生き物

人は成功と失敗のどちらかを選択する場合、失敗しない方を選択する傾向がある事が実験から分かっています。これはプロスペクト理論の中の損失回避の法則という現象です。(プロスペクト理論 wikipedia

「1つだけの質問による心理学」というカーネマンによる有名な実験があり、これは次の2つからどちらを選択するかというものです。

  • 100万円が無条件で手に入る
  • コインを投げて表なら200万円、裏ならゼロ

上記の場合ほとんどの人が前者を選択する事が分かっています。つまりリスクをおかしてゼロになるくらいなら、手堅く100万円をゲットしようとという人が多いんですね。

これが仕事でも起きます。ヘタに自分で考えて失敗して評価を下げるよりも、示指された事をこなして着実に評価を上げる。このような心理状態が主体性が出てこない事に大きく関係しています。

義務教育の弊害

子供は6歳前後になると小学校に入学します。その後、中学校卒業までの9年間を義務教育の中で過ごします。小学校に入学するとまずはルールに従うように教育され、ルールから外れると指導されます。ここでは決められた事をやるように教育され、それを守れるのが良い子、はみ出し物は協調性が無いという評価になります。

ここで子供は自分で考える事を止めるのです。なぜなら自分で考えても何も変わらない世界が目の前にあるから。言い替えれば考える事を止めた子ほど優秀という評価になるのです。

保育園や幼稚園ではあれだけ自由だった子供が、小学校に入ると横並の世界になり、そして価値観がここで作られてしまうのです。

義務教育以降は

上記の通り小学校~中学校までは基本的に誰かが作った決まりの中で生活していきます。これは高校生まで基本的に変わる事はありません。この中で自分の考えが反映される機会はほぼありません。

授業なんかはその最たる例で、教師から学生への一方通行です。部活動もそうですね。そのため普通に生きていると大学受験(人によっては高校受験)まで自分の意志で選択する経験をしないのです。

このように、特に小学校までの人格形成期に横並び教育の結果が指示待ちが多く生まれる原因なのです。

ちなみに中学~高校生になると他人の作ったルールに疑問を持って、意図的に破る子が出てきます。見方によっては自分の意志を表示しているとも見えますが、一般的には素行が悪いという評価になります。

同調圧力

2つ目が、日本は同調圧力がやたら強いという事です。これは日本の地理的条件も関係していると言われています。

同調圧力が生まれる原因は、「皆同じ」という価値観です。これは日本が島国だった事が関係しています。極東の島国だったがゆえに、他の民族が入ってくる機会が少なく、多様性が育つ環境ではありませんでした。このような中で、何かに特化したいわゆる「はみ出し物」がいると、それは村八分の対象になり、生きていくのが難しくなる事を意味していたのです。つまり昔は「皆と同じ」というのは、生き残るために必要な価値観だったのです。

一方でアメリカは移民で出来た国なのでそのような事はありません。むしろ個々のキャラクターがを重視する環境で、自分の意見を言わないとそこにいる意味が無いという文化です。

今でこそインターネットによって世界が広がり個が認められる時代になりましたが、昔の日本はそのような環境ではなかったのです。

主体性があるかどうかの判断方法

主体性の有無を判断するには

主体性が無い人よりは、ある人を採用したい。では主体性があるかどうかを判断するにはどうしたらいいのでしょうか?

1つの参考になるのがチームスポーツの経験の有無です。このチームスポーツもある程度成績が良いチームであれば尚更良いですね。

というのもチームスポーツの試合中は状況判断の連続です。普段の練習では監督やコーチが正解と思われる事を教えてくれます。しかし試合中は違います。監督の声が届かない事も多い一方で、状況は刻一刻と変わります。一瞬の判断で勝敗が決まるかもしれないのです。この状態で悠長に監督やコーチに指示を仰いでいるヒマはありません。自分で考えて何をするべきかを決めざるを得ないのです。

これって主体性に似てるとは思いませんか?日々の業務の中で何をするべきか判断して実行する。まさに若手に求められている主体性そのもそのですよね。ただこの実行内容についても予め方向性を決めておかないと判断がおかしな事になります。

チームスポーツをやっていればいいのか?

ただチームスポーツをやっていればいいかと言うと、そういう訳でもありません。当然ながら試合中の状況判断の場面に出くわすように、レギュラーに選ばれておく必要があります。その中でもチームキャプテンのような纏める立場、判断しなけばいけない立場の人であれば尚良いですね。

そもそもある程度の強さのチームでレギュラーになる子は、練習段階でも監督やコーチから言われた事ばかりやっているのではなく、自分で考えて練習内容を工夫している子も多く、その段階で主体性を持っています。今のままでいいのか、ダメならどんな練習が必要なのか、自主練はいつやるのか。このような事を考えて自分の能力を上げていくのです。

これらから、チームスポーツでレギュラーだから主体性があるのではなく、主体性があるからレギュラーになれるとも言えます。

学生時代の活動について聞いてみると、その人がどんな人か分かるかもしれません。もちろんチームスポーツじゃなくても、刻一刻と状況判断が必要なスポーツなら大丈夫です。リアルタイムで相手と勝負しているものがいいですね。

重要なのは自分ではどうにもならない変数が絡んでくるという事です。これが状況判断を必要として結果的に主体性に繋がる事が多いのです。

主体性を身に付けるためには

主体性は後天的にも身につく

ではチームスポーツをやってきていない人は主体性は身につかないのか。そんな事はありません。では、なにをしたらいいのか?

これらから、いきなり大きな課題について主体性を発揮する必要はありません。まずは小さな事から実施してみましょう。

まずは小さな事から実施してみる

具体例として、まず目の前の仕事や業務をどうすればもっと少ない時間で終わらせる事が出来るかを考えてみるのが良いと思います。短縮する=生産性を上げるには何かを改善しなければなりません。改善するには、まず全体を把握して改善ポイントはどこにあるか考える必要があります。そして考えただけではダメで実際に行動が必要です。行動してみましょう。

今やっている資料作成を通常は1時間かかっていたものを50分にしてみる。診察可能人数を3人増やすにはどうしたらいいか?CT検査2件を増やすにはどうしたらいいか?リハビリ可能件数を1件増やすにはどうしたらいいかを考えてみる。どうしても必要な時間はあるので、導線を短縮してみるなどが出てくるかもしれません。それをやってみるのです。

どうでしょうか?上記の流れをやってみると主体性があるように見えませんか?

自分の出来る範囲というのがポイント

小さくてもこのような行動を継続していくと、いずれ周りからの評価が変わってきます。そして上司側からは自主的に動いているという印象になります。しかも自分の権限の範囲内です。この自分の範囲内とういうのが重要で、いきなり大きな改善をしようとしても上司はスルーします。入職1年目の若手が経営について改善点を提案しても、通常は本気にはしませんよね?本当に分かった上で提案しているのか?根拠が分からないからです。だから自分が把握している小さな事からスタートするのです。

この自分の権限内での小さな行動が結果的に主体性があるという評価になります。小さな事でもいいので改善点を見つけて実行してみるって事が1番効果的です。

まとめ

主体性を身に付つけてもらおう

今日のまとめです。

  • 主体性を持っている人が少ないのはプロスペクト理論と、義務教育、同調圧力が関係している
  • 学生時代にチームスポーツの経験がある人は主体性を持っている事が多い
  • 社会人になってからでも主体性は身につく(まずは目の前の小さな仕事の改善から)
今、上司の立場で部下に主体性を持ってもらいたいと考えている人は、目の前のタスクの小さな改善をするように指示してみて下さい。そして上がってきた内容を否定しないで下さい。否定すると部下はそれ以上改善案を持ってこなくなります。指示待ちに戻ってしまうのです。まずは認めてより良い案になるためにリードしてあげて下さい。

部下の達成感を継続して感じてもらう事が主体性を育む重要なポイントです。

主体性は必要なのか?

最後に、そもそも仕事において主体性は必要なのか?という点について考えてみましょう。

結論から言うと今後、主体性は必須の能力になります。今やChatGPTに代表されるAI化がかなりのスピードで進んでいます。これら機械の特徴はプログラムを組めばその通りにやってくれる事です。仕事の中で、いわゆる作業(特に考える事を必要としない事)はプログラムの最も得意とする分野です。

それに加えて日本は少子高齢化で労働人口が確実に減っていきます。一部では顕著になってきていますが、働き手が少なくなり機械に置き換えが進んでいます。

これはどういう事か?つまり仕事の中で作業と呼ばれる事はAIや機械に代替えされていく事を意味しています。その中で人間に出来る事は従来の業務に対して改善して生産性を上げる事だったり、イノベーションを起こす事です。これは指示待ちには難しく、主体性がないと難しいのです。

国外ではどうか?

ちなみに海外では基本的に主体性はあって当然と言われています。主体性が無い=自分の意見が無いというふうに見られ、雇う意味が無いという認識のようです。アメリカではレイオフが可能なので、雇用する意味がないと判断されると解雇されてしまうという世界で生きている人達です。今後、日本企業が外資に買収される未来が普通になりるかもしれません。そんな時に主体性が無いと解雇されるという事が実際に起こりえるのです。

それでも受け身がいいという人

それは個人の人生なので本人がその生き方やリスクを承知の上で納得していれば他人が関与する事ではありません。ただ受け身で高収入を得ている人はいません。生活レベルを上げたい、多く稼ぎたいといった人は自主性は持っていて当然の能力になる事だけは知っておきましょう。

まず自分はどのようになりたいのかをイメージする。その結果、主体性が必要であれば身に付けてもらう。どのような仕事人生を選ぶのかは個人の自由です。

目標を決めてそれに向かって進んでもらればいいのかなと思います。